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第14話

「……さて、マルグリット様。次に、我々の持つ情報の精査を行いたいのですが、よろしいでしょうか」


「精査、ですか?」


「はい。我々はマルグリット様からお手紙を頂いて以降、失礼ながらマルグリット様の周囲を調べさせて頂きました。

 ですが、短期間で集めた情報である為、ただの噂程度の信憑性しかなく、この情報が本当に正しいのか、我々には真贋の区別がつきません。

 なのでマルグリット様には、これらの情報が真実か否か、教えて頂きたいのです」


…勿論、私達がマルグリット様の周囲を調べたというのは嘘。本当は、実際に国で起こっている事と予言書の内容がどれだけズレているのか、それを把握する為の方便だ。


たしかに予言書の内容は、マルグリット様の話と大まかには一致する。だが、『予言書はあくまで指標だ』とシンが言っていた通り、食い違っている箇所も幾つか見られた。


例えば、マルグリット様が気にしている『幼い頃、テオバルド殿下が冷たくなった』という件。これは予言書の記載とは異なる。


本を読む限り、マルグリット様とテオバルド殿下の関係は、ヒロインであるヴィオラ・グラオ男爵令嬢が現れるまで、それなりに良好だったはずだ。


実際、ヒロインがテオバルド殿下以外と恋仲になった場合、マルグリット様はそのまま殿下の婚約者であり続ける。


それこそ、先程マルグリット様が言った通り、燃え上がるような恋は無いが、穏やかな親愛を築くような関係になっていたのだ。……本来なら。


そして、何よりも目立つ大きな差異。それはマルグリット様の性格だ。


予言書で書かれていたマルグリット様は、良くも悪くも高位の貴族令嬢らしい(・・・)性格をしていた。


気位が高く、貴族であることを自覚してるが故に、爵位の階級に厳しくやや傲慢のように見える、と。


だが、目の前の彼女は、予言書に記されているマルグリット・ファーブロスとはまるで違う。


貴族としての自覚はあるだろうが、厳しさや傲慢さのようなものはカケラも見られない。


どちらかというと真逆で、自分に自信が無いような……やや気弱な性格に見られる。幼い頃に殿下が素っ気なくなった原因が自分にあるのでは、と思い悩んでいるのがいい証拠だ。


………マルグリット様は、『ただ、知りたいのです』と言った。全てを白日の下に晒して欲しい、と。


なら、依頼主が希望された通り、全てを調べ上げるのが私達“赤のギルド”の役目だ。


この国で何が起きたのか、なぜ予言書との差異が幾つもみられるのか……それが分かれば、結果的にマルグリット様を冤罪から守る事にも繋がるかもしれない。


「分かりました。私が知る限りでよろしければ。エマ、貴女も知っている事があれば、遠慮なく口を挟んでちょうだい」


マルグリット様は私の言葉に頷くと、後ろに佇んでいた侍女へと声を掛けた。


エマと呼ばれた侍女は、主の言葉に「かしこまりました」と答える。


“赤のギルド”(わたしたち)の事を知って応接室まで案内したり、マルグリット様が経緯を話している間も室内にいた所をみるに、彼女もある程度の事情を主から聞いているようだ。


「では、まず……テオバルド殿下と逢瀬を重ねていたご令嬢について確認したいと思います。そのご令嬢とは、ヴィオラ・グラオ男爵令嬢という方でしょうか」


ヴィオラ・グラオ。予言書でヒロインとして書かれていた令嬢の名前だ。


よっぽど予言が外れてない限り、殿下の浮気相手は彼女しか考えられないが……


「………違います。…いえ、正確に言うと全く違うという訳ではないのですが」


マルグリット様がおずおずと答える。


どこか歯切れが悪いのは、難解な事柄をどう説明しようか考えながら話しているが故に、だろう。


「殿下と親しくしているご令嬢は、グラオ男爵の実娘、ヴィオラ様である事は間違いありません。

 ただ、彼女は幼い頃にドゥンケル公爵の養子となり、今はヴィオレッタ・ドゥンケルと名乗られています。私が幼い頃の話ですので、詳しくは分かりませんが…」


主の言葉を補足するように、侍女のエマさんが口を開いた。


「先代の侍女頭様から聴いた話ですが、当時のドゥンケル公爵の元へ、複数の有力家からヴィオラ・グラオ男爵令嬢を養女にしてはどうか、と名指しで打診があったと聞きました。

 いくら公爵家でも、力を持つ複数の家からの言葉を無下にできず、ヴィオラ様──現在のヴィオレッタ様を養女に迎え入れた、との事です」


…成る程。どうやら予言書だと男爵令嬢だったはずのヒロインは、現在では公爵家の養女になっているらしい。


ヴィオラ・グラオ男爵令嬢改め、ヴィオレッタ・ドゥンケル公爵令嬢。それが、現在でのヒロインの名前。


……予言書との内容と、全然違う。


彼女は男爵令嬢のまま学園に入学し、テオバルド殿下達と出会う事になるはずだ。


貴族の中では位が低い男爵令嬢であるヒロインが、殿下を始めとする高位の貴族令息と急接近したからこそ、

爵位の階級に厳しい性格をした本来のマルグリット様がヒロインに苦言を呈し、悪役令嬢としての立場を確立してしまう……という流れだったはず。


そして、ヒロインが第二王子と恋に落ちた場合、第二王子がマルグリット様へ婚約破棄を叩き付ける、と予言書には記されていた。


私はてっきり、その通りに進んでると思っていたのだが……ヒロインが公爵令嬢になっているとなると、色々と話は変わってくる。


(……そう言えば、シンが言ってたっけ)


再度、彼が言っていた事を思い出す。


確か『何かが起きない限りは基本的に予言の通りになる』『予言通りに進めば、“赤のギルド”に依頼が来る事はない』『ギルドに依頼が来る時点で、大なり小なりイレギュラーが発生している』だったか。


……つまり、そのイレギュラーとやらを突き止めれば、依頼が送られる事になった原因もおのずと明らかになる、という事だろうか?


