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のじゃロリ、急襲す

「……とまあ、内部は今、こんな感じになってる。三人はまだ生きてるけど、いつまで生かされるかは分からない」


 隆盛のおかげで、現在の宵山家の状況が把握できた。


 まず、少なくとも三枝家を除き、宵山家に集まっている面々は僕たちの行方を掴んでいない。漆原の力で逃げ仰たことは分かっているが、追跡をすることはできなかったようだ。

 次に黒霧風雅も含めた四人だが、彼らはまだ生きている。宵山家の地下にある、過去の遺物である牢に監禁されているらしい。今のところ生きているというのは一先ず安心したが、いまだ予断を許さない状況だ。


 そして、漆原骸久だが……やはり、彼は死んだようだった。天音が自ら確認したのだから間違いはなく、遺体は三枝家に回収されたようだ。


 漆原の話をしている時、一ノ瀬の表情は分かりやすく怒りに染まっていた。彼が死んだという事実もそうだが、何より、遺体が三枝に回収されたことに怒っていたのだろう。

 恐らく、奴らの目当ては漆原の中にある仙人の魂。どうやって利用するのかは知らないが、奴らがみすみす見逃すとも思えない。


 後は、細々な話をいくつか。屋敷内の地図や、地下牢への経路。警備の配置など、隆盛は様々な情報をもたらしてくれた。しかし、それがかえって、僕らの焦りを加速させた。


「……あまり悠長にしている時間はなさそうだね。あの三人を失えば、途端に戦況が厳しくなる」


 三人はまだ生きている。それは恐らく、僕たちを釣る餌にするためだろう。釣れないとなれば、その餌は捨てられる。やはり、急いでここまでやってきたのは正解だった。


 隆盛の情報を踏まえた上で、作戦を立てる必要がある。そう考え二人の顔を見ると……どこか不穏な空気を漂わせながら、彼らは見つめ合っていた。

 


「……僕に何か言いたそうな顔をしているね」



 先に戦火を落としたのは一ノ瀬だ。いや……隆盛、だろうか。一ノ瀬とは違って、隆盛の視線には強い疑心が感じられる。


「……俺は正直、あんたのことをまだ完全に信用したわけじゃない。学校で襲われた一件もあるからな」


「そうだろうね。逆の立場なら、僕だって信じない」


 時間がなく、隆盛には全てを話しているわけではない。一ノ瀬の目的と、三枝の悪行。それから、今のところ彼は敵ではないということ。

 そんなことを言われても、すぐに信じることができないのは、人間として当然のことだ。二人とも、それは理解している。


「君が望むなら……一発でも二発でも、好きなだけ殴ればいい」


「いや……いいさ」


 無防備な姿を曝け出す一ノ瀬と、それを押し返す隆盛。一ノ瀬は、少し驚いていた。当然、殴られるものと思っていたのだろう。


「水樹があんたのことを敵じゃないって言ってんなら、俺はその判断を信じる。うちの当主様なんでね」


 隆盛の、一ノ瀬に対する疑心は、全てが晴れたわけではない。だがそれ以上に、奴は僕の判断を信じてくれている。

 悪い言い方をすれば責任転嫁だが、隆盛は親友だ。そんな姑息な考えで言っているのではないことくらい、すぐに分かる。


 『お人好しばかりだ』と、一ノ瀬はそんなことを考えているのだろう。呆れたように首を振り、ちらりと、僕の顔を見た。


「……まあ、当主の補佐役なら、何かおかしいと思ったことには口を出したほうがいいと思うけどね」


「そうじゃぞ、隆盛。わしが盛大に判断を間違っておったらどうする」


「誇るな。胸を張るな」


 子供を叱りつけるように言った隆盛。疑心は残るが、迷いはなくなったようだ。




——そうして、隆盛という協力者を得た僕たちは、灼堂たちを取り返すべく作戦を立てた。とはいっても、人員的資源に乏しい僕たちに取れる手段は限られている。


 作戦は三つ。地下牢への警備が手薄だった場合に行う『隠密作戦』と、強固だった場合に行う『囮作戦』。そして、全てが破綻した時に行う『強行作戦』だ。本来なら、敵にバレる心配が少ない一つ目の案でいきたいところだが……残念ながら、上手くいきそうになかった。

 かといって、世話になった宵山家の屋敷を、最初から全て破壊する前提で動くのも、僕の心情的に避けたい部分がある。よって、作戦は二つ目……『囮作戦』が決行されることとなった。


 隆盛によると仙継士は黒霧雲源も含めて三人。黒霧の家臣連中は、幸運にも合流していない。

 そして、三人は協力して僕を討ち倒す計画を立てていたらしい。つまり、僕が囮になれば、最も警戒すべき三人は引きつけられるということだ。


 不確定要素は、やはり未切の存在だ。一ノ瀬本人に洗脳の力は効かないとはいえ、未切自身の戦闘能力が未知数であるため、ここは『賭け』に近い状況だ。


『まあ、僕も一〇年間無為に過ごしてきたわけではないからね。人間相手なら、それなりに戦える』


 一ノ瀬はそう言っていた。地下牢への強襲の成功の鍵は、一ノ瀬が担っていると言っても過言ではない。



「さて……二人は配置についたかの」



 ぱきりと、指を鳴らす。僕の役目は厄介な敵戦力を一身に受け止めること。故に——最初から、全力だ。


 纏衣を解放し、屋敷の外から特大の仙力を放つ。真夜中だが、仙継士組はこれで目が覚めるだろう。後は、ド派手に正門から登場してやればいい。


「それではちと……夜襲といこうか、天音よ」


 必要最低限の演出のため、僕は巨大な正門を、拳でぶち破った。

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