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第20話

ブルーノに誘われ、私達は彼の向かい側へ腰を下ろした。


四阿に備え付けられているテーブルと椅子。そこに座る私達の近くには、未だリゼの魔声によって思考を溶かされた女子生徒達が突っ立っている。


まるで、お茶会をしている主の側に仕える使用人達のようだ、と思った。


「さて、改めて名乗ろうか。

 僕はブルーノ・ゲルプグリュン。魔導士団長の息子であり、先程君達が言った通りファルベ王国に忠誠を誓った“影”だ」


「我々は異世界探偵事務所、通称“赤のギルド”と申します」


「赤のギルド………あぁ、先輩達から聞いたよ。マルグリット嬢が雇った人達って」


彼の言う先輩とは、昨日路地裏で対峙した三人の男達のことだろう。昨日の今日でもう情報が共有されているとは、流石王家直属の密偵部隊だ。


ともあれ、私達のことを知っているなら話は早い。


「えぇ、その通りです。我々は、テオバルド殿下からマルグリット様をお守りする為に動いております。

 ブルーノ様は、テオバルド殿下がとあるご令嬢と不貞を働いている事はご存知ですか?」


「うん、勿論。殿下がヴィオレッタ嬢と浮気してるのも、マルグリット嬢と婚約破棄しようとしてる事も。というか、報告したの僕だし」


「成る程、では詳細を説明する必要はありませんね。

 ……端的に申し上げます。ブルーノ様、どうか我々に協力して頂けませんか?」


「協力、って?」


ブルーノは不敵に、興味深そうに目を細める。私が言おうとしてる事を薄々察してるだろうに、あえて言わせようとしてる辺り、何と言うかイイ性格してると思う。


「来週行われる学園の創立記念パーティにて、テオバルド殿下はマルグリット様へ婚約破棄を迫るでしょう。その際、あらぬ冤罪をかけられぬよう、我々と共にマルグリット様を守って頂きたいのです」


「うーん、確かにマルグリット嬢は可哀想だと思うよ?でも、“影”である僕はあくまでも王家の味方だ。

 王家から見ると、確かに婚約破棄は体裁悪いし、ヴィオレッタ嬢個人はかなり問題がある。けど、彼女は公爵家の養女で家柄的には申し分ないし、ドゥンケル家と繋がりが強固になるのも王家的には悪くない。

 君達の話に、“影”()が乗るメリットが無いと思うけど」


「勿論、無償で協力しろ、とは言いません。我々に協力して頂けるのなら、相応の対価をお支払いします」


「対価? 王家の“影”を買収しようというのかい?」


「いいえ、金銭ではございません。もし、ブルーノ様が我々に協力して下さるのなら───」


そこで、微かに言葉を区切る。一呼吸置き、次の言葉がしっかりと彼に響くように、口を動かした。


「第一王子、ジョシュア殿下を治療する事を約束致します」


私の発した言葉に、今まで不敵な笑みを浮かべていたブルーノがピクリと反応した。


ジョシュア殿下。テオバルド殿下の二つ上の兄であり、現国王の第一子。彼の情報は、姿絵こそ掲載されてなかったものの、それなりに予言書に記されていた。


マルグリット様と情報の精査をした際にも少し触れたが、曰く『ジョシュア殿下は病弱であり、それ故に第二王子のテオバルド殿下が皇太子候補になっている』と。


だが、ジョシュア殿下が病弱というのは、厳密には誤りである。


第一王子が寝室から出てこれない理由は、幼い頃に盛られた毒が原因だと、予言書に記されていた。


この事については箝口令が敷かれており、知り得るのは現国王陛下と王妃殿下、第一王子を診た医者に一部の使用人のみだ。


弟の婚約者であるマルグリット様にも真相は知らされていない為、情報の精査した時は訂正せずにおいたが。


「………………」


ブルーノが口元に手を当て、黙り込む。


第一王子の治療。本来なら、それは勿論良い事だ。だが王家の“影”からの視点では、少し躊躇いを覚えるのだろう。


現在、ファルベ国はテオバルド殿下が有力な皇太子候補……皇太子となる事がほぼ確定であるが故に、安定している。第一王子は病床に伏しており、後継者争いによる派閥の対立など起こりようがないからだ。


