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のじゃロリと新たなる仙力

 力が欲しい。仙継士になってから、そんな直球な願いを抱いたのはこれが初めてだろう。


 『狐火』は特別な修練もなく使うことが出来た。黒霧との戦に備えた訓練をしたこともあったが、ここまで力を渇望したことはなかった。


 今はただ、力が欲しい。目の前にいる敵を討ち倒せるほどの力が。




『……ふむ。なるほどのぅ。それがお主の願いか』




 それは僕の声だった。いや、正確に言えば……『御狐様』の声だ。()ではない御狐様()の声が、水樹()に語りかけている。


 僕はゆっくりと頷いた。力が欲しいと。敵を倒すための力が欲しいと。


 彼女は全てを悟っているかのように、ただそこに佇んでいた。何もない真っ白な空間に、声を放つ小さな光だけが浮かんでいたのだ。



『よかろう。今のお主ならば、力に呑み込まれることもなかろう。わしの力、存分に振るうがよい』



 彼女がそう言うと、小さな光は僕の胸に飛び込んできて、そのまま体内に吸収されてしまった。


 今までに感じたことのない力にが、僕の中に宿っている。否、それは元からそこにあったもの。けれど、気付くことが出来なかったものだ。


 今ならやれると、そう思った。より強大な御狐様の力を引き出すことが可能となった今なら、灼堂大牙を倒すことも出来るだろう。



「……ありがとうございます、御狐様。これで、皆を守ることが出来る」


『かまわぬ。お主のことは気に入っているからな。いまさら、引き剥がされるのもかなわん』



 光は吸収したのに、どこからか声がする。直接、頭の中に響いているような、そんな感覚だ。

 御狐様は現状、僕らの味方だ。ならば、その力、望むままに利用させてもらおう。



『ゆけ。その力をもってして、敵を討て』


「はい。必ず」



 誰もいない空間で大きく頷き、もう一度念じる。真っ白なこの空間から、現実世界に戻れるように、と。




 思えば、この空間は、僕の思考から生まれた空想の世界なのかもしれない。御狐様と対話するために、僕の脳内だけに存在を許された世界。


 故に、来る時も、そして、戻る時も一瞬だった。



「……うむ」



 僕は、目を瞑ったまま棒立ちになっていたようだ。目立った外傷はなく、そんな僕を守るように隆盛が立ちはだかっていた。



「おっ……目ぇ覚めたか」


「待たせたかの」


「さあ……ただ、雪さんは苦戦してるみたいだ」



 奴は首を横に振り、そして戦闘真っ只中の二人を指差した。

 雪さんは灼堂の攻撃を上手く避けているように見える。だが、彼女の額からは大粒の汗が流れていた。


 当然だ。いくら彼女が人並み外れた戦闘能力を有しているとは言っても、それは仙継士ではない人間としての枠組みの内。

 灼堂は纏衣状態である上に、体に纏うのは高温の炎。正直、肉薄しているだけでも辛い状況だろう。


 だが、それでも……よく耐えてくれた。おかげで、反撃の機会が出来たのだから。



「いってくる」


「ああ、怪我すんなよ」



 隆盛と別れ、駆け抜け、激しい戦闘が繰り広げられる戦場に合流する。そして、勢いをそのままに……灼堂にドロップキックを仕掛ける。

 不意の一撃に奴は吹き飛び、周囲の瓦礫を破壊しながら壁に激突した。どれだけ奴の回復能力が高くとも、雪さんと少し話すくらいの時間は確保出来るだろう。



「すまぬ。待たせたな、雪殿」


「お戻りになられましたか……水樹様」



 満身創痍、といった様子だった。ここまで弱った彼女も珍しい。訓練でも、こうなる前に切り上げてしまう。

 彼女は袖で顔の汗を拭うと、ふらふらと覚束ない足取りで歩く。そこへ駆け付けた隆盛が、彼女に肩を貸す。



「申し訳ありません、水樹様。私は……少し、休まねば動けません」


「かまわん。よくぞ耐えてくれた」



 彼女が力の抜けたような笑みを浮かべると同時に、隆盛と視線で会話をし、下がらせる。二人が安全な場所まで避難したのと、灼堂大牙が立ち上がったタイミング、殆ど同じだった。



「ここからは選手交代じゃ……かかってこい、灼堂大牙」


「はっ……いいねぇ。人間相手に飽き飽きしてたところだ。さっさとやろうぜ、チビ狐」



 指を立てて挑発をすると、奴はまるで狂人かのように笑い、突っ込んできた。雪さんとの戦闘での傷はないようで、先ほどの不意打ちでの傷も既に再生しているようだ。つまり、お互いにほぼ無傷な状態での再戦となる。


 しかし、このまま取っ組み合っては先と同じ結果になる。奴を倒すには、それ相応の力が必要だ。




(……思い描くは激流。そして、全てを呑み込む水の渦)




 御狐様から借り受けた力。新たなる仙力。自分に出来ることをイメージして、それを形にする。かつて、御狐様が村を守るためにそうしたように。


 巨大すぎる力は使わない。不慣れで制御の効かない力では望んだ結果は得られない。小さな力から引き出していくのだ。


 そう……それがいい。灼堂大牙は拳に炎を纏っている。あんな風に、小さな力で敵を制圧する力が必要だ。


 イメージするのは、グローブ。ボクシングの選手が付けているようなものを。







「仙力——『禍ツ水(まがつみ)』」

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