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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編 69 親友が恋をした

作者: スモークされたサーモン


 これは思い付いてすぐに書き出せました。うん。変な話なのにね。


 オチも最初に浮かびました。ポヨンとね。


 ポヨンですよ、ポヨン。書けなくなってたのが嘘みたいでしたねぇ。




 親友が恋をした。


 相手はアマガエルだった。


 どうしたものか。





 ある日の昼休み。親友から相談された。高校一年生の夏休み明け。そこから少し経った辺りの過ごしやすい時節の事である。


「好きな人が出来た」


 親友は照れながらそう言った。元々無口な男だ。それが一言であるがそう言ったのだ。


 自分は普通に驚いた。驚いたあとに嬉しくなった。親友は誤解されやすい人間だ。ゴツい見た目に反して乙女な内面を併せ持つ愉快な男である。多分クラスの女子よりも遥かに乙女力は高いだろう。


 そんな見た目詐欺な親友に春が来た。いや、今は秋なんだけど。


「おめでとう。で、告白はしたのか?」


 親友は首を横に振った。


 まぁそんなことだろうとは思っていた。この男はシャイな野郎だ。告白なんて出来ようもない。


 それに、こいつに壁ドンなんてされたら大方の女子は小便漏らして命乞いをするだろう。そんな見た目である。


 だからこそ自分に打ち明けてきた。そういうことなのだろう。


「で、どんな人なんだ?」


「……実は人ではない。蛙だ」


 …………うん?


 変な単語が聞こえたぞ?


 親友は何を言ったのだ?


「……なぁ。もう一度言ってもらっていいか? どんな人を好きになったんだ?」


 この不器用で愛すべき男が好きになった相手……人なんだよね? 変なワードが聞こえてきたが……親友はそんな冗談を言う男ではない。そんなセンスも無いからだ。


「……蛙だ。昨日庭に現れた。一目惚れした」


「……そっすか」


 親友が恋をした。


 相手はカエルらしい。


 どうしたものか。





「いや、なんでカエルなんだよ! それは恋とは言えねぇよ! いや、確かに猫とか犬とかに一目惚れするとかは言うけどよ!」


 少し時間が経って落ち着いた。落ち着いたので突っ込みを入れることが出来た。


 なんて野郎だ。こっちは本気で悩んだというのに。カエルに欲情されたら本気でどうしようかと思った。親友ならばそういうこともあるかも知れないと本気で悩んだのだ。こいつは見た目に反してかなりの天然野郎でもある。


「……今、家で同棲している」 


「それは飼ってると言ってくれ! もしくは保護!」


 天然過ぎて困っちゃう。野郎は本気で言っているのだ。これも見た目のせいか。ゴツい見た目のせいで女の子との付き合いがほぼない。幼稚園の頃からこいつはこんな感じなのだ。心配で仕方無い。


 こいつ……童貞とかそんなレベルじゃない。妖怪仙人とかそんな訳の分からん存在になりつつあるんじゃないか?


「つぶらな瞳に一目惚れした」


「のろけか!? なんでそんなところだけ普通っぽいの!?」


 照れてる親友は酒に酔った鬼の如し。クラスのみんなも怯えながら遠巻きに見ている。まぁ仕方無いのだ。


 この前親友にぶつかった男子生徒がバイーンと弾かれて窓から地上に転落した。あれは廊下を走っていた男子生徒が悪いのだ。親友はただ立っていただけ。地上に落ちた男子生徒は半死半生で救急車で搬送された。


 教師の目の前での事故だったので親友は不問にされたが噂は立った。


『気にくわない生徒を掴んで窓から地上に投げ落とした』と。


 ……なまじ出来そうな感じがするから噂はあっという間に広まった。自分もその場にいなかった信じたと思う。


 それ以降、女子は決して親友の側に近付こうともしなくなった。食われるとでも思っているのだろう。確かに頭からボリボリされそうな見た目ではある。腕の太さとかおかしいし。太ももなんて女子の胴体よりも太いし。


 でも編み物もこなす乙女チックな野郎なんだぞ? 太い指で器用に編み棒を動かすのだ。見てると脳がバグる。認識阻害とかジャミングとかそんな感じを受ける。当の本人は編み物よりも織物の方が好きらしい。


 親友曰く、機織り機に向かうと心が落ち着くそうだ。


 そっすか。


 それしか言えない。


 さて、現実逃避はこれくらいにしておこう。


「で、そのカエルさんはどんなカエルさんなんだ?」


「……アマガエルのようだ」


「……ちっこいよな?」


「……かわいい」


 脳がバグるぅぅぅぅぅぅ!




