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プロローグ 1/3

なろう初投稿となります!

書き留め等のない見切り発車となりますが、温かく見守って下さいませ!


このプロローグは、本編開始前の前日譚となります。

本編で後に登場するキャラは登場しますが、主人公は影も形もありません。

“赤のギルド”ってこんな感じの組織だよ…!と説明するパートとして読んで頂ければ幸いです。

「“慶雲”の巫女、ネフォス・ニュアージュ!お前との婚約を破棄する事をここに宣言する!!」


きらびやかなパーティ会場に、この国の第三王子であるエデュアルト・クライメットの声が響き渡った。


イクリム王国。


四方を山で囲まれ天候が安定しないこの土地を納める為に、初代国王が天候を司る神と契約を交わしたのが、この国の起こりとされている。


『どうか我等を荒ぶる空からお守り下さい。さすれば我々は国を上げて、貴方様を信仰致しましょう』と。


神はそんな人々の願いを聞き届けた。


国民の中から五人の乙女を選び出し、自らの力の片鱗を与えることで、人々を加護するように神託を下したのだ。


晴、雲、雨、雷、そして虹。それぞれの天気を司る五人の巫女。


巫女が亡くなった際には、数年以内に国の中から新たな巫女が現れる決まりだ。


神殿はとある方法によって新たな巫女を探し出し、選定された者は各天気に沿った巫女の務めを果たす。


晴を司る“澄晴”の巫女は、人々の心を明るく照らし導くように。


雨を司る“慈雨”の巫女は、草木を育て人々を飢えから守るように。


それが、ここイクリム王国で何百年も繰り返されてきたサイクルだ。


「な……エデュアルト殿下、今なんと……」


今、婚約破棄を突き付けられた彼女も巫女の1人であり、雲を司る“慶雲”の巫女と呼ばれる存在だ。


ネフォス・ニュアージュ。色素の薄い髪を腰辺りまで伸ばし、青空を閉じ込めたような瞳はつぶらで小動物を思わせる。


彼女は伯爵家の令嬢として生まれ、幼い頃からエデュアルトと婚約関係だった。その後に“慶雲”の巫女として選ばれたのだ。


巫女としてのお勤めもしなければいけない中、それでも王子の妃になる者としての厳しい教育を受けて来た。


第三王子とはいえ、王家に嫁ぐ為には相応のマナーや教養が必要となる。


それでも文句ひとつ溢さずにこなしてきたのに、なのに突然、婚約破棄を突き付けらた。


今までの努力を台無しにされたような気持ちがして、ネフォスは動揺を隠せない。


「聞こえなかったか?お前との婚約を破棄する、と言ったんだ。お前は巫女として選ばれた事を鼻にかけ、婚約者である俺を蔑ろにした挙げ句、肝心な巫女の勤めを果たしていないではないか!!」


先程のエデュアルトの婚約破棄宣言から、パーティ会場は水を打ったように静まり返っていた。


周囲の人々から奇異の目で見られ、ネフォスは小さく肩を震わせる。


元々、彼女は人々の前に立ったり誰かに注目されたりする事は得意ではない。


それこそ雲のように慎ましやかで控えめな性格の彼女は、この現状が怖くて仕方ない。

 

「わ、私はそのような事はしておりません…!」


震えた声で、何とか言葉を絞り出す。


実際、エデュアルトの発言は言いがかりや難癖と言っていいものばかりだった。


まず、ネフォスは巫女である事をひけらかした事なんて一度もない。


マナー教育や巫女のお勤めでエデュアルトとの時間が以前よりも減ったのは事実だ。

だが、それでも空いてる時間は出来るだけ一緒にいるよう心掛けたし、夜会等では常に彼を立てていた。


巫女のお勤めに関しても、決して怠ってなどいない。確かに“慶雲”は他の巫女と違ってあまり目立たず分かりにくい役目だが、ネフォスはそれを蔑ろにした事は一度だって無い。