……駄目だ、素人の頭ではいくら思考しても考えが纏まらない。今は情報の精査に集中して、後でリゼに詳しく聞こう。


「……成る程。では続いて、ヴィオレッタ・ドゥンケル公爵令嬢が学園内で殿下以外のご令息と必要以上に親しくしている場面を見た、もしくはそのような噂を耳にした事は?」


これは、ヒロインが誰と恋仲になろうとしているのかを確認する為の質問だ。


予言書曰く、ヒロインが辿るかもしれない未来(ルート)は、全部で六種類存在する。


第二王子ルート。騎士団長の息子ルート。宰相子息ルート。魔道士団長の嫡男ルート。上記の四人全員と関係を持つハーレムルート。そして、誰とも恋仲にならず終わるルートだ。


ヴィオレッタがテオバルド殿下と密会を重ね、マルグリット様との婚約破棄を画策している以上、現状は第二王子とのルートか、ハーレムルートかのどちらかに近いのだと思われる。


第二王子ルートなら特に問題はないが、もしヒロインがハーレムルートを選んでいるとなると、少し厄介な事になってくるだろう。


「…あります。ヴィオレッタ様はテオバルド殿下以外にも、複数の男子生徒との逢瀬を重ねている、と女子生徒の間では有名です。

 私も、ヴィオレッタ様がダニエル様やオスカー様と必要以上に親しくしている様子を、実際に目にした事があります」


「確認ですが、ダニエル様とは騎士団長であるロートティフ伯爵のご子息、オスカー様とは宰相であるトゥアキス侯爵のご子息で間違いないでしょうか?」


「はい、そのお二人の事です」


ダニエル・ロートティフ。そして、オスカー・トゥアキス。


その名前は、予言書の中にしっかりと書かれている。ヒロインと恋仲になるかもしれない男性……本での表現を借りるなら『攻略対象』として紹介されていた。


先程確認した通り、ダニエルは騎士団長の息子、オスカーは宰相の子息である。


攻略対象は全部で四人。その内三人と親しくしているという事は、ヒロインはハーレムルートを進んでいるのだろうか。


「そのお二人以外にも、ヴィオレッタ様との仲が噂になっている男子生徒はいますか? ……例えば、魔導士団長のご子息であるブルーノ様とか」


四人の攻略対象の内、今まで一度も名前が挙がってない残り一人の事を聞いてみる。


ブルーノ・ゲルプグリュン。魔道士団長の嫡男である青年だ。


この国では、王家に使える魔道士は基本的に騎士と同じ扱いであり、優れた功績を立てれば一代限りの騎士爵を賜る事ができる。


ブルーノはそんな騎士爵を持つ魔道士団長の息子であり、父親譲りの魔術の腕前を見込まれ、貴族ならざる身でありながら学園に入学した特待生、とのことだ。


「いえ、ヴィオレッタ様はブルーノ様とはあまり親しくないご様子です。他に噂になっている男子生徒ですと、レッテ様やロン様がいらっしゃいますが……」


レッテとロンという名前は、予言書には載っていなかった。いや、もしかしたら隅の方に書いてあったかもしれないが、少なくとも攻略対象とやらではない。


そして、本来の攻略対象であるブルーノとはあまり親しくないとの事だ。


……それにしても、実際のヴィオレッタは予言書に書かれているヴィオラとはだいぶ性格が違うらしい。


本には『優しい心を持った少女』と記されているが、他人の婚約者を奪うだけに飽き足らず複数の男との浮名を流すような軽い女だったとは。


「……もしかして」


ポソリ、と。リゼが小声で何かを呟いた。


あまりにも小さな声。隣に座る私がギリギリ聞き取れるレベルの音量だ。向かいに座るマルグリット様にはまず聞こえなかっただろう。


「あの、マルグリット様。つかぬ事をお伺いしますが……転生者という存在をご存知ですか?」


リゼの口から、聞き慣れない単語が溢れた。


転生者……始めて耳にする言葉だ。ニュアンス的に何かしらに該当する人を指す言葉なのだろうか。


マルグリット様は暫く、己の記憶を巡るように押し黙ると、やがてゆっくりと首を横に振った。


「すみませんが、存じ上げません」


「いえ、分からなくとも大丈夫です。些細な確認のようなものですので」


話の腰を折ってしまい申し訳ありません、とリゼは頭を下げながら、情報精査の続きを促すようにこちらへ視線を向ける。


(………転生者、か)


その単語に、何か引っかかる物を感じながら、私はマルグリット様に次の質問を投げ掛けるのだった。


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