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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、初めての変装

 車で二時間と少し。椿さんの運転で、僕たちは修学旅行で訪れた田舎村に戻ってきた。


 時刻は午後の四時半。もう日が傾いて、暗くなり始める時間だ。街灯も少ない田舎村で、この時間から探索を始めるのは危険だろう。



「……そう言えば、夜はどうするんだ? 野宿ってわけにもいかんだろ」


「心配はいらぬ。もう少し進んだところに小さな宿があるのじゃよ。既に予約は取っておる」


 修学旅行中は複数の班に分かれての民泊だったから、今回はその手は使えない。だが、少し離れた場所に小さな宿があることは確認済みだ。二時間の準備時間中に予約も済ませてある。


 すると、道中で買った缶コーヒーを飲みながら、椿さんがこんなことを言い出した。


「宿って言っても、樹ちゃん、尻尾はどうするの? 耳は帽子で隠せても……尻尾は難しいんじゃない?」


「確かに。流石に目立つだろ、それ。コスプレだって説明するか?」


「いや、それなら」


 持ってた大型のボストンバッグのチャックを開け、持ち手に腕を通し、リュックサックのように背負って持つ。尻尾はボストンバッグの中に収納される形となり、一目見ただけではその違和感に気付けないだろう。

 このために、わざわざ修学旅行でも使ったこの大きなボストンバッグを持ってきたのだ。荷物自体はさらに小さな袋にまとめて入れてあるため、中でばらばらになる心配もない。


 あとは、耳を少し中央に寄せながら大きなニット帽を被れば……どこからどう見ても、ただの小さな女の子である。


 ただし、これはあくまでも応急的な措置だ。まじまじと見られれば違和感には気付かれるだろうし、座ることは出来ないから乗り物に乗ることは出来ない。

 小さな宿ということは、宿の人と顔を合わせるタイミングは、恐らく出入りの時だけ。そのくらいの一瞬のことならば、上手く誤魔化せるはずだ。



「どうじゃ? まじまじと見つめられれば違和感はあるが、宿の出入りの時さえ気を付けていれば問題はなかろう」



 出来上がった姿を二人に披露すると、隆盛は感心したように、椿さんはスイーツでも前にしたかのような蕩けた瞳でこちらを見ていた。


「樹ちゃん、可愛いっ!」


「ああ……一日だけなのにやけに大きな鞄で来たと思ったら、それをするためか」


「うむ。因みに予約はお主の名で取ってある。頼んだぞ、隆盛」


「ちゃっかりしてやがんな……分かったよ」


 今の僕では予約を取ることも難しいだろうから、これは仕方のないことだ。






 そんな過程を踏みつつも、予約していた宿に到着する。三人姉弟妹(きょうだい)という体で話を進めると、驚くほど容易く入館することが出来た。都会のホテルならば、僕自身の身分証明書だ何だと、一悶着はあっただろうが……ここが田舎村であることが幸いした。


 他の宿泊客はいないのか、館内は静かだ。昔ながらの木造の建物で、古めかしい木の匂いが鼻を突き抜ける。

 この姿になってから、五感のうち聴覚や視覚、嗅覚といったものが、以前よりも優れていると感じることが増えた。伊達に狐の耳や尻尾が生えているわけではないのだろう。少し離れた場所で落ちた水の滴の音でさえも、感覚を研ぎ澄ませれば聞き取ることが出来る。


 便利なのか、それとも……少なくとも、集中しなければ(・・・・・・・)人間のそれと大差はないため、向上した感覚が過剰に反応し苦しめられるといった事態にはならないだろう。



「うわぁ……結構広い部屋じゃない?」



 まず初めに部屋に入ったのは椿さんだ。続いて入室すると、確かに、三人で使ってもまだ余裕があるほど広々とした部屋だった。

 椿さんは部屋に入るなり、敷かれた布団に滑り込んでいた。ベッドに飛び込む人間はよくいるが、和室で布団に滑り込む人間は中々お目にかかれない。


「高かったんじゃないのか?」


「いや、そうでもない。一泊だけなのでな」


 少なくとも、財布に響くような金額ではなかった。お小遣いから捻出すれば問題なく支払える額だ。勿論、これが一泊で済んだら、の話だが。






 現在時刻は午後五時半。都市部ならば街の明かりで探索も可能だろうが、街灯もろくにないこの村では危険行為だ。うっかり足を滑らせて田んぼにでも転落すれば、大事故に繋がる可能性もある。


「ふむ……」


「樹、どうかしたか?」


 荷物を下ろし、耳と尻尾を自由にしたのちに思案していると、その様子を見た隆盛が声をかけてきた。


「なに、時間が勿体無くての。村の歴史に詳しい者でもおれば、話を聞きたいところじゃが……この姿では難しいじゃろう」


 祠に行けば全てが解決する。そう断言出来る確証がない以上、出来る限りの情報は集めておきたい。

 しかし、この姿では思うように身動きも取れない。面と向かって会話をするとなると、例の変装も効力を失うだろう。


 かと言って、このまま朝までぼうっとしているのも勿体無い。それ故に悩んでいた。



 その最中だ。隆盛が『そういえば』と声をあげた。


「……この部屋に来る途中、書庫みたいなものを見かけた。もしかすると、この村の歴史に関する書物なんかがあるかもしれない」


「本当かの?」


 僕は気が付かなかった。だが、そこで何か有益そうな書物でも借りることが出来れば……あの祠の手掛かりを得られるかもしれない。


 隆盛は力強く頷き、言葉を続けた。


「ああ。女将さんに聞いて許可が出たら、良さそうなものを見繕ってくるよ」


「助かる。わしは身動きが取れんからの」


 部屋にさえ持ってきてくれれば、後はどうとでもなるだろう。いざという時に頼りになる男だ。


 しかし、隆盛は……何故だか気まずそうに、目を逸らしている。


「いいさ。どのみち、俺はおじゃま虫だろうからな」


「なに?」



——直後、冷たい金属でも当てたかのようなひんやりとした気配を感じた。それは背後から放たれていて、そこにいるのは……椿さんだった。



 嫌な予感がする。振り返っては駄目だと思いつつも、振り返らなくては余計に酷い目に遭うという確信もあった。

 恐る恐る、目から鼻、顔全体、首と、ぎこちない動作で振り返る。



 そこには……わきわきと指を気持ち悪い動作で動かす椿さんがいた。口からは涎を垂らし、目は血走っていて、一目見ただけで『危険人物』だと認定出来そうな雰囲気を放つ椿さんが。



「ふへへっ、樹ちゃん……部屋にもお風呂があるから、気兼ねなく入れるよっ……?」


「い、いや、椿殿っ……何度も言うが、わし、中身は健全な男じゃよっっ……!?」



 確かに大浴場だけではなく個別の浴室がある部屋を選んだが……それは決して、椿さんに襲われるために選んだわけではない。


 迫り来る椿さんと、じりじりと下がる僕。しかし、ある程度下がったところで、背中に手が添えられて退路を塞がれる。



 犯人は……隆盛だ。




「水着は持ってきたから問題なぁぁしっっ!」


「大ありじゃぁあっっ!!」




 飛びかかってきた椿さんに拘束され、申し訳なさそうに退室する隆盛にありったけの恨み節を送りながら、強制的に服を脱がされて浴室へと引き摺り込まれた。


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