全てはエデュアルトの早合点だ。だが


「白々しい!お前のような傲慢な巫女の言い分には聞く耳持たん!俺はお前との婚約を破棄し───」


言いながら、エデュアルトが右手を横へ伸ばす。


その先。人混みの中から一人の女性が表れ、彼の手を取った。


ネフォスは思わず息を呑んだ。


その女性が、自分が知っている人物だったから。


「“雷華”の巫女、サーリャを新たな婚約者とする事をここに宣言する!」


長く艶やかな銀色の髪に、血液のように赤い瞳。


『可愛い』という雰囲気のネフォスとはまたベクトルが違う、『美人』という言葉が似合う女性。


雷を司る“雷華”の巫女、サーリャがエデュアルトの隣に立っていた。


彼女はエデュアルトに腰を抱かれながら、ネフォスにチラリと視線を向けた。その口角は勝ち誇ったかのようにつり上がっている。


「サーリャ、さん……?」


信じられない、と言うようにネフォスは彼女の名前を呼んだ。


彼女は約一年前、今代の“雷華”の巫女として神官が連れてきた人物だった。


平民の出身であるサーリャは細かい事は気にしないサッパリとした性格で、他の巫女達とすぐに打ち解けていた。


ネフォスにも気さくに声を掛けてくれたし、自分より年下だからとネフォスを見下したりせずに

「巫女としては貴女の方が先輩だもの、色々教えてくれると助かるわ」

と笑い掛けてくれたのを覚えている。


「くす、ごめんなさいね、ネフォス。でも……」


だからこそ、信じられなかった。


「婚約者の心を留められなかった貴女にも問題はあるんだから、仕方ないわよね?」


そんなサーリャが、私から婚約者を盗んだなんて。


「彼女は役目を果たさないお飾り巫女であるお前とは違い、身を粉にしてその勤めを果たしている!先日も山から降りて来たワイバーンをその雷魔法で見事に討伐した!

 己が身を呈して民草を守るこの心意気こそ、まさに聖女の鑑!巫女という地位に胡座をかいているお前とは違う!!」


“雷華”の巫女の勤めは、国や民に害成す物を討ち滅ぼす事。魔獣や敵兵の討伐が雷を司る巫女の役目だ。


確かに、サーリャの巫女としての勤めはこの上なく分かりやすい。ネフォスのそれは彼女に比べると地味で分かりにくいだろう。


……けれど、別に役目を果たしてないだけではない。巫女という地位に胡座をかいている訳ではない。


そもそも、“慶雲”の巫女に選ばれた際に、婚約者であるエデュアルトには自分のお勤めの事を伝えたはずだ。


それなのにこうも責め立ててくるのは、あの時の会話を忘れてしまったのか。……それとも、あの時から既に、彼の心は自分から離れていたのだろうか。


それがとても悲しくて、ネフォスは自分の首に下げていたネックレス……巫女の証であるタリスマンを握り締めた。


「そもそも、お前が本当に“慶雲”の巫女であるのかも疑わしい!巫女に固執するお前の事だ、カネで神官の首を縦に振らせた可能性すらある!

