団員記録 No.●● 芦屋 裕弥
今回は本編1話+番外編1話の2話投稿となります。
こちらは番外編であり、タイトル通りユウヤの過去を軽く書いたものとなっております。
リゼの過去についての補足的なお話となっておりますが、特に読まなくてもお話的には問題ありません。
それこそ、裏設定的な物と思って読んで頂ければ……!
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜!!!」
「…………」
「嘘………ウ゛ソ゛で゛し゛ょ゛そ゛ん゛な゛ぁ゛〜〜〜〜!!!!」
「……………………」
「あ゛ぁ゛〜〜〜、私゛が゛……私゛が゛この手でリゼちゃんをぉ〜〜〜〜」
「………五月蝿ぇんだよさっきから!!」
隣で奇声を上げ続ける姉に耐えきれず、俺は声を荒げた。
ちなみにここは自宅のリビング、時間帯は土日の十一時頃。まだ近所迷惑を考える時間ではないが、とにかく喧しい。このままでは俺の鼓膜が死ぬ。
姉貴はそんな俺の怒りなどどこ吹く風で、本を抱えたまま「おつらい」「人の心がない」「どぼじでごんな゛ごどずるの゛おおおぉぉ」と言葉にならない嗚咽を漏らしている。
その本は『風奏の夜想曲』というゲームのファンブック。
本日発売であるこの本が先程配達され、ウキウキ気分で読んでいた姉が、突然静かになったと思ったらコレだ。正直かなり鬱陶しい。
いっそ自室に戻ってやろうかと思ったが、俺の部屋は電波が悪くWi-Fiが上手く繋がらない事がたまにある為、データ制限回避の為にリビングでスマホをいじるしかなかった。
もう、自室に戻ってくんねぇかな、この姉貴。
「こんな……こんな裏設定を知ってしまったら、もう今夜の風奏二周目HARDモード実況配信できない………。どんな顔でリゼちゃんと戦えばいいの…………」
「知らねーよ、普通に倒しゃいいんじゃねぇの」
「あ゛ぁ〜〜、この弟も人の心が無い〜!裕弥の鬼畜〜〜〜〜!!」
ファンブックを放り投げ、ソファに突っ伏す姉。
……こんなんがチャンネル登録者100万人超えのVチューバー、雪女 六花の中の人だって知ったら、ファンは幻滅するんだろうな。
そう思いながら、姉貴が放ったファンブックを手に取り、何となくパラパラと中身を見る。
『風奏の夜想曲』というゲームは、ファンタジー系によくある剣と魔法の世界を舞台にした乙女ゲ要素のあるRPGだ。
リアという孤児院育ちの女主人公が、魔術学園に通いながらイケメン達と絆を深めていく。卒業後は国の魔術士団に入団し、『蒼月』という謎の組織を追う任務につき……何やかんやあって最終的には国を守る、という物語。
ビジュアルやイケメン達との恋愛パートは完全に女性向けの作りをしているが、ボス戦の難易度の高さからRTA勢や縛りプレイ勢等のコアな男性ファンも存在している。
かくいう俺も、姉貴のソフトを借りてエンディングまでプレイした事がある。特にラスボスであり主人公の姉であるリゼと、そのひとつ手前のボスであるゲイルとヴェントは中々手強く、歯応えがあった。
「あー………、成程?」
パタン、と本を閉じてテーブルに置く。
姉がラスボスの名前を呼びながら嘆いている理由が、何となく分かった。
ファンブック、というものは基本的にはキャラのプロフィールや設定資料、制作者のコメントやインタビュー内容が載っているのがデフォルトだ。
後はまぁ……開発の裏話というか、ゲーム内では明かされなかった裏設定。
この本にも、そんな裏設定のひとつが短編漫画という形で掲載されていた。
漫画のタイトルは『風奏の前奏曲』。ゲーム本編前の出来事を描いた、いわゆる第0話にあたる。
それは、ゲームのラスボスであるリゼとその幼馴染みであるシンの、幼少期の物語だった。
「なんで……なんでこんな………リゼちゃんがリゼちゃんじゃなかったなんて…………。
それにシン君も……意味深な言動しかなかったから、ワンチャン黒幕だと思ってたのに………」
一度落ち着いていた姉の嘆きが、再開する。
ただまぁ……少しだけ、その気持ちが理解できた。ファンブックにて公開された裏設定は、そこそこ衝撃的だったからだ。
まず、ゲーム内でラスボスとして出てきたリゼは本物のリゼではなく、魂入替の禁術によってリゼの肉体を乗っ取った祖母であること。
祖母は己の娘や孫の身体を乗っ取って永遠に生き永らえる事が目的であり、ゲーム開始時には既にリゼは身体を乗っ取られていること。
ここまででも既に重いが、さらにもう一人、激重な設定を追加されたのがシンというキャラだ。
ゲーム内において、シンは正直言ってよく分からないポジションのキャラだった。主人公であるリアが『蒼月』という組織を追うよう上司から命じられた辺りで登場し、その後も度々何か意味深なアドバイスを言う存在。
最初見た時は顔の良さから、後半でアンロックされる恋愛攻略キャラの一人かと思ったがそんなことも無く、かと言って敵対したり交戦する訳でもない。
ただ一応、その言葉に従って言われた場所に行くとストーリーが進んだり、特別なアイテムがあったりした為、単なる誘導の為のNPCかと思われていた。
だが、ラスボスであるリゼを倒して迎えるエンディング。主人公達にボコされてもなお生きていたリゼの前にシンが現れ、これまた意味深な言葉を口にしてリゼを殺すといったシーンが挟まった事により、彼の存在や目的が一気に謎になった。
