二章:第一の相手
NON-SCOREとして活動を開始した五人は初ライブとして誰でも出られるライブを選択した。リーダーはユヅキになり部活時代の知識を使ってライブ情報を入手した。一回ライブをすればあとはライブハウスに掲載されていたり、ゲストに呼ばれたり、主催、単独とライブをやるには苦労しなくなる。
初ライブの翌日#NON-SCORE、#ノンスコア、と学食を食べながら調べたユヅキ、チヨ、タイヘイ、サチは上々の出だしの感想にうなずいていた。感想には『ここに来るにはレベルが高すぎる』等そのレベルに驚く人が多かった。その中に一件気になるコメントがあった。
『五人の音に恨みの想いが聞こえる。それが無くなればもっと良くなる』
「これはどういう意味だろうか?」
サチの疑問にユヅキ、チヨ、タイヘイの三人は分からないという顔でそのコメントはスルーされた。
翌日からはミクもこっそりと大学に来るようになっていた。
「おねえちゃん……来て大丈夫なの?」
タイヘイに聞かれたミクは大丈夫と言うと図書館に入り浸ると宣言。自分が興味のある本を読み漁るようになった。ちなみに原因は寂しかったからだった。
「しかし、ミク。お前、なんかバイトしろよ」
ユヅキがミクに鋭く言う。ミクに貯金は無く、バイトもしていない。自分のキーボードは無く、キーボードは今のところその場で借りている。今日のご飯代はメンバー四人で払っている。
「……探してはいるんだけどなかなか見つからなくて……」
「……確かうちのコンビニ、深夜枠のオッサンが辞めることになったから枠が空くんだけど……」
チヨに言われて速攻応募したミクだったがバイトに受からなかった。
「ここまで受からないというのはある種の才能ではないかな」
「おねえちゃん……」
「ここまで受からないってすごいね……」
ここまで無言だったユヅキがスマホを取り出すとどこかに電話をかけ始めた。
「……というわけで一人雇えない……ですか」
普段の雑な喋りとは違い妙に丁寧な喋りでユヅキを除く四人はどこに電話しているか察しがついた。ユヅキがこうなる時相手は一人しかいない。
「じゃ、お願いします……」
電話を切ったユヅキはミクに向かって言う。
「ミク、お前、明日からいつものスタジオのお手伝いな」
そしてミクはNON-SCOREがお世話になり始めたスタジオのアルバイトとして雇ってもらえることになった。
ちなみに後日、ミクはバイトに落ちて落ちて落ちまくった自分を雇った決め手をオーナーに聞いたら『これからもごひいきにお願いします』と返されその意味が分からずその意味をユヅキに聞き『上手い商売してるな……あのオーナー……』と返され義弟のタイヘイに聞いて『アルバイトで雇ったんだから練習でもっと使えよ』という意味だと知り人質に取られた気分になったミクだった。
NON-SCOREとして二回目のライブイベントに出ることになった五人は申し込みを済ませるとサチの作った新曲をミクのバイト先のスタジオでやり込む。次のライブイベントには葉多商科大学の軽音部から一組が出るからかユヅキの気合の入りようが違う。
「ずいぶんな気合の入りようだな、ユヅキ」
サチに聞かれたユヅキは集中しすぎているのか答えない。リズムキープに加えてどこにアレンジとテクニックをぶっ込むか考えている。曲を壊すことはできないので影響のない場所はどこか。少し叩く量を多めにしたりも考えていた。
「……ユ・ヅ・キ!」
「おわ!」
サチが珍しく大声を上げ、それに驚いたユヅキもまた悲鳴を上げた。
「なんだよ、サチ」
「それはこっちのセリフだ。何回も呼んでいたのに反応しないからね」
「……それはわりい」
ユヅキは頭をかきながらバツの悪い顔をする。
「ずいぶんな気合の入りようじゃないか」
「そりゃね……今度出るライブに出る軽音部のバンド。部長……でいいな。あいつの憎たらしい顔をつぶしてやりてえ」
『つぶしてやりたい』というユヅキの発言に相当な気合を感じ取るチヨ、タイヘイ、ミク。ユヅキはさらに続けて言う。
「サチもタイヘイもチヨも分かると思うけどあの部活さ、腕が悪いわ、対応力も悪いわ、楽器のメンテナンスもろくにしてないわ、アンプの修理もしてないわと音がひどいんだよ」
その言葉に名指しされた三人は理解を示す顔をするが一人残されたミクは理解ができない。
「え、どういうこと?どんな音なの?」
「「「「あ~……」」」」
四人はミクが知らないことに考えが至ったが同時に『聞かせたくない』という思いになった。
「まあ、わたし達より音が悪いことだけは確実だな。それでもアイツのカリスマ性でファンは多いけどそんなのでキャーキャー言ってるやつの気が知れない」
「……ただカリスマ性というのは厄介な相手でもあることは事実だ。ある種の洗脳。正しい判断を奪うものだからね。彼らがボク達の曲をひどく評価すればそれにならうファンがいるかもしれない」
サチの言葉にチヨも頷く。
「……一部の粗なく仕上げますか」
「そうだね」
「そうですね」
木幡姉弟も同意して翌日のスタジオ練習で仕上げた五人はライブ当日を迎える。
今日の出演バンドは五組。NON-SCOREの順番は最後から二番目。例の部長はトップバッターだった。
「……弦、新品のにしたほうが良いのに」
楽屋で待機すタイヘイはぽつりと呟く。するとサチも頷いた。
「ベースは交換時期を過ぎている。ギターも限界に近いね」