 さて、照れて恐ろしい事になってる親友から目を逸らして現実を見てみよう。


 親友がカエルに一目惚れした。


 そして同棲している。


 かわいいアマガエルさんのようだ。


 ……。


 …………。


 ………………ふむ。


「今度見に行ってもいいか?」


「……水槽が」


「そういことかよ!?」


 どうやら恋愛相談ではなくカエルの飼い方を相談されていたようだ。親友は天然野郎。だがそういうところがまた魅力なのだろう。誰一人として共感してくれないが。


 放課後。ペットショップで適当な水槽とカエル養育セットを購入して親友の家にお邪魔した。


 親友の家は和風なお屋敷である。かなりの歴史を誇る家系だ。昔は武将とか輩出していたらしい。親友の見た目は覚醒遺伝、いや、隔世遺伝ということになる。親友の母親は小さくて可愛い感じの人なのだ。親子で歩いていると警察に囲まれる。子供を連れ回している巨漢ということで。


 そのぐらい差がある親子だ。天然具合では間違いなく親子なのだが。


 春になると警察の部署が変わるらしくて近辺ではこの騒ぎが春の風物詩になっている。毎年警察が大騒ぎしてお祭り騒ぎとなるのだ。親友の母親も中々に愉快な人なので『きゃー! 助けてー! 食べられちゃうー!』と楽しそうに騒ぐので本当に大変な騒ぎになる。毎年な。


 親友もこんな母親に育てられたのでもっとファンキーになっていても良いと思うのだが……。


「……蛙さんだ」


「……うん。アマガエルだ」


 親友の部屋に案内されミニチュア模型の中で寛ぐカエルを見て思った。なんだかとってもヴィクトリア~ン。


 ああ。こいつはあの人の子供なんだなぁと。


 ベクトルこそ違えどファンキーに振り切れてやがる。


 つぶらな瞳の小さなアマガエルがヴィクトリア~ンなミニチュアセットの中で幸せそうに寛いでいるのを見せられて……どうしたものかと悩んでしまう。


「……とりあえず水槽セットするか?」


 アマガエルはミニチュアセットにものすごく馴染んでいるが、カエルにはカエルに適した環境が必要であるとペットショップの店員は言っていた。


 水槽と砂利とその他諸々。


 ミニチュアセットの中で椅子に座りゲコゲコしているカエルには見えないアマガエルも一応カエルなのだから……いや、本当にこのカエルはカエルなのだろうか。


 ヴィクトリア~ンなミニチュアセットを見れば見るほど自信が無くなっていく。常識が破壊されていく。脳がバグる。


 カエルの王子様ならぬカエルのお姫様の可能性も見えてきた。なんかそれっぽく見えてきた。というかそういう風にしか見えない。


 この親友ならばそういう引きもあるのかも知れない。


「……なぁ。キスとかしてみたか?」


 もしカエルのお姫様ならそれで呪いが解けるかもしれない。親友もこのカエルを気に入っているようだし。そうなれば大団円だろう。


「……正気か?」


 ……そっすね。


 親友に本気で心配された。いまだかつてないレベルで心配される事になった。


 親友とその母親の破天荒ぶりに自分も少しおかしくなっていたようだ。カエルにキスとか確かに正気ではあるまい。カエルには基本的に毒があるというし。


 こうして自分は、死ぬほど恥ずかしい思いをした。


 カエルセットを仕掛けたのち、自分は親友の家をあとにした。親友は心配したのか家まで付き添ってくれた。その優しさがむしろ辛い。


 カエルさんはミニチュアセットが余程お気に入りなのか、水槽には見向きもしなかった。


 結局ヴィクトリア~ンなミニチュアセットを水槽に入れる感じになった。


 こうして親友のカエル相談はひとまずの終局を迎えたのであった。




 そして後日。


「……好きな人が死んだ」


 親友は目を赤くしていた。


「……カエルさんが旅立ったのか?」


 人間とは生きる速度が違うのだ。そういうこともあるのだろう。自分も驚いた後に悲しくなった。あの人間味に溢れたカエルさんが……。


「……猫が」


「……そうか」


 狩られたか。


 ……。


 ……。


 ……ん?


