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第18話

前回の更新からお待たせしてしまい申し訳ありません。

私情ではありますが、法事やら何やらで時間を取られ中々執筆ができずにおりました。


まだ暫くはゆっくり更新になると思いますが、ご了承頂ければ幸いです……!

次の日。


早めの朝食を摂りながら、私とリゼは今日の計画を立てていた。


王家の“影”、エマさんとキリカさん、ロートティフ伯爵家とトゥアキス侯爵家。それぞれに付けたカラスから、有益な情報はまだ送られて来ていない。昨日の今日なので、無理もないが。


とはいえ、完全に情報待ちで何か来るまで待機、という訳にはいかない。時間は有限なのだ。


グレード高いホテルの美味しい朝食を味わいながら作戦会議をした結果、「マルグリット様の通ってる学園内の様子を確認してみよう」という事になった。


私達の第一の目標は、マルグリット様を冤罪から守ること。


マルグリット様の「全てを知りたい」というリクエストや転生者というイレギュラーに対応する為、色々と調査をしてはいるが、そもそも大元の依頼は婚約破棄を突き付けてくる第二王子(テオバルド)殿下からマルグリット様を守ることだ、


その為には、学園で流れているマルグリット様の悪い噂……ひいては彼女が学園でどのような立場に置かれているかを知る必要がある。故に潜入してみよう、という事になった。


なった、のだが────


「オラ、動くな。アイラインがズレるだろうが」


「う、うさ…………」


何故私は、ドレッサーの前にプルプルと震えながら座り、ガラの悪い男から化粧を施されているのだろうか。


恐怖と混乱のあまり、調合室のウサギ達のような鳴き声が口から溢れてしまった。


「もうユウヤ、あまりティアをいじめないでよ」


「あ? いじめてねぇよ、こいつが勝手にビビってるだけだろーが」


「そういうガラ悪い所が怖く見えるんじゃないかなぁ」


「リアには嫌われてねぇから問題ねぇ」


ユウヤ、と呼ばれた男はリゼとそんな事を話しながら、見慣れない道具を使って私をメイクアップしていく。


今はアイライナー、という棒状の筆みたいな物で睫毛辺りをなぞられているのだが、目に入りそうで正直怖い。


見た所、ユウヤは私と同じぐらいの年齢。名前の響きと黒い髪や瞳から、ヒノモト人であるだろう事は、何となく察しがつく。


「ほら、終わったぞ」


そう声を掛けられ、ドレッサーの前から解放される。火傷の都合上、顔の左半分だけのメイクで済み、早く終わったらしい。


私が椅子から立ち上がると、入れ替わるようにリゼが鏡の前へと座った。今度は彼女が化粧をする番だ。


横にはけた私は、ドレッサーの隣に備え付けてあった大きな姿見を覗き込む。


うっすらと、けれど小綺麗な化粧をした私が身に纏っているのは、どこぞの高位貴族や王族に仕える者が着るような質の良い侍女服。


そして、今ドレッサーの前に座るリゼは、マルグリット様が通ってる学園の制服を着ている。


潜入の為に用意した服装だ。今まで着ていた冒険者風の格好では流石に目立つ為、学園に通うご令嬢とその侍女を装って忍び込もう、という話になった。


そして令嬢や侍女に扮するとなると、化粧をしたり髪を結ったり、それなりに見た目を整える必要がある。


その為、ギルドハウスに連絡を取ってそういう事に詳しい団員を呼ぼう、という流れになり、やって来たのがこのユウヤというガラの悪い男だった。


「で、リゼは貴族令嬢風にすりゃいいんだな?」


「うん、お願い」


リゼが頷くと、ユウヤは慣れた手付きでベースを塗り、瞼に色を乗せ、頬や唇をふわりと色付けていく。


リゼの顔の良さを引き出す為に、淡いピンク等ナチュラルな色を中心としているらしい。

パレットには似たような色が並んでいるが、ユウヤは「リゼはリアよりもブルベ寄りだからな……」と良くわからない事を呟きながら、リゼに合う色を選んでいく。


「ねぇ」


「んだよ」


「ユウヤって、もしかして転生者?」


ふと、疑問が口から溢れていた。


……昨日、お風呂に入りながらリゼから聞いた話によると、転生者の多くは『ゲンダイ』の『ニッポン』という国から来る事が多いらしい。


曰く、ゲンダイニッポンとは魔法や魔道具のような魔力が皆無な代わりに、機械や科学の技術が物凄く発達した世界とのことだ。


その世界は社会制度が遥かに成熟しており、私達の世界に比べ男女の格差が小さいという。


女性が政治に関わる職に就く事もあれば、裁縫や洗濯のような家事を男性がする事もある……男女間の垣根が私達よりも低い国がゲンダイニッポンであり、そこからやってきた転生者の特徴だと。


