第二十三話 悲しませないように
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光希が今日もいつもの強化トレーニングを行い、自宅へと帰る途中のこと。季節は梅雨から夏へとそろそろ入れ替わる頃、光希は梅雨の湿気に愚痴りながら徒歩で自宅へと向かっていた。
「ふぅ、もうすぐ夏だっていうのにまだ梅雨が明けないのか。ジメジメした空気はもう嫌なんだけどなぁ。」
そう呟きながら光希は今のところの現状について考えていた。
(あれから少しは力の使い方を理解できるようになったけど、まだあのルシフェルを倒すだけの力はない。それに他の悪魔達も倒せるかどうか不安な状態だしな。…そういえば、あの後から1度も襲っては来ないのは少し怪しいな。もう本来のシナリオとは乖離してるから何が起こるかわからないし注意しないと。とにかく今は少しでも強くなって絶対に誰も悲しい思いをしなくて済むようにする。それを絶対に守ることを自分自身に誓おう。それが俺が光希であるということだと思うから。)
そう思い光希はいつものように自宅へと戻った。
「ただいま〜っと。あれ誰か来てる?」
光希が家に入ると、玄関に家族のものでない女性の靴が置かれていた。なんとなく誰が来たのかを予想できながらリビングへと赴くと、そこには朱美と予想通り先程の靴の持ち主である桜崎はるが椅子に座っていた。
「おかえり、光希。」
「おかえりなさい光希くん。お邪魔してます。」
「あっどうも桜崎先輩、あーっとゆっくりしていってください。朱美姉、じゃあこっちは部屋にいるから。」
光希は2人がリビングにいるならばと、女性同士の中にいても何もできず居づらいだけなのが目に見えていたので自室に避難することにした。
「あっ、ちょっと待ちなさい光希。」
「…なに?朱美姉。」
「はるちゃんがあんたにお願いしたいことがあるんだって。」
「お願いしたいこと?」
「ねっ、はるちゃん。」
「う、うん。あのねもしよかったら私のことは桜崎じゃなくて、はるって下の名前で呼んでくれないかな?朱美ちゃんと光希くんを見てたらちょっと羨ましくなって。」
「…えっと、はる先輩でいいですか?」
「敬語もなしで!お願い!」
「っ、えーと、はる先輩これでいい?」
「うん!ありがとう!よかったら、これからはそうやって話してくれると嬉しいな!」
そういって満面の笑みで嬉しそうな顔をする桜崎はるに光希は押されつつも、下の名前で言うことと口調を砕けた言い方にすることをお願いされるのだった。
「……朱美姉、よくわからないんだけどなんでこうなったの?」
「はるちゃん前から姉弟に憧れがあったんだって光希みたいな弟がいる私が羨ましいっていうから、なら光希をはるちゃんにも貸してあげればいいかなって思って。」
「いや、そんなものを貸すみたいに弟を貸さないでよ。」
「私だって光希をそうやすやすと他人になんかに貸さないわよ。誰よりも大切に思って、誰よりも光希のことを分かっているのは私、光希の姉として私が1番なのは譲らないんだから!はるちゃんには2番目の姉としてならいいって許可したのよ。」
「…えっと、いや、ちょっと意味が分からない。朱美姉が俺に対してどう思っているかは、ちょっと置いておくけど、えっとはる先輩はその2番目の姉?になることを願ったの?」
「えっと、うん、そうなるのかな?私は昔から兄弟のいる人が羨ましくて、いつも朱美ちゃんと光希くんの気軽なやりとりとかも羨ましいと思ってたから。これからは私のことももう1人のお姉ちゃんだと思って頼ってくれてもいいから!私、頑張るから!」
「あっうん。分かった、よ。」
光希はよく分からないまま2番目の姉?ができ、そのまま自室に行くタイミングを失って未だにリビングにいた。光希は今までもこうやって桜崎はると一緒にいる機会はなかったしどうせならと、この機会に聞けることは聞いておこうと思い桜崎はるに質問をした。
「えっと、はる先輩。質問がある、んだけどいいかな?」
「?なにかな?光希くん。」
光希ははる先輩こと桜崎はるに対して、原作のシナリオとしてもずっと気になっていたことをこの際に聞くことにした。
「はる先輩のお父さんとお母さんって大丈夫?」
「…え?」
「なっ!」
光希は自分が桜崎はるの家庭を知っているはずがないことを失念して、思わずストレートに聞いてしまっていたことに焦った。
「ちょっと、光希!」
「あっいや、えっとぉ…。」
「もしかして、どこかの噂で聞いたのかな?私の家の周りでは声が聞こえてたみたいだし…本当に恥ずかしいことだけど…。」
「えっと、うん。はる先輩の両親が喧嘩してるって噂で聞いて…。」
「こらっ!光希!」
「あっ、ごめん、なさい。不躾なことを聞きました。」
「いいんだよ気にしてないし、うん、そうだよね。姉としているんだったらこういうことは内緒にはしないほうがいいよね。よし、なら光希くんにも聞いておいてもらおう。あんまり面白い話じゃないけど、聞いて欲しいな。いいかな?光希くん。」
「……うん。お願いするよ。はる先輩。」
そう言った後、はるは桜崎家の話を語った。ある時、小さな嫉妬からお互いに疑心暗鬼になりよく喧嘩するようになっていったこと、だけど今では落ち着いてきて一緒にご飯を食べるぐらいまでには落ち着いてきたことなどをはるは隠すことなく光希に語った。
「…あんまり楽しい話じゃなかったでしょ?けど、今光希くんや朱美ちゃんに聞いてもらってよかったと思ってるよ。なんだか私、今家族がまた良い方向に向かい始めたのは2人にあってからだと思うから勝手に感謝してたんだよね。それでその結果を報告できたみたいでなんだか嬉しいの。」
「なにそれ、けど本当によかった。お父さんとお母さん仲良くなってるんだね。あの時話してくれた時もちょっと心配だったんだから。」
「ふふふ、ありがとう朱美ちゃん。けど本当にもう大丈夫みたい、お父さんとお母さんも、もうあの時みたいに叫んだりはしなくなって昔のように一緒にどこかにお出かけができるようにもなると思うの。」
「本当に!よかったぁ。」
「もう朱美ちゃん。自分のことじゃないのにそんなに喜んで。」
「だって、はるちゃんのこと本当に心配だったんだからぁ〜。」
「ふふふ、もう。けどありがとう、朱美ちゃん。」
朱美とはるが仲良く話している時、光希は、今の話からどうシナリオが変わっていたかを考えていた。
(多分、桜崎はるの父親と母親のどちらかに植え付けられた嫉妬の種がなんらかの理由で弱まっていたりもしくは無効化しているんだと思うけど、それが何かがわからないな。これはハエルに何か知らないか聞いてみたほうがいいかもしれないな。)
そう考えてこんでいた時、
「ちょっと光希、はるちゃんの話聞いてた?まさか自分からお願いしておいて、聞いてなかったんじゃないでしょうね?」
「えっ、いやいや、聞いてた!聞いてたよ!本当に良かったなと思って。お父さんもお母さんも仲が戻っているみたいで。」
「うん、ありがとう。これも2人と会えたから変わったんだと思う。なんとなくだけどね。」
そういって笑う桜崎はるに光希はこれからも色々と考えないといけないことがあるが、1人は悲しませないようにできたのかなと思えたのだった。
小説を読んで頂きありがとうございました。
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