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のじゃロリ、またもや襲撃に遭う

「……『敵勢力』が動き出した、ってところかな」



 三島さんのその言葉に、思わず目を見開いてしまった。



「敵勢力……とな?」


「うん。少し前から『正体不明の敵』に襲撃を受けてるって、色んな家門から声が挙がっててね」



 困ったように話す彼女。天音からそのような話を聞いた覚えはないが、それはつまり、宵山家は襲撃に遭っていないということなのだろう。


 だがしかし、『正体不明』という部分が、妙に引っかかる。



「襲撃じゃと? 仙継士間の争いは三枝が管理しておるはずじゃろう?」


「中にはそんなことを気にしない不届き者もいるんだよね。黒霧なんてまだ優しいもんだよ」



 聞くところによれば、仙継士の中には三枝の力を恐れず、『戦』という手法を取らずに『侵略』という手段を選ぶ者もいるらしい。少なくとも大山県内にはそのような不届き者はいないそうだが、全国的に見れば、極小数、存在している。


 その殆どは、三枝が直接手を下し、処罰している。今回のようなケースは稀だそうだ。真面目に宣戦布告をし、卑怯な手も使わずに戦に参加した黒霧家は、かなり模範的な家門らしい。



「で、実害は?」


「奇妙な敵に襲われたって家門がちらほら。幸い、死者は出てないけど、怪我人はそれなりに」


「奇妙な敵、か……」



 三枝家がそう言うのならば、敵は『仙継士本人』ではないのかもしれない。仙力によって生み出された使い魔のような類ならば、そう呼称されるのも納得だ。


 だが……どちらにせよ、仙継士絡みの何かであることは間違いないはずだ。僕たちの知らない『魔法』のようなものが存在しない限りは。

 ならば、察知に優れた仙継士であれば感知出来るはず。であるにも関わらず、多くの家門から犠牲が出ている。



……におうな。



 只事ではない。何となく、僕の直感がそう告げている。黒霧の件とは危険度のベクトルが違っている予感がした。



「のう、仙継士ならば仙力で事前に察知できるではないか。誰も気付けなかったということか?」


「それが……」



 僕の言葉に、三島さんは返事をしようとした。そして、その言葉を途中で区切り、猛烈な勢いで駐車場の方へと振り向いた。

 僕もまた……殆ど同じタイミングで、彼女と同じ方向へと視線を向ける。




「……冗談じゃろ。人前じゃぞ」




 妙な気配を感じたのだ。仙継士のような、そうでないような、仙力のような、全く別の何かのような……とにかく、妙な気配だった。


 僕たち二人の視線の先にいたのは、真っ黒な人間。目も口も何もなく、黒い粘土で作り上げたマネキンのような、不気味な人間だった。

 いや、あれを人間と形容するのはいかがなものか。あれは、どちらかといえば『化け物』と形容されるべきものだ。


 しかも、一体ではない。そんな不気味な人型が、三体。客が少ないとはいえ、一般人のいるコンビニの駐車場に現れるには、大胆すぎる数だ。



 隣を見れば、三島さんは既に臨戦態勢に入っていた。味方であることを期待していたが……そう都合良くはいかないだろう。



「……あれが、報告にあった襲撃者。三枝では『影人(かげびと)』って仮称を付けてる」


「影の人か、見たまんまじゃな」



 まさしく見た目通りの名前だ。自然界から生まれたものではなく、明らかに誰かが仙力で生み出したものだ。

 三島さんに倣ってファイティングポーズを取り、戦闘に備える。先に動き出したのは——影人だった。



「来るぞっ!」



 僕がそう叫ぶのと同時に、奴らは迫ってきた。動きはそれほど速くなく、纏衣を解放せずとも目で追えるほどの速度だ。


 三体のうちの一体が、僕の方へと向かってきた。両手を突き出し、まるで映画の中で見るゾンビのような動きで。


 油断はしない。いざとなれば纏衣を解放することも視野に入れている。そのつもりで、拳に最大限の力を乗せ、影人の手を掻い潜って頭部に突きを入れた。



 すると……どうだろうか。影人はその頭部を盛大に弾け散らし、倒れ伏せたかと思うと、靄のようになって霧散してしまった。



「なっ……弱いがっ……!?」



 予想に反して低過ぎた戦闘能力に、かえって混乱した。三島さんも同様に一体始末したようで、残るは一体。


 その一体は攻めてくる様子を見せない。ある程度の知性があるのか、はたまた孤立したら撤退するような指示を下されているのか。


 そんなことを考えているのも束の間。残る一体の足元に広がる暗闇から、『うぞうぞ』と、ミミズが地面から這い出てくるように四体の影人が現れた。



「うん、個々の能力は確かに低い。でも、こいつらの脅威的なところは群れるところと……術者がどこにいるのか分からないところ」


「本体を叩けぬから無尽蔵に現れるということか。確かに厄介だ」



 並の仙継士なら、囲まれるかスタミナ切れかのどちらかで最終的には敗北してしまうのだろう。納得の理由だ。

 だが……それならば、僕とは相性が良い。ほぼ丸一日を通して戦うことが出来るほどの仙力の多さと、広範囲を一度に焼き尽くすことが出来る『狐火』という力。奴らにとっては最悪の相手だということだ。



「ここで戦うのは構わんのか?」



 三島さんに、そう問うた。

 人通りが少なく、客入りも少ないとはいえ、コンビニならば店先に監視カメラの一つや二つはあるだろう。恐らく、この戦いも既に何名かには目撃されているはずだ。


 まあ……僕らが力を使わなければ、一般人に被害が及ぶかもしれないのだから、どちらにせよ、戦わなければならないのだが。


 そんな心配を吹き飛ばすように、彼女は『にへら』と笑った。



「大丈夫。大抵のことは三枝が隠蔽してくれるから! 何とか切り抜けることだけを考えて!」


「ふむ、承知したっ!」



 要するに……面倒事は、後で三枝家に押し付ければ良いということだ。これ以上やり易い条件はない。

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