DLCや次回作への伏線では、というメタ的な考察から、主人公に実の姉を殺させるのは流石に忍びなかったのではないかという説、
果てはシンこそがこの話の黒幕であり、リゼがラスボスになったのはシンが仕向けたからでは、なんて疑惑まで出てきた程だ。
そんな疑問への回答が、ファンブックに載っていた。
ゲーム内にて、シンはリゼの魂を取り戻す為に独自に動いており、最後リゼを手に掛けたのも、これ以上リゼの尊厳を汚されない為の介錯だったこと。
キャラへの思い入れは特に無く、歯応えある高難易度ゲームとしてこの作品をプレイしてた俺ですら、正直うわぁと思った情報だ。
キャラ萌え主体で楽しんでいた姉貴からすれば、それこそ横っ面を引っ叩かれた気分なんだろう。
そんな姉貴の嘆きをBGMにスマホをいじっていると、ピロン、と軽い音と共にスマホが震えた。
画面の上部分に表情される、トークアプリの通知。お袋からだ。
「……おい、姉貴。親父とお袋、まだ帰ってこれないとよ。撮影長引きそうだから、昼飯はこっちで済ませてくれだと」
うちの両親は、メイクアップアーティストとヘアスタイリストとしてそれぞれ働いている。
撮影が長引いたり、遠くのスタジオで撮るから等の理由で、家に帰ってこれない事も多い。
今も、昨日の夕方から何かの撮影だって出かけたっきりだ。今日の昼までには帰るから久しぶりに外食でもするか、と言ってたが、どうやら無しになったらしい。
あ〜あ、進路の事について話したかったんだけどなぁ。お袋が卒業した専門学校がどこか、とか、メイク科に男子生徒はどれぐらいいたか、とか。
「あ゛あ゛〜〜私普通にSNSでシン君黒幕の二次創作をふぁぼってたよぉ〜〜ごめんシン君リゼちゃん〜〜〜!!!」
「おい、聞いてる?」
「ううっ……頼む公式……リゼちゃんとシン君が幸せになるDLCを何卒………何卒ぉ………!」
「…………」
あ、駄目だコイツ。何も聞いてねぇ。
俺は溜め息を吐きながら、ソファから立ち上がった。これ以上オタクの断末魔を大音量で聞いていたら、本当に耳がイカレる可能性が出てくる。
「おい、出かけてくるわ。そのまま昼飯食べてくるから、姉貴も自分で何か食えよ」
「う〜……!」
了承の返答なのか、それともまだ裏設定にのたうち回ってるのか。
よく分からない呻き声を聞きながら、俺は外出の準備を整え、玄関を潜った。
───これが、姉貴との最後の会話だった。
「………あ?」
気付いたら、とある森の中にいた。
道に迷ったか?いや、にしてもこんな鬱蒼とした場所なんざ、自宅の徒歩圏内には無かったはずだ。
自分の居場所を確認する為に、ポケットからスマホを取り出して
「……あ゛?……………圏外、だと?」
右上に表情されたその二文字に、首を傾げずにはいられなかった。
確かにウチは東京や大阪に比べたら田舎だが、それでもそれなりに栄えた地方都市に住んでいた。十数分ぶらついただけで圏外になるようなド田舎では断じて無い。
だが、今俺の目の前に広がるのは、間違いなくどこかの森の奥深く。
(……熊でも出てきそうな雰囲気だな)
そう、俺が脳内で呟いた瞬間
───ガサッ、と
何かが木々を掻き分けるような音が、聞こえた。
咄嗟に、そっちの方向へ振り返る。
勘弁しろよ、こちとらひ弱な現代っ子だぞ。ガラが悪いだの何だのと喧嘩を吹っ掛けられて返り討ちにした事はあるけど、熊は専門外だっつーの……!
眉間、眉間か!?
眉間を狙えば良いのか?お!?
そう思いながら、その方向を注意深く見つめる。
聞こえてくる音は二種類。木々を掻き分け進む音と、何か重い物を引きずりながら歩くような音だ。
おいおい、まさか本当に熊か何かが仕留めた獲物を巣に持ち帰ろうとしてる訳じゃねぇだろうな……
身動きひとつせず息を殺しながらジッとしていると、やがてそれは俺の目の前に現れた。
熊。茶色い毛皮に覆われたその巨体は、間違いなく熊そのものだ。
テディベアなんて可愛らしいもんじゃねぇ。テレビのニュースでしか見ないような、鋭い爪と牙を生やした熊。
………うん、熊、なんだが
「………はぁ!?」
眼の前の状況が把握できず、俺は思わず大声を出してしまった。
眼前に現れたのは熊だ。それは間違いない。
けれど何というか……その熊は立ってなかった。四足歩行してたという訳ではない、ただ何というか………
……あぁ、もう面倒くせぇ、見たとおりに言おう。
仕留めた熊を抱えた女が、目の前に現れた。以上だ。
「わっ!? ごめんなさい、人がいるとは思ってなくって!」
熊を抱えた女は、慌てて俺へと謝罪した。
女、というよりは少女と呼ぶべきか。年齢は俺と同じ十代半ばから後半だと思うが……顔立ちが日本人とは違うからよく分からない。
……いや、つーか待て。この髪色に目の色、そして緑色のリボン、何処かで───
「あれ? 近くの村の人じゃない……?
あのっ、はじめまして、私リアって言います」
にこっ、と人懐っこい笑みを浮かべる茶髪の少女リア。
その言葉に、俺は『風奏の夜想曲』の世界へ異世界転移してしまった事を悟った。
その後、リアの話からこの世界が本来のあらすじから大分外れている事を知ったり、行く所が無いため俺とリアが同居する事になったり、
依頼を受けた“赤のギルド”がやって来て、一悶着あった結果“赤のギルド”に入団する事になるが……それはまた別の話。