ここで私達が第一王子を治療してしまえば、ジョシュア殿下を皇太子に…と推す者達が出てくるだろう。


そうすれば、城内は今までの穏やかさとは一転し、貴族間での諍いが起こる可能性がある。


実際、ヒロインが宰相子息と恋仲になる未来(ルート)では、ヴィオラが聖魔法にてジョシュア殿下を癒やしたが為に後継者争いが発生する事になる、と書かれていた。


本来なら、禍根にしかならないような私の提案。


だが、そんなリスクを呑むに値する大きなメリットが、そこには含まれている。


「……………っ」


それは、ブルーノも理解しているのだろう。


先程の不敵な笑みは完全に鳴りを潜め、口元に手を当て考え込む様子は至って真剣だ。


先程、ファルベ国はテオバルド殿下が皇太子になる事がほぼ確定してる故に安定してると言ったが、それは同時に不安要素でもある。


皇太子候補が一人しかいないという事は、逆を言えばその者がどんな暴君、どんな愚者であろうと、次代の王となってしまう、という事だ。


果たして、公衆の面前で婚約破棄を行い、無実の婚約者に冤罪を被せるような男が───いや、そもそも正式な婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢に現を抜かし、正式な手順も踏まず一方的に婚約破棄するような男が皇太子に、次期国王に相応しいのか。


“影”の調査により、マルグリット様自身は何の問題もないという結果が出ている。対して、浮気相手であるヴィオレッタは殿下以外の男とも関係を持つような女だ。


この状態で後者を選ぶような男を皇太子とすれば、正直言ってこの国の未来は明るくないだろう。貴族からの非難、国民からの信頼の低下は避けられない。


テオバルド殿下を廃嫡して他の者を皇太子にしようにも、現国王は女兄弟の中で生まれた唯一の男児であり、王兄や王弟は存在しない。


既に公爵家等に降嫁した王姉殿下や王妹殿下の子供達や、先代王弟殿下の息子……現国王の甥や従兄弟であれば王位継承権を持つだろうが、より激しい後継者争いが起こるのは目に見えている。


だが、ここで私達が第一王子であるジョシュア殿下を治療すれば。テオバルド殿下を廃嫡し、ジョシュア殿下を皇太子にするという手を取る事ができる。


勿論、多少のいざこざは発生するだろう。それでも、王妹殿下や王妹殿下の子供達から皇太子候補を選ぶよりかは、ずっと小規模で済む。


王家に忠誠を誓う“影”であるブルーノにとって、悪い話ではないだろう。


「……成る程、それは興味深い話だね。けれど、それ以上に僕には荷が勝ちすぎる話だ。ジョシュア殿下が関わるとなれば、流石に陛下のご判断を仰ぐ必要がある」


「えぇ、理解しています。勿論、陛下のご判断をお聞きしてからで構いません。もし、この提案を承諾頂けるのなら、こちらへご連絡下さい」


そう言って、私達が泊まっている宿の名前と部屋番号が書かれた紙をブルーノへ手渡す。


「うん、分かったよ。それと……こちらからもひとつ、条件を付けさせて貰ってもいいかな?」


「条件、とは?」


「なに、ただの報酬の上乗せさ。ジョシュア殿下の治療は、確かにファルベ王国の益になる報酬だ。けれど、僕には何の得もない。僕個人にもチップが欲しいな、ってことさ」


ニコッ、と不敵な笑みを取り戻すブルーノ。


彼の言わんとしている事を察し、私は息をゆるく吐いた。本当、この人はイイ性格をしている。


「ブルーノ様個人への報酬、ですか。具体的には何を?」


「うーん、そうだね…………君達を嫁に欲しい、ってのはどうかな?」


「はっ?」


ブルーノの突拍子もない発言に、思わず間の抜けた声が漏れた。


隣に座っていたリゼなんか、ガタッと音を立てて立ち上がった。逆毛を立てて警戒する猫のようだ。


そんな私達の反応を見て、ブルーノは「あははっ」と笑みを深めた。


からかわれた事を察し、コホンと咳払いをひとつ漏らす。


その音に冷静になったのか、リゼは眉を歪ませながらも再度椅子に腰を下ろした。


「……ブルーノ様、そのような御冗談はご遠慮下さいませ」


「はは、ごめんね。でも、あわよくばと思ってるのは本当。親父殿はそろそろ婚約者を、なんて言って来るけど、学園の女子生徒はみな貴族の令嬢で家のしがらみが面倒だろう?