 我が国では己を巫女と偽るのは重罪だ!よってお前は───」


「──そこまでだよ、エデュアルト」


エデュアルトの言葉を遮るように投げ掛けられた声。


ネフォス達のやり取りを奇異の目で眺めていた周囲の視線が、一斉に声の主へと向けられる。


そこにいたのは──


「あ、兄上……」


そこにいたのは、イクリム王国第二王子、アーティハルト・クライメットだった


「これ以上は巫女に対する侮辱を聞き流す言葉は出来ない。我が国において巫女は重要な存在だ。

 お前の勝手で巫女を傷付け天候神の加護を失ってしまったら、その責任を償えるのかい?」


「で、ですがネフォスは自分を巫女だと……」


「偽ってる可能性がある、って?それはお前の思い込みだろう。

 私は彼女が空水晶の色を変える瞬間をこの目で見ている。私だけではない、王太子である兄上も証人だ」


空水晶。


前述した、神殿が巫女を探す為に取る手段というのが、これだ。


空水晶というのはその名の通り空を閉じ込めたような色をした水晶で、イクリム王国でのみ採掘される。


一見するとただの水晶だが、この鉱石は巫女が魔力を込めると色が変わるという性質がある。


晴を司る“澄晴”の巫女なら赤、雨を司る“慈雨”の巫女なら青…といった具合に、各々の天気を示す色に染まるのだ。


先程ネフォスが思わず握り締めたタリスマンにも、彼女の魔力によって染まった純白の空水晶が埋め込まれている。


ネフォスだけではない。巫女達は皆、自分の魔力で染めた空水晶のタリスマンを付けるのが決まりだ。


勿論、サーリャの首にも黄色い空水晶のタリスマンが下がっている。


「……むしろ、私としてはサーリャ嬢が本当に巫女であるのかが疑わしいかな」


アーティハルトの言葉に、サーリャはびくりと肩を震わせた。


それに気付いていないのか、エデュアルトが兄へ噛みつくように吠える。


「兄上!巫女への侮辱は───」


「これは侮辱ではなくて疑問だよ。証拠も無いのに決めつけたお前と違ってね。……サーリャ嬢」


「は、はい……。何でしょうか……」


「貴女の首に掛けてあるタリスマンを、少し見せてはくれないだろうか」


「っ!」


ビクッ、と。先程よりも大きく、サーリャの肩が震えた


空水晶は巫女の魔力によってその色を変えるが、逆に色が変わった空水晶を元に戻す方法も幾つか存在する。


ひとつは、魔力を注いだ巫女が亡くなること。


もうひとつは、天の神と契約を交わした者の末裔───王家に連なる者の魔力に触れること、だ。


このどちらかの条件を満たせば、色が染まった空水晶は元の色へと戻る。


「お、お待ち下さい、アーティハルト殿下っ。先日にもワイバーン退治を行った通り、私は巫女としての勤めを果たしています。私が“雷華”の巫女である事は、疑いようのない事実で……」


