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第1話

ようやく主人公の登場です


※この小説は書き貯め無し見切り発車執筆の為、更新は不定期となります。

 のんびりと続きをまって頂ければ………!


ガタゴト、という馬車特有の振動と音が体に響く。


ここはミーダ国へ向かう乗合馬車の中。私はその一番端っこに座り、偶然隣に座った乗客との会話を楽しんでいた。


偶然乗り合わせた人との、何気ないおしゃべり。こういうのは馬車移動の醍醐味のひとつだ。


「……それで、そうしたら侍女頭様がカンカンに怒ってしまわれて!そうしたら先輩が……」


今日の話し相手は、侍女服を着た可愛らしい少女だ。荷物を大事に抱えていることから見るに、主人の使いか何かの途中なのだろう。


普段は言えない仕事での愚痴を溢したら止まらなくなってしまったようで、先輩の話を続けている。


暫く相槌を打ちながら話を聞いていると、少女は何かに気付いたように「あっ」と声を漏らした。


「す、すみません!私ばかり話してしまって……」


「あはは、気にしないで。そういう話も新鮮で楽しいからさ」


「新鮮……ですか?」


「私みたいな旅の商人は、一人で旅して一人で物を売って、が当たり前だからね。商人ギルドに入ってはいるけど、基本は自分だけでの商売が当たり前だし」


だから。そういう複数人で働くからこその悩みは私とは無縁で、それ故に目新しく見えるのだ。


そういう訳だから気にしないで、と少女を安心させるように笑みを浮かべてみる。


……まぁ、私はフードを深く被って顔を隠している為、彼女には口元しか見えていないだろうけれど。


「……ん?」


ふと、馬車特有の音と振動が、だんだんと緩やかになっている事に気付く。


やがて完全に馬車は停止してしまい、何かあったのだろうかと窓から外を覗いてみた。


どうやら、関所に差し掛かったらしい。関所の兵士と御者が、何やらやり取りしているのが見える。


まぁ、暫くしたら動き出すだろう。そう思っておしゃべりを続けようとしたが、


「これより検問を行う!乗車客は皆、外に出られよ!」


私の鼓膜を震わせたのは、馬車が動き出す音ではなく、そんな兵士の言葉だった。


外からの声に、乗客達は「なんだよ急に」「ったく」とぼやきながらもゾロゾロと下車していく。


私達は一番端に座っており、他の人達が降りてくれないと動けない。下車していく人々を眺めながら待つことにした。


「検問なんて……前来た時は無かったはずだけど」


「おそらくですが、今ミーダ国で祝祭が行われているのが原因かと。その影響で警備が厳しくなってるのだと思います」


少女の言葉に思わず祝祭?とオウム返し的に尋ねると、彼女は目を輝かせて元気よく頷いた。


曰く、ミーダ国の皇太子が今代の魔王を討伐し凱旋を果たした為、国を上げての祝祭をしているのだとか。


成る程、確かにそれなら警備が厳重になるのも頷ける。と納得するが、頭の片隅で妙に引っ掛かる事があった。


「……今代の魔王って、そんな感じだったっけ?」


そもそも魔王というのは、文字通り魔物を束ねる存在の事だ。特定の個人を指す言葉ではなく、文字通り『魔族の王』という位を示す単語。


魔族の王。随分と大層な言葉ではあるが、行う事は人間の王族と変わらない。


唯一異なる点は、彼らは私達人間のように血統で王を決めるのではない、という点だけ。


もし魔王が死去したり隠居を宣言した際は、「国にいる者の中で一番優れた者」が次の魔王に選ばれる。


違うのは、本当にそこだけ。基本的には魔界(国家)を治め(魔物)を導く存在……人間の王族とあまり変わりはないだろう。


そしてそれは外交も同じ。“魔王”と聞けば問答無用で人間界を侵略しようとするイメージを覚えるが、それも誤りだ。


歴代の魔王全てが、人間の世界を脅かそうとしていた訳ではない。温厚な者が魔王を継げば争いを避けようと(魔族)を諌めるし、人間と友好的な関係を築こうとした魔王だっていたらしい。


人が治める国だって、王が変われば今まで友好だった国と戦争が起きたりする事もあるし、その逆もしかり。それをただ、異なる種族間で行っているだけの話だ。


だからこそ、違和感を覚える。


少なくとも私が旅をしながら得た情報では、今代の魔王が人間の領域を脅かそうとしていたなんて話は聞いてない。


旅の途中で何回か魔物に教われた事はあるが、それは魔王の意向に従わず暴れていたはぐれ者のような奴等だけ。


そもそも、魔王が本気で人間界侵略を狙っているのなら、私のような女が呑気に一人旅なんて出来るわけがない。商人ギルドから一旦帰還するように言われるはずだ。


「それは……私も分かりません。ですが、皇太子の婚約者である公爵令嬢が魔物に殺されたり、王都の人々が魔物に教われた事件が多発してまして……事態を重く見た皇太子は魔王討伐をご決断なされました」