 だから君達みたいな、特殊な魔力を持った平民の方が個人的に都合がいいのさ」


まあでも、とブルーノは呟いて、仕切り直すように姿勢を正す。


「どちらにも先客がいるようだし、馬に蹴られて死にたくはないからね。君達を貰うのは諦めよう。

 代わりに……君達の魔力が欲しい、とかはどうかな?」


そう言うと、ブルーノは懐から試験管を四本取り出した。コルクで栓がしてあるそれの中には、一見すると砂のような物が入っている。色の具合からして、おそらく、細かく砕かれた魔石だろう。


「これに、魔力を込めて欲しい。これでも魔導士の端くれだからね、君達の特殊な魔力には非常に興味がある」


「わかりました。ですが、ブルーノ様個人への報酬をお支払いするのであれば、そのチップ分の協力はして頂きたく思います。

 具体的には、ブルーノ様が知る情報の提供と、学園内でのマルグリット様の護衛をお願いしたく」


「あぁ、それぐらいなら構わないよ。正直僕個人としても、今のマルグリット嬢への当たりの強さは、見ててあまり気持ちの良いものでもないからね」


「感謝します。では、それをこちらへ。魔力を込めながら、話をお聞かせ下さい」


試験管をそれぞれ二本ずつ受け取った私とリゼは、コルクを外し、砂状の魔石へゆっくりと魔力を込めながら、ブルーノへと向き直る。


「さて、何から話そうか」


「そうですね……。ブルーノ様は先程のように、マルグリット様が他の生徒から被害を受けているのを目撃した事はありますか?」


「うん、あるよ。まぁ今回みたいに水をかける、なんて直接的なのは初めてだけど。基本的には教科書やノートを破ったり、空き教室に閉じ込めたりとかかな」


「その主犯格は?」


「そこのご令嬢達だよ」


ブルーノはそう言うと、いまだ私達の周りに突っ立っている四人の女子生徒を指差した。


「ブラオ伯爵令嬢と、ツィノーバァロート辺境伯令嬢、そしてその取り巻き二人。彼女達がイジメの主犯さ」


ブラオ伯爵令嬢とツィノーバァロート辺境伯令嬢。その名前は、予言書に載っていた気がする。


……あぁ、思い出した。確か、騎士団長息子ダニエルと、宰相子息オスカーの婚約者だ。


彼女達は、予言書曰く『目安』。ヒロインが歩む未来(ルート)が決定した時に現れる存在、との事だ。


もし、ヒロインが彼らと恋仲にならない選択をした場合、ブラオ伯爵令嬢はオスカーと、ツィノーバァロート辺境伯令嬢はダニエルとそれぞれ婚約を結ぶ事になる。


ヒロインがオスカーを選ぶならブラオ伯爵令嬢は現れないし、ダニエルと恋に落ちるならツィノーバァロート辺境伯令嬢は名前すら出てこない。


ジョシュア殿下と同じく、予言書に姿絵が載ってなかった為、気付かなかったが……彼女達がそうなのか。


「テオバルド殿下は、マルグリット様がこのような目に合っているとご存知なのですか?」


「うん、目の前でマルグリット様のノートが破られてるのを見た事もあったよ。我関せず、だったけど」


それはまた、随分な婚約者もいたものだ。


冷遇してる、という時点で褒められたものではないが、仮にも婚約者が害を被っているのを見て見ぬふりはどうかと思う。


「まぁ、百聞は一見にしかず、と言うしね。殿下が普段どういう対応をしているか、実際に見てみるといいさ」



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