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のじゃロリの、破滅への一歩

「さ、三枝ァッ……!!」


 僕たちの視線の先にいる、翼の生えた人物と小柄な人物。顔は分からないが、僕の本能と……そして、一ノ瀬があれを『三枝』の人間だと言っている。


 自分たちの闇の部分を知っている、一ノ瀬と漆原を消しにきたか。いや、しかし、今の一撃はまるで、『僕を含めた』三人全員を狙っているようだった。


 それに……一ノ瀬と漆原を狙っていたなら、動き出すのが遅すぎる。今までだって、仕留めるタイミングはあったはずだ。


 とすると、奴らの狙いは……僕か? 僕が一ノ瀬たちと和解したから、三人まとめて始末する方向に舵を切ったのか。


「お前たちは……また、僕から家族を奪うのかッ……三枝ァッ!!」


「お、落ち着くのじゃっ!」


 怒りを抑え切れずに発狂する一ノ瀬を落ち着かせようとすると……再び、白装束の男から強大な仙力が放たれた。狙いは……一ノ瀬だ。


「ちっ……本当は、お主たちとの切り札に考えておったのじゃがなっ!!」


 すぐさま一ノ瀬のもとへ駆け寄り、体内の仙力を練り上げる。戦までの三日間、何も、遊んで過ごしていたわけではない。



「仙力……『災ガ悉地(わがつち)』っ!」



 地面に両手をつき、新たな仙力を発動する。直後、地面が次々と盛り上がり、巨大な天蓋となって、飛来する矢を防いだ。


 大地を操る仙力。こうして大地を隆起させて壁を作ることも、地割れを発生させて敵を落とすことも可能な、汎用性の高い仙力だ。本来なら、一ノ瀬たちとの戦いで、『奥の手』として身に付けた技だったが……まさかそれを、一ノ瀬を守るために使うとは。


「無事かっ!」


「ああ……助かった」


 一ノ瀬はその場を動こうとはせず、変わりなく漆原の亡骸を抱いていた。胸の中心に開いた大きな風穴。既に漆原の息はなく、一ノ瀬を助けたその腕は、力なく血溜まりに垂れ下がっていた。


 即死だったのだろう。もし、纏衣状態を維持していたのなら、結果は違ったかもしれないが……過ぎたことを後悔しても遅い。


「……もう手遅れじゃ。助からん」


「分かっている……分かってはいるんだ……」


 一ノ瀬は漆原の顔に手を添えると、そっと、目を閉じさせてやった。


 彼の亡骸を、地面に寝かせる。置いていく覚悟はできたようだ。だが、実際のところ……この状況を、どうする。


(先に皆と合流……そしたら、あの浮かんでる奴をどうにかして倒す……!)