「ふーん……。まぁ、向こうが代替わりして好戦的な魔王になったのかもね」


特に深く考えずに相槌を打っている間にも、乗客は次々と下車していく。やっと動けるスペースができ、私も侍女の少女と共に馬車から降りた。


見ると、先に降りていた乗客達が縦一列に並ばされている。列の先頭には関所の兵士が二人、乗客と向かい合うように立っていた。


ここに並べという意味だろう、慌てて列の最後尾に加わる。少女も私の後ろに付くように並び、全員が揃った事を確認し、兵士が声を上げた。


「これより検問を行う!難しい事はしない、この“真実の鏡”に顔を写しながら我らの質問に答えよ!」


そう言って兵士達は、列の一番先頭に立っていた人へ名前や所属を尋ねていく。


彼らの言った通り、特に難しい事はなかった。二、三個ほど質問し、問題なしと判断されれば馬車内に戻され待機する。


これなら特に手前と時間は掛からないだろう。後ろの少女はホッとしているようだが、私はフードの下で顔を曇らせた。


鏡……うん、鏡かぁ………。


少しモヤモヤしていると、不意に目の前にいた人が横へと逸れた。どうやら自分の番が来たらしい、二人の兵士がこちらを見やる。


先程声を張り上げた槍持ちの兵士と、“真実の鏡”とやらを抱えた兵士。鏡を持つ兵士はどうやら新人らしく、僅かに緊張の色が見られた。


対して、槍を持った兵士は手慣れている印象を覚える。滞りなく検問を行っている辺り、かなりの古参のようだ。


「フードを外し、鏡に顔を写されよ」


槍持ち兵士が、そう言って促す。


私は小さく溜め息を吐き、包帯で覆われた右手を伸ばしてフードの裾を摘まむ。完全に外してしまうのではなく、前の方を少し持ち上げるようにして、顔を晒した。


「……っ」


鏡を持った新米兵士が、息を呑んだのが分かる。ごめんね新入り君、でも、兵士を続ければコレよりもっと悲惨な物を見る事もあると思うから頑張って欲しい。


「……鏡を見て、名前と所属を答えられよ」


対して、槍持ちの方は流石ベテランだ。少し動揺した様子はあったが、すぐに業務中である事を思い出し、こちらへ質問を投げ掛ける。


言われた通り、“真実の鏡”とやらを見つめる。古ぼけた鏡が、私の顔を写し出した。


一言で言えば、悲惨な顔。……あぁ、造形がという意味では無い。自分で言うのも何だが、顔立ち自体は平均かその少し上辺りだとは思う。


では、何が悲惨なのか。それは私の右半面を覆う、ひどい火傷の跡だった。


額から頬にかけて刻まれている、火傷の跡。右耳が変な形に歪んで、頬にくっついてしまっている。右目は強く焼かれてもう使い物にならない為、医療用の眼帯で覆われていた。


髪の色は一点の曇りもない白。綺麗な色だが、純白であるからこそ黒ずんだ火傷跡が際立ち、余計に痛々しく感じる。


左半面には火傷が及んでおらず綺麗な事もまた、無惨さを際立たせていた。いっそ顔の全てが焼けていればいいのに、なまじ半面だけが無事なのが残酷だった。


「ティア・スキューマ。商人ギルド『セレーネ』に所属する、旅の薬売りです」


何事も無いように淡々と答える。火傷が気になるらしく、新人兵士がチラチラとこちらを見てくるが、私は特に気にならないので触れないでおく。


「魔法は使えるか?」


「特異属性魔法を少しだけ」


「ここに来た目的は?」


「行商の一環です。最終目的地はルブ国ですが、そこへ向かう支度も兼ねてここで商売させて頂ければ、と」


「……よし!問題は無い、馬車に戻られよ」


……本当に質問に答えただけで終わってしまった。まぁ察するに、嘘を言ったら鏡が何かしらの反応を示したのだろう。


フードを深く被り直し、兵士達に軽く会釈して馬車に戻る事にする。


車内の元いた席に座りなおす。少し待つと、侍女の少女も戻って私の隣に腰を下ろした。


乗客が全員戻った事を確認し、馬車はゆっくりと動き始める。外からは「ご協力感謝する!」という兵士達の声が聞こえてきた。


再び、ガタゴトという音と振動を鳴らしながら前進する馬車。話を仕切り直そうと、隣の少女に何か話を振ろうとして


「あ、あの……ティア、さん」


「うん?どうしたの」


「その……ごめんなさい!」


何故か、謝られてしまった。


「えっと……どうしたの?」


「あの、さっきの検問の時に私、後ろから鏡が見えてしまって……その………」


その言葉に、あぁ、と納得する。


先ほど検問の為に顔を晒した際、鏡越しに見えてしまったのだろう。