早口でまくし立てながら、サーリャはタリスマンを隠すように握りしめた。


その様子を見て、アーティハルトは指先に魔力を集めながら一歩前へ出る。


かつん、という靴音が、静寂のホール内に響いた。


「疑いようの無い事実なら、問題は無いだろう?先日神殿に確認を取ったが、君が空水晶を染めたその瞬間を見た神官はいなかったよ」


天の神を奉る神殿。そこの神官達は、サーリャが空水晶を染めた瞬間をこう証言した。


『膨大な魔力の輝きに思わず目を閉じてしまった』『瞼を開けた時、空水晶は黄色に染まっていた』と。


一見すると、神官達が目を瞑っている間に水晶が黄色く染まったように思える。


だが、もしその輝きが意図的なら。


魔力があまりにも膨大すぎて光を抑えられなかったのではなく、神官達の目を欺く為に意図的に魔力を漏らしたのなら。


そして、神官達が全員目を閉じた瞬間。その隙にサーリャが空水晶を黄水晶(シトリン)にすり替えたとしたら。


その場にいる人物は、まるでサーリャが空水晶を黄色に染めた次代の巫女であるように見えるだろう。


「だから、証明していただきたいんだ、サーリャ嬢。貴女が本当に“雷華”の巫女であるのかどうかを。今一度、証人が多くいるこの場所で、ね」


かつん、と更に一歩踏み出す音。


近付いてくるアーティハルトに、サーリャは諦めるように肩を落とした。


首から下げたタリスマンを引きちぎるように乱暴に外すと、投げやりな態度でアーティハルトへと差し出す。


ずい、と目の前に出されたタリスマンの中央。空水晶がはめ込まれている箇所へ、アーティハルトは魔力を集めた指先を触れさせた。


空水晶。巫女の魔力で色を変えたそれは、王家の魔力に触れる事で元の色に戻る。そのはずだ。


……だが、サーリャのタリスマンは黄色のまま。アーティハルトの魔力に触れても、色を変える事はなかった。


つまり、サーリャは己の魔力で空水晶の色を変えたわけではない。


サーリャが巫女ではない事を、黄色い水晶はこれ以上なく証明していた。


その様子を見た周囲から、驚きの声が漏れる。


ざわめく人々。どよめきの声はさざ波のように反響し、ホールを埋め尽くした。


そんな波風を鎮めるように、アーティハルトは高らかに告げる。


「見ての通り、サーリャ嬢は巫女を騙る偽物だった!我がイクリム国では、巫女を偽る事は重罪である!即刻、その者を捕らえよ!!」



──────



「……はい、パーティはつつがなく終了しました。ネフォス様は、共に出席していた兄君と共に館へ無事帰られたそうです」


「そうか。ご苦労だった、ハイン」


側近からの報告に、労いの言葉と共に応える。


ホールでの騒動の後、アーティハルトは再開したパーティを横目に見ながらの一連の後始末をしていた。


と、言っても。ここまで事が大きくなってはもう、第二王子ひとりでどうにか出来る問題ではない。


自分が今できる事は騎士団がこの場に到着するまで偽巫女と第三王子を逃がさぬように見張るぐらいだ。


「……でもよー、アレだけでよかったのか?そのままの勢いでネフォス嬢に告白のひとつでもすりゃよかったのに」


「仕方ありませんよ、ガレス。そもそも我が主がそんな事ができるお方なら、ここまで初恋を拗らせてはいません」


そんな側近達の言葉に、アーティハルトは誤魔化すように咳払いをした。


乳兄弟であるこの二人が主をからかうのは何時もの事だ。…普段は気楽で良いのだが、こういう時は少し困る。


「………さて」


ふぅ、と息を吐いた。


そろそろ使者が国王陛下の元へ到着し、事情を話している頃だろう。陛下が騎士をこちらに向かわせる前に、もうひとつ片付けておかなければならない案件がある。


アーティハルトは2人の側近……ハインとガレスを伴い、貴賓室へと足を運んだ。


本来はパーティ中に具合が悪くなった者が休んだりする為の部屋だが、今は巫女を偽った不届き者を軟禁する為の檻となっていた。


扉の前に立ち見張りを行っていた騎士がこちらに気付き、礼をしようとするのを手を軽く上げて制する。


「サーリャ嬢にひとつ聞きたい事があってね。少しだけ中に入れて貰えないだろうか」


「はっ!?そ、それは……」


アーティハルトの言葉に、見張り騎士は難色を示した。


無理もない。騎士として、巫女を騙る犯罪者が第二王子に近付くのを許す訳にはいかないだろう。


だが、ガレスとハインを伴って入室する事、何かあったら直ぐに大声を出す事を条件に再度頼み込むと、見張り騎士は渋々と頷き「……お気をつけて」と頭を下げた。


もう一度息を吐いて、扉を開ける。


扉が空いた事に気付いたサーリャが、ソファにこちらに視線を投げた。


企みが暴かれて意気消沈しているのか、ネフォスへ向けた勝ち気な表情は見る影もない。


「────消音(silent)


最後に部屋に入ったハインが、後ろ手で扉を閉めると同時に消音の魔法を唱えた。


音消しの結界が室内を包んだのを確認して、アーティハルトはサーリャへと向き直る。


「もういいよ」


その一言を受け、サーリャはソファから立ち上がった。


滑るような優雅さでアーティハルト達の前へ立ち、ドレスの裾を持ち上げて頭を下げる。


誰がどう見ても、完璧なカーテシーだった。


「君のお陰で、ネフォスの名誉を守る事ができた。ありがとう、“赤のギルド”」


「勿体無きお言葉でございます、アーティハルト殿下」




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