 ともかく、天音たちと合流するのが先だ。一ノ瀬のことは後で説明すればいい。三枝が僕もろとも一ノ瀬を始末しようとしていることだけ説明すれば、協力してくれるはずだ。


「一ノ瀬。まずは皆と合流、をっ……!?」


 その時、大きな揺れが僕たちを襲った。僕たちを守る土の天蓋に、大きなヒビが走っている。

 続け様にもう一度。それで、天蓋は完全に砕け散ってしまった。


「ばっ、なんじゃこのっ……馬鹿げた威力はっ!」


 材質はただの土だが、僕の仙力で加工した防御壁だ。並大抵の火力では破壊できないはずなのに。

 これは、先に皆と合流するだとか、そんな呑気なことを言っている場合ではない。皆と合流出来るまで、何とか時間を稼ぐしかない。


「仕方あるまい……狐火っ!」


 手加減無しの、全力を込めた狐火を空に向かって放つ。超速度で放たれた狐火は……しかし、放たれたのちすぐに、謎の衝撃波によって爆発させられた。


 犯人は……異常に気がついて駆け付けた天音だ。彼女は何故か酷く焦った様子で、激怒した。


「馬鹿っ、何をしている、水樹っ!」


「あ、天音っ! なぜ止めるっ!?」


「あれは三枝家の使いだ! 私たちの味方だぞっ!?」


 空に浮かぶ二人の人物を指差しながら、いつにも増して厳しく叱咤する天音。


……そうか。この構図……事情を知らない第三者から見れば、一ノ瀬という復讐者を倒すために協力する三枝家、という図になるのか。


 なら、作戦変更だ。先に天音たちを説得しなければならない。三枝家が攻撃を仕掛けてこないかが心配だが、どうやら、奴らは様子見をしているらしい。


「そうじゃ、三枝の使いじゃ! しかし……味方ではないっ!」


「はぁ!? 何を言って……」


「聞け、天音! 奴らは……」


 三枝家の闇と、ここへ来た目的。それを天音に説こうとしたが……その思惑は、彼女の背後からやってきた人物によって邪魔をされることになる。


 彼女——茜音さんは優しく天音の肩に手を添えると、僕ではなく、一ノ瀬を指さした。


「……天音ちゃん、無駄よ。どうやら、あの男に洗脳(・・)されているようね」


「なにっ!?」


 天音が、一ノ瀬を強く睨みつけた。そして、露わにしていた怒りを落ち着かせると……拳を構える。


「……そうか。ならば仕方あるまい。一度気絶させて、屋敷に連れ戻るしかないな」


「ま、待て、話を聞けっ! 茜音殿も何を言っておる、わしは洗脳なぞされとらんっ!!」


「三枝を敵扱いして、敵だったはずの男を庇っている時点で、その言い訳は通用しないわ。大丈夫、痛くはしないから」


 天音も茜音さんも、聴く耳持たぬ、という様子だ。


……いや、何かがおかしい。彼女たち、いや、その後ろにいる黒霧雲源や雪さんも含めて、皆、『目』がおかしい。

 目に一切の光も、感情も宿っていない。明らかに、様子がおかしい。これではまるで、茜音さんの言うように、洗脳されているみたいではないか。


 じりじりと、追い詰められる。天音たちは気絶させるだけだと言っているが……恐らく、ここで捕まれば命はない。


「……この感じ、知っている。未切(みきり)め、来ているのか……!」


「ど、どうするっ……一ノ瀬、お主、なにか策はないかっ!?」


 何やら事情を知っていそうな一ノ瀬に頼み込むと、彼は首を横に振る。


「ちっ……万事休すかっ……!!」


 流石の僕でも、この四人を相手に勝てる自信はない。ましてや、上空にいる三枝の使いから一ノ瀬を守りながら戦うなど、不可能だ。


 打つ手がない。ここは一縷の希望に賭けて、大人しく天音たちに囚われるか。




……そう、諦めた時だった。


「なっ、これはっ……!?」


 地面から……正確には、僕たちの足もとにある()から黒い手が伸び、僕たちの足を掴んだのだ。見れば、空は雲に覆われ、空き地全体に影を落としている。


「ま、まさか……!」


「っ……骸久っ……!!」


 間違いない。この力は、漆原骸久のものだ。確かに息をしていなかったはずの彼が、うっすらと目を開け、仙力を放っている。


「——け——ま——」


 小さく唇を動かし、何かを伝えようとする漆原。僕には、何も聞き取ることができない。


 


「——か————」




 何かを、彼が言った。そして、もう力も入らないはずなのに、目を細め、笑ったのだ。



「骸久、待て、待ってくれっ……!」



 僕たちを掴む黒い手は、強く、僕たちを影の中に引き摺り込もうとした。初めての体験なのに、不思議と、不快感がない。

 必死になって、漆原に手を伸ばそうともがく一ノ瀬。影に引き摺り込まれる僕たちを捕まえようと、駆け出した天音たち。


 そのどちらの願いも叶うことはなく——僕たちは、暗い暗い影の世界に引き摺り込まれた。


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