リゼから聞いたそれらは、ユウヤにそのまま当てはまる。


聞き慣れない言葉を呟き、見慣れない化粧道具を使いこなす。そして、男性なのに私達よりも化粧品に詳しく、メイクに手慣れている。


故に、ユウヤが転生者なのでは、と思ったのだが。


「あー………まぁ広義じゃ同じようなもんじゃねぇの。正確に言うなら俺は“転移者”だけどな」


手を動かしながら、ユウヤはそう答えた。


転移者とは、転生者と同じくゲンダイニッポンからこちらの世界に迷い込んでしまった漂流者だが、詳細が異なるらしい。


転生者が向こうの世界で一度死んで、こちらの世界の人間として生まれ変わった存在なのに対し、転移者は生きたまま何らかの原因でこちらに来てしまった存在、とのことだ。


このような転生者や転移者は“赤のギルド”にも何人かいるらしい。彼らはゲンダイニッポンの知識を使い、ギルドの業務を支えてくれているんだとか。


例えばギルドハウスの水道や照明といったインフラや、食堂で出される料理のレパートリー。私達が予言書が読めるのも、彼らが本の文字を翻訳してくれているから、らしい。


……考えてみれば、そうだ。予言書は異世界で作られた本なのだから、その内容も異世界の言葉で書かれているはず。


なのに、私は予言書をすんなりと読む事ができた。つまりあの本は、こちらの言語に合わせて翻訳された物という事になる。


普通の翻訳でさえ大変なのに、何の取っ掛かりもない異世界の言葉を訳すのは難しい……というかほぼ無理だろう。


だが、転生者や転移者なら容易に訳す事ができるはずだ。何せ、元々その言語を使って生活していたのだから。


「……ほら、完成だ」


私にあれこれ説明しながら手を動かしていたユウヤが、そう声を漏らす。リゼのメイクが終わったらしい。


いつのまにか、髪も綺麗に結われている。学園の制服を身に纏っている事もあり、今のリゼはどこからどう見ても完璧な貴族のご令嬢だった。


対して私は……顔の左半分は綺麗にしてもらったが、やはり右側の火傷が目立ってしまう。令嬢のお付きともなれば、侍女であれそれなりの見た目を要求されるが、この顔ではやはり違和感が拭えないだろう。


「で、後は仕上げな。おいティア」


「え? ───わっ」


不意に名前を呼ばれてそちらを向くと、ユウヤが手首のスナップだけで何かをこちらへ放った。


咄嗟に手を伸ばして、それを受け取る。蝶の意匠が施された、青く透明な小瓶だった。


「フロワからの差し入れだ。サキュバスの魔力を薄めて作った香水だとよ」


成る程。夢魔の『その者が最も魅力的と思う異性の姿に化ける』という特性を込めた香水か。


確かにこれがあれば、この酷い火傷が見られる事も無いだろう。ありがたく使わせてもらおう。


………というか。


「この香水使うなら、メイクする必要なかったんじゃ?」


「あ? 俺がしたかったからだけど?

 新しいアイシャドウの発色確認したかったしな。どんなタイプでもリアの為の練習台には最適だ」


こやつめ。


まぁ、綺麗にメイクしてもらったのは本当だから、良しとしよう。


だってほら。今までは火傷のせいで、自分を着飾るなんて考える事すらなかったんだから。




その後、光の扉でギルドハウスに帰るユウヤを見送った私達は、学園へと足を運んだ。


予言(げーむ)の舞台であるこの学園は、令息令嬢が通ってるだけあり、さすが万全の警備体制だ。


まず、敷地内には結界が張られている為、リゼのカラスを潜入させる事ができない。唯一結界が薄い箇所である校門には門番が立っており、不審者が校内に入らないよう見張っている。