「猫なんて飼ってたっけ?」


「野良猫が部屋に……水槽で寛いでいた」


 ……。


 …………。


 ……うん?


 やはりなにかおかしくないか?


「野良猫が部屋に入り込んで水槽で寛いでいて……カエルさんは食べられた感じ?」


 状況がバグる。バグっているぞ。


「……潰されていた」


「……そっすか」


 親友は泣いていた。彼は優しき巨人である。たとえ愛する人を殺めたものでもきっと許して逃がしてしまったのだろう。


 そして残されたのはペチャンコになったカエルさんの遺体。


 えーと。つまりは猫が水槽に入り込んでカエルを潰して寛いでいたということでよろしいのかな?


 ……何が起きてんだよ! 


 突っ込みたいが親友はガチで悲しんでいる。自分は悲しみが吹き飛んでしまったが、親友にとっては大切な人を亡くしたに等しいのだ。


「その……御愁傷さまです」


 親友は泣いていた。男泣きである。クラスのみんなは怯えていた。自分も少し怖い。心優しき巨人はその日一日泣き続けた。


 ちょっとうっとおしくなってきたので帰りは親友の家にお邪魔することにした。今日はお泊まりする予定である。親にもそう伝えた。あとで着替えを持ってきてくれる予定だ。幼稚園の頃から家族ぐるみで付き合っているのだ。わりとよくあることではある。


 親友の家に着くとすぐにそれを発見した。


 庭にカエルさんのお墓が作られていた。小さなお墓である。墓標も作られていた。


『ミスターフロッグ。ここに眠る』


 ……。


 ……。


 ……オスだったんかい!?


 あまりの衝撃によって言葉を失った。呆然自失しながら親友の部屋に向かった。もはや何をかいわんや。


 親友の部屋には猫が居た。水槽の中で幸せそうに寝ている猫である。

 

 ……うん。世界がバグってるな。


「……居つかれた」


「……そっすか」


 猫は水槽の中。ヴィクトリア~ンなミニチュアセットの中で幸せそうに腹を見せて寝ていた。野生の欠片もねぇ。


 こいつがカエルさんを殺した仇。何となく……いや、なんか憎めないぞ? 腹を出して寝ている猫。


「……カエルさんはこいつに潰されたのか?」


 命を遊びで奪うのが猫である。それも狩りの練習だから責めることは出来まい。でも潰されたとなると……どうしたものか。


「仲良く一緒に寝ていた。だが……朝には……」


 親友はまた泣き始めた。


 そうか。


 つまり……事故だったのか。


 ……。


 ……。


 猫とカエルが一緒に寝てたのか?


 ……。


 ……。


 ……バグってるなぁ。


 まさかこんな展開になるなんて予想も付かねぇよ。この猫、本当にどうすんの?


「……とりあえず風呂に入るぞ」


 猫はあとで考える。今は泣いてる親友が最優先だ。


 親友は意外と泣き虫だ。昔から泣いてるときは一緒にお風呂に入って慰めるのがルーティーン。中学に入ってからはそれも無くなっていたが、仕方無い。仕方無いのだ。


 親友が怯えているが知ったことか。


「……せめて四十九日が明けてから……」


「うるせぇ! いい加減私を抱いて嫁にしろってんだ! カエルに惚れる前に私を襲えよ!」


 幼稚園からずっと一緒に居た。気付いたら側に居るのが普通になっていた。この優しき巨人である親友を守るために私の女らしさは消えていった。


 それを後悔したことはない。


 こいつに好きな人が出来ても私はそれでも良かったのだ。こいつが幸せであるのなら。


 でもカエルに負けるのは納得いかん!


 猫にも負けられん!


「おら! さっさと脱ぎやがれ! 風呂に入るぞごらぁ!」


「……優しくしてほしい」


 ……脳がバグる。こいつは天然だ。本気で言ってるのだ。本気で。


 その夜は色々と色々だった。お義母さんにも祝福されたし、荷物を届けに来てくれた親にも祝福された。


 まぁカエルに負けるわけにはいかないからな。


 つーかオスのカエルに負けられねぇよ。


 こうして優しき巨人は私の恋人になった。猫はとりあえず飼うことになった。


 秋が終わり冬になる頃には巨人も観念していた。





 親友に恋人が出来た。

 

 相手は自分である。


 どんなもんだい!




 今回の感想。


 なんか陳腐なストーリーやねぇ。どこかで見たような気もするし。オリジナリティがもっと欲しいわぁ。


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