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第31話


「うーん………」


とある日、ギルドハウスの食堂にて。サーリャは唸り声を上げていた。


口元に手を当て、机の上に置かれたソレ……依頼が書かれた紙を見つめている。


誰がどう見ても、何かに悩んでいる様子だった。


「……サーリャさん、何か困り事ですか?」


「あぁ、ノワール。いや、ちょっとね」


声を掛けてきたノワールへ、サーリャは見つめていた紙の内容を見せる。


そこに書かれていた文字とその意味を読み取り、ノワールは「あぁ」と声を漏らした。


「ヴィゴーレ国からの依頼ですか。しかもそれはまた……」


「えぇ、中々に複雑でしょう? 一応私とブラッドが行くつもりだけど、あと二、三人は人手が欲しいのよね。

 ノワール、どう?」


「遠慮します」


すっぱりと断るノワール。相変わらず人形のように綺麗な無表情であるが『興味無い』『面倒臭い』『ヴィゴーレの国風は苦手なんですよね』と顔に書いてあるのが分かる。


それを見たサーリャは「そう」と相槌を打った後、何か悪戯を思い付いたように吊り上がる口角を隠して


「あーあ、じゃあ仕方ないわね。代わりにティアでも誘おうかs」


「行きます」


言うと思った。


先程から一転、食い気味に返答するノワールに、サーリャは呆れたように笑みを溢すのだった。



__________




私、ティア・スキューマが“赤のギルド”としての初任務をこなしてから、それなりに月日が経った。


あれからも数件の依頼をこなし、私もそれなりにギルド団員としての働きが板に付いてきた──のかもしれない。 


……まぁ、その依頼は全部予言書がある国からの、簡単なものなんだけど。


それでも、直近の依頼は一緒に来てくれた他団員の手をあまり借りる事なく、ほぼ一人で任務を完遂する事ができたのだ。


ノワール先輩が言った通り、少しぐらいは胸を張れるようになって来た気がする。


「……………」


そして。それだけの回数をこなせば、自ずと自分の弱点というか、足りない所が見えてくる。


まだ新入りである私が足りない所だらけなのは事実だが、とりわけ目に付いたのは自衛能力の低さだった。


ファルベ国でもそうだったが、容疑者が逆上して襲いかかって来たりとか、そういう時にどうしても反応が遅れてしまう。


私は体術に優れている訳ではない為、魔法に頼る事になるのだが……如何せん私は魔導士ではない。魔力の扱いが手慣れてる訳でもなく、また魔力量も中の中から中の上と、そこまで多くはない。


自衛能力の低さ。ひいては魔法の扱い方が下手、不慣れである事。


これらを改善する為に、暫く前から私は色んな人達に相談し──


「む、ぐぐぐ…………」


そして、現在に至る。


場所はギルドハウスの中庭、厨房の勝手口近く。


眼の前には、山積みにされた野菜。畑で取れた物をそのまま運んで来た為、まだ土が付いたりと汚れている。


私は魔法を発動して数個の野菜を水と共にシャボン玉で包むと、ばしゃばしゃとシャボン玉を動かして野菜を洗い、土を落としていく。


勿論、シャボン玉はひとつだけではない。みっつよっつを同時に展開し、一気に複数を処理していく。


「ん、もうちょっとだよ。頑張れー」


私の様子を眺めながら、フェノンさんが声を掛ける。


彼女は得意の水魔法で、私の三倍ぐらいの量を既に洗い終えていた。


…………私がフェノンさんからこの鍛錬方法を聞いた時は「何だ、楽勝じゃん」と思ったが……これは、地味に、キツい。


野菜と水という、そこそこの質量が入ったシャボン玉を浮かし、その上で動かす。しかもそれを長時間。おまけに複数個。


鍛錬初日にはあまりのキツさに、暫く動けない程だった。なんか普段使わない筋肉を酷使した時のような、上手く言い表せないけどそんな感じ。


でもまぁ、これでもまだマシになって来た方だ。初日はふたつのシャボン玉を操るのだけで精一杯だった。


調合師としての仕事を終え、厨房が夕食の下拵えを始める際にそのお手伝いとして、この鍛錬を行うようになって数日。ようやくシャボン玉を増やして扱えるようになったのだ。


「っ、はぁ〜〜〜………」


最後の野菜を洗い終え、シャボン玉を解除した私は近くのベンチにドサリと座り込む。


いつの間にか乱れている呼吸と、額に浮かぶ汗。うっすらとした疲労感が身体に纏わり、手足が重く感じる。


「ん、お疲れ様」


それを見たフェノンさんは、いつの間にか手にしていたタオルを私へ投げてよこすと、勝手口を開き厨房へと声を掛けた。


「ママ、野菜洗い終わったよー」


「あらもう終わったの? お疲れ様」


フェノンさんに呼ばれて出てきたのは、焦げ茶色の髪をした女性だった。


彼女は、調理部署の主任に当たる人だ。名前は確か……マルティナさん。食堂で何度か顔を合わせた事がある。


「ティアちゃんもありがとう。今、お礼にマフィン焼いてるから、ちょっと待っててね」


そう言って、マルティナさんは私へ果実水が入ったグラスを差し出した。


お礼を言って受け取り、グラスに口を付ける。果物の爽やかな甘みと冷たい水が、火照った体に染み渡っていく。


ほぅ、と吐息が漏れた。


(……それにしても)


ちらり、と。果実水を飲みながら、私と同じようにグラスに口を付けているフェノンさんを見やる。


先程彼女は、マルティナさんの事を「ママ」と呼んだ。だが、どう見ても二人は似てないように思う。


父であるマオさんとは、癖毛の髪質やら瞳の色やら目尻の垂れ具合やら、遺伝を感じる部分は幾つかあったのに、マルティナさんとはそういうのが全然ない。


てっきり、フェノンの水色の髪は母から受け継いだものとばかり思っていたが、祖父母からの隔世遺伝なのだろうか。


もしくは………


(……人に歴史あり、だなぁ)


『自分の過去を知りたい』という目標が出来て以降、私は周囲の人々をそれなりに観察するようになった。


“赤のギルド”に入団してる人々は、やはりそれなりの過去を背負っている事が多いらしい。


予言(げーむ)に振り回されていたリゼやシン、母親と遺伝的な繋がりが見えないフェノンさん、人間と魔族の間に生まれたフロワさんと、ただ情報を並べてみただけでも皆、中々に壮絶だ。


───では、私は?


果たして、私が求めている私の歴史(かこ)は、一体どんなものなんだろうか。


疲れ切った体でそんな事を考えながら、私は甘酸っぱい果実水を飲み干した。



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