「気にしなくていいよ。むしろ刺激が強いもの見せちゃってゴメンね?」


「い、いえ!……あの、その傷は」


「小さい頃に火事でね。顔だけじゃなくて、右半分は火傷だらけだよ」


あまり重くならないように、茶化すような口調で右手をヒラヒラさせる。この右手に包帯が巻かれている理由も、顔と同じ火傷によるものだ。


「その……辛くは無いんですか?」


「うーん、まぁ幼い頃は色々言われる度に泣いてたけど、段々と慣れちゃったね。着飾らないといけない貴族のご令嬢とかならともなく、平民ならまぁ支障無いし」


頬を掻きながら答える。


何せ、この火傷とは長い付き合いなのだ。幼い頃はそりゃ相手の反応に一々凹んだりしていたが、十年以上もすれば流石に慣れる。


私が顔を隠すのは、余計なトラブルを回避する為だ。いくら私自身が慣れたとはいえ、周囲の人々が私の顔に慣れないのだから、こうやって原因を覆うしかないだろう。


特に子供。大人なら多少の陰口で済むが、子供の無邪気さは時として残酷だ。魔物だ何だと石を投げられた事も少なくない。


「まぁとにかく、私が顔を見られるのが嫌って訳じゃないから、気にしないで?」


「ぅう……ですが………」


しゅん、と肩を落としてしまう侍女の少女。


うーん困った。私は本当に平気だから、あまり気にしないで欲しいんだけど……


………あ、そうだ。


「うーん、じゃあお詫び?として少し教えて欲しいんだけど」


「は、はい!何でしょうか」


「なんか困ってる事とか、ある?」


「困ってること……ですか?」


「水仕事で手が荒れるとか、最近よく眠れないとか。そういうの、何かない?」


「えっと……その、私、髪がパサパサしやすくって、毎日お勤め前に髪を結うのが大変で……」


「なーるほどね、それじゃあ……」


ゴソゴソ、とフードを漁る。


今、私が被ってる白いフードには、頭部にふたつ、物を入れる為の袋がくっついている。袋は縦長で五十センチ程あり、まるで長い耳を垂らしたウサギのようなシルエットだ。


「んー………あった。はい、これあげる」


左耳の袋から、小指ほどのガラス瓶を取り出し、侍女の少女へと差し出す。


「これは……?」


「私が調合した香油。洗髪の後に塗るとパサつきにくくなるよ。髪だけじゃなくて肌にも使えるから、冬とかは手足に塗ってもいいかもね」


「わぁ、ありがとうございま……って!いいんですか!?大事な商品では……」


「大丈夫、それ試供品だから」


そう聞いて、少女は遠慮がちに小瓶を受け取る。


蓋を少し開けて香りを確認している。どうやらお気に召したようで、顔をほころばせてこちらへ頭を下げた。


「ありがとうございます!」


「どういたしまして。気に入ったんなら本品も是非。もしご希望なら、多めに調合して取り置きしておくよ」


もっとも、この香りの香油はかなり人気で、持ち合わせは今渡した試作品が最後だ。


国に到着し宿を取り次第、調合する必要があるだろう。


取り置きという言葉を聞いて、侍女の少女は目を輝かせながらコクコクと頷いた。これはお客様になってくれそうな予感だ。


「もしよければ、調合でき次第届けに行こうか?そんな難しいものでも無いから、夕方頃には渡しに行けると思うけど」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


「サービスの一環だから、気にしないで」


こっちにも相応の下心があるというのに、あまりにも純粋に感謝されると良心が痛む。


侍女や執事は基本的に、仕えているお屋敷に住み込みで働く事が多い。この子へ商品を届けるついでに、他の使用人達にも商品を売り込むチャンスになる。


先程聞いた職場の愚痴から見るに、先輩の侍女は手荒れに悩んでいるようだし、侍女頭さんは腰を痛めているようだ。軟膏と貼付薬を用意しておくとしよう。


「では、調合ができたらお城の裏門まで持って来て貰えますか?門兵さんには話を伝えておきます」


「……お城?」


裏門というのは、使用人が出入りしたり食材や日用品の搬入口に使われる場所だ。


主人はまず訪れない場所の為、使用人個人の用事はこちらで対応する事が多い。


そこに持ってきて欲しいという事は、つまり


「はい。実は私、ミーダ国のお城に……王族にお仕えしてるんです!」


ミーダ国初のお客様は、思ったよりも上等だったようだ。



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