ユヅキも続く
「ドラムもネジの締めが甘い」
ミクも続いた。
「キーボードは……そもそもモノが悪いかな……質が低い気がする……」
チヨも続いた。
「声の響きが良くないな……出番直前にウーロン茶飲んでたよね……喉の脂取れるから飲まないほうが良いんだけどな……」
五人の評価は散々だった。しかし、盛り上がりがすごい。
「カリスマ性というのは恐ろしいね」
そのサチの言葉に全員が納得していた。
それから二番目のバンドが演奏を終えて帰って来る。しかしその前から五人は違和感を覚えていた。戻ってきたバンドから妙に沈んだ感じが空気から出ている。雰囲気からはライブ失敗も見える。
「どうしたんですか?」
タイヘイが何気なく聞き、二番目のバンドは舞台からの様子を話してくれた。
「……全然盛り上がらない……」
「まるで聞こえていないような振る舞いだった……」
普段なら盛り上がるライブが水を打ったように静かだったという。観客の歓声も聞こえなかったそう。
五人はいつもよりかなり早めに舞台裏にスタンバイした。観客席の様子を見るためである。三組目も観客席の盛り上がりに欠けて盛り上げるために苦戦している。五人は今日の観客が何を求めているか三組目のバンドで掴もうとしたがそれでも掴めず五人はライブ本番を迎えてしまった。
「やるしかない」
チヨの一言で五人は舞台に向かう。しかし、歓声は小さくしか沸かなかった。
二曲目を終えた五人。徐々に上げていくようにセットリストを組んだがそれが上手くはまらない。水を打ったように静かな観客にチヨはMCをしながらどう盛り上げるか考えていたがそれがよく分からない。
全五曲のセットリスト。チヨは二曲目と三曲目のMCをしながら観客の動向を掴もうとするがそれが分からない。
一方後ろで四人は最初のバンド、件の軽音部の部長のバンドを思い出していた。何か根本的で音が悪いながらも盛り上がる何かを見落としている気がする。タイヘイは次の曲を待つ間必死に思い出そうとした。しかし、それが思い出せないままにチヨのMCが終わり五人は三曲目に入る。タイヘイはNON-SCOREオリジナル曲のギターを弾きながらまだ考えていた。そのせいで普段入れるアドリブのテクニックは入れられず、テクニックを入れまくるユヅキとミクに全くついていけなかった。
そして4曲目の前のMCの最中、タイヘイはまだ考えていた。ユヅキに背中を一発叩かれてタイヘイは何かに気がつく。
「タイヘー、お前MC」
「あ、ごめん」
ユヅキに言われて慌ててマイクを受け取ったタイヘイだったがMCで話す予定だったことがマイクを持った瞬間に全部飛んでしまい、その場でアドリブのMCを話し始めた。
「次の曲は・・・・・・なんでしたっけ?」
そこで次の曲名が出てこなかったタイヘイはチヨに聞き、曲名を教えられてから話し始めた。観客席からクスクスと笑いが起きている。しかし、タイヘイは大焦りで噛むわ、詰まるわ、忘れるわ。
「しっかりやりなさい!」
ユヅキに背中へのツッコミをくらいお客さんは笑い会場の空気が少し軽くなったのを感じたタイヘイはそこでようやく次の曲を思い出し曲名を告げた。
「次の曲は……」
そして曲が終わる頃になんとか盛り上がりを作れたところでベースのサチのMCが入る。
「次の曲はボクたちが初めて作った曲だ。絶望、解雇とかで辞めさせられたりした経験をした僕たちが歌うこの曲を聴いてほしい……『CUT OUT & FIRE』」
『CUT OUT & FIRE』はサチの書いた歌詞に五人の体験を追加で盛り込んだ歌詞であり少し哀しめの曲。しかし、裏切りと呼ばれる経験をしている五人の音に感情が乗り音に変化が現れる。その音が観客の心を、身体を揺さぶり徐々に徐々に全観客が乗る、ということは無かったが観客の興味、視線はすべて五人に注がれ一部の観客は肩や足をリズムに乗せていた。
『CUT OUT & FIRE』を弾き終えた五人は『ありがとうございました』とそろって挨拶をする。そしてそれなりの拍手をもらって退場した。その後のトリのバンドも盛り上がりなんとかライブの体裁を整えた。
翌日、大学の食堂で五人はお昼まで勉強をしながら、昼食を食べつつ前日のライブの感想をリサーチしたり、演奏中に録音した自分たちの曲を聴きつつ更なる高精度の曲を目指そうということである程度話がまとまりつつある時の話だった。リサーチは他のバンドもしっかり聞いてみた方がいいかもしれないという意見もちらほらと見られ自分たちNON-SCOREを評価する声もある。
「まあ、悪くは無え。可も無く不可も無くってところか」
ユヅキの言葉にタイヘイも頷いた。
「あの状況からあの盛り上がりならまあ良かった方では無いかと」
まあそうだな、という空気でお昼を食べていたところばしゃりという音が聞こえたミクはその音の方を向くとバンドリーダー、大村ユヅキの髪の毛が水をしたらせていた。
「え?」
その後ろには五人と面識のない女子がいた。
「お前……」
ユヅキの言葉に一言だけ聞こえた。
「……裏切り者」
「「「「「……はあ?」」」」」
それだけ言われた五人は去っていくその女子を見送ることしかできなかった。
「なんなのかなあ、あれ」
ユヅキは生協で買ったタオルで髪の毛を拭きながら先ほどの行動に疑問を呈さざるを得なかった。しかし、それに答えは出なかった。