学園内に潜入するには、何とかしてここを抜けないといけないだろう。


勿論、対策済みだ。私達は打ち合わせ通り、どこぞのご令嬢とその侍女です、と言った顔で門へと近付いていく。


門番の男が、チラリとこちらを見る。リゼが学園の制服を着ていた為、彼はただの生徒かと一旦スルーしかけ………リゼの顔をもう一度確認して、目を細めた。


どうやら、ここの生徒ではないと気付いたらしい。私達へ言葉を投げ掛けてくる。


「失礼、どちら様でしょうか。ここは王家や貴族のご令息、ご令嬢が通われる学園でございます。不審な者を通す事はできません」


門番にそう言われ、リゼは「あら」と声を漏らす。口元に手を当てる仕草は、指先まで洗練された貴族令嬢の動きだった。


「連絡が行き届いてなかったかしら……。私はシュヴァルツ帝国の第三皇女、リーゼリットと申します。

 来月からこちらの学園に留学する事になりまして。本日は下見も兼ねて、学園長様へ挨拶の為に訪問する、と連絡したはずですけれど…………」


そう言って、困ったように微笑むリゼ。


勿論、彼女の言葉は嘘だ。シュヴァルツ帝国という国は実在しているが、リゼはそこの皇女ではないし、皇女が学園に留学する事も、今日学園の下見に来ると連絡した事も、全て嘘。


本来なら、すぐに看破されてしまう虚言だ。だが、これをリゼが口にするとなると、話は違ってくる。


……リゼの事については昨日、お風呂に入りながら聞いた。とても複雑な話だったのでそれまでの経緯や詳細は省くが、彼女は幼い頃にセイレーンの魔力を体内に直接注ぎ込まれた事がある、との事だ。


その為、リゼの魔力とセイレーンの魔力が混ざってしまい、魔族の力を使えるようになった。だが生まれは人間である為、教会や聖魔法で“魔族の血を引く者”と認識される事はない……そんな存在らしい。


……偶然にも混ざってしまった、ではなく『注ぎ込まれた』という言い回しがどこか不穏だと思ったが、今は関係ないので置いておく事にする。


とにかく、リゼは人間でありながらセイレーンの能力を使う事ができる存在だ。


以前にも話したが、セイレーンは半人半鳥の姿をしており、美しい歌で船乗りを惑わして船を沈める魔物である。


歌、つまりは声に魔力を乗せる事により、それを聞いた者の精神力を弱らせ、幻覚を見せたり判断力を鈍らせる……それがセイレーンの特性だ。


「……あー、えーーっと……そういえば、そんな事を聞いた、ような………?」


魔力を込めたリゼの声。聞く者の脳を蕩かし、海底へ誘う破滅の美声に、門番の瞳が朦朧としていく。


……ちなみに。リゼの隣に立ち、彼女の声をもろに聞いている私だが、精神が蝕まれる心配はない。セイレーンの羽根には彼女らの歌を無効化する効果があり、ここに来る前にリゼから羽根を数枚貰って懐に忍ばせておいたのだ。


「あーーー……失礼、しました。どど、どうぞ……お、おおあお、お通り、ください…………」


完全に思考が溶けてしまったらしい。門番は焦点の定まらない目のまま、私達へと頭を下げる。


リゼは見事な令嬢スマイルを浮かべて門番に礼を言うと、校門を潜り敷地内へと入っていく。私も慌てて、その後に続いた。


「思ったよりもすんなりだったね………」


「うん。まぁ、実力行使にならなくてよかったよ」


さらっとそんな事を口にするリゼ。


いやまぁリゼは王家の“影”三人を相手に立ち回ってたし、それなりの実力はあるだろうけど、私は実戦経験皆無だからね?


「まぁ、ちゃんと潜入できた事だし……まずは聞き込み?」


「そう、だね。マルグリット様の噂についての調査。あと、テオバルド殿下とヴィオレッタの様子も確認したいかな。出来れば、他の攻略者達も」


確かに。マルグリット様に婚約破棄を突きつける第二王子と、その第二王子を誑かしたヒロイン……私達にとって敵ともいえる彼らの事も、調べておいた方がいいだろう。


「じゃあとりあえず、校舎の中に───」


校舎の中に入ろう。


そう紡ごうとした私の言葉を遮るように


「───キャッ!」


悲鳴のような声が、聞こえた。


それは本当に一瞬で、ともすれば空耳かと思ってしまう程に小さかったが、確かに鼓膜を震わせた。


私でも聞こえたのだから、人よりも耳がいいリゼにはもっと明確に聞こえたのだろう。声が聞こえて来ただろう方向をじっと見つめている。


「今のって……」


私達は顔を合わせて頷くと、声がした方向へと向かって走り出した。




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