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のじゃロリ、クラスメイトを問い詰める

「お主……いったい、何者じゃ?」



 そう問うと、三島さんの目がほんの少しだけ泳いだ。

 確信した。彼女は何かを隠している。



「何者って……どういうこと?」


「とぼけるでない。お主がどこの誰かは知らぬが、わしとしても、鼠のように這い回られるのは不愉快でな」



 平静を装ってはいるが、いつもより少し声が高い。上擦っている、と言った方が近いだろう。嘘を吐くことには慣れているが、僕に気付かれることは想定していなかった。そんな風に思える。



「とぼけるって……水樹ちゃん、何言ってるの?」



 しかし、問い詰めても尚、彼女は演技し続けた。

 いつもの彼女なら、笑って誤魔化すような話だろう。僕が単に痛々しい人間だと思われて、それで終わりだ。


 いや、それでもいい。これが僕の勘違いだったとするのなら、警戒すべき対象が減るのだから、むしろ喜ばしいことだ。

 だが……彼女は、怪しいのだ。特に、今回の『テストお疲れ様会』での行動や発言が。



「……しらを切るつもりならば、一つ問おう。お主、なぜ『わしと隆盛の家が近いこと』を知っておる?」



 そんな質問を投げかけると、彼女は困ったように頬を掻いた。



「それは……偶然、先生が話してるところを聞いて……」


「いいや。わしは学校側に本来の住所を知らせてはおらん。訳あって、な」



 僕の言葉に、彼女は『びくり』と肩を動かした。


 そう。隆盛の『共通の知り合いがいたから仲が良いんだ』という発言に対し、三島さんは『家が近いから納得した』という旨の発言をしていた。


 しかし、そもそも僕は、隆盛を除いたこの学校の誰にも『本来の住所』を教えてはいないのだ。『佐藤樹』と『篠宮水樹』が別の人間であることを証明するために、『篠宮水樹』としての居住地は今現在暮らしているのとは別の場所を申告してある。

 そして、それは決して隆盛の家と『近い』と言えるような場所ではなかった。


 隆盛に聞けば、奴も三島さんに僕の本来の居住地を話した覚えはないと言い、それ故に、彼女が僕たちの家が近いことを知っているはずがない。



 もしこれで、僕と隆盛が共にいるところを見られていたのだとすれば話は別だ。が、彼女は今、確かにこう口にした。『先生が話しているところを聞いた』と。先生でさえ知らないはずの情報を、先生の口から聞けるわけがない。



「実はこの前、柳田君と一緒に帰るところを見て……」


「この状況で新たな嘘が通用するとでも思うのか?」


「……しない、かなぁ……」



 頬をぽりぽりと掻きながら、彼女は暗い声で呟いた。ここまで追い詰められれば逃げ道はないのだと、彼女も察したようだ。


 こちらも一歩前へ踏み出し、警戒心を剥き出しにする。まだ彼女が敵であると確定したわけではないが、すぐに動き出せるようにはしておくべきだ。





「答えよ。お主、何者じゃ? わしのことを嗅ぎ回っておるな?」





 ある程度予想はついている。佐藤樹と無関係であることを示すために住所を偽っている学校。それとは別に、僕の現在の居住地を知っている『可能性』のあるもの。


 それは……仙継士(・・・)。篠宮として家門を興したのだから、当然、他の家門もこちらを認識している。



 問い詰めれば、彼女はやがて諦めたのか、大きなため息をこぼした。と言っても、すぐに襲いかかってくる様子はない。呆れたように、首を横に振るだけだ。



「あー……だからやりたくなかったんだよねぇ。水樹ちゃん、勘が鋭そうだし」


「それは……言葉通りの意味として受け取ってもよいのじゃな?」


「いいよ。黒霧風雅の一件があってから、水樹ちゃんのことを詳しく調べ上げろって、上が煩くてね……私は嫌だったんだけどさ」



 その発言からして、彼女の正体はほぼ(・・)確定したようなものだ。

 彼女は間違いなく、仙継士の一族に関わりのある者。だが、どの家門に属する者かは分からない。


 黒霧との一件を知っていて、尚且つ、僕の情報を求めている者たち。真っ先に思い浮かんだのは……当の黒霧家だ。僕に復讐するため、情報を得ようとしていた可能性がある。



「お主、まさか黒霧の……」


「ああ、違う違う。黒霧は牽制してるから、下手には動けないよ」



 彼女はそう言うと、スカートの両端を摘んで、貴族のように優雅な挨拶をした。





「私は三島由花(みしまゆいか)。これは本名。そんで、所属は『三枝(さえぐさ)家』。こう言えば分かるでしょ?」


「三枝のっ……!」




 三枝家。それは、仙継士たちを取りまとめる特別な一族。『篠宮』を家門として認めたのも、宵山と黒霧との戦を運営したのも、全て三枝家の行いだ。



(まさか、三枝の人間とは……)



 正直、予想もしていなかったパンチを食らったような気分だった。

 三枝家はその殆どがベールに包まれた存在で、滅多に表に出てはこない一族だったから、まさかこんなに目立った刺客を送り込んでくるとは思っていなかったのだ。



「ならば……先の祝宴でやけに距離感が近かったのは……」


「うん。何とか水樹ちゃんのことを知りたいなって思ってたんだけどね。柳田君に邪魔されちゃった」



 『てへっ』とでも言いたげに、媚びるようなポーズをとる三島さん。やはり、妙に距離感が近かったのは三枝家の上層部の人間から指令を下されたからだったか。


 『篠宮水樹』の調査……心当たりはある。というよりも、心当たりしかない。黒霧家との聖石占有戦で見せた、あの圧倒的なまでの戦闘力のせいだろう。

 少し前まで一般人だった人間が、この短期間で爆発的な戦闘力を発揮する仙継士となったのだ。同じ仙継士として、調査しないわけにはいかないはずだ。




「ま……いいや。どのみち、『三枝』は近いうちに動き出す手筈だったからね。水樹ちゃんにも関係のある話だし」



 と、三島さんが突然、そんなことを口にした。一体何の話をしているのか。単に、僕のことを調べ上げるという意味で言ったわけではなさそうだった。



「なに……? いったい、なんの話をしておる?」


「うーん、そうだなぁ。簡単に言うとねぇ……」



 言葉を選んでいるのか、三島さんは顎に指を当て、半目で空を見上げた。そして、ポンと手を叩くと、こんなことを言い出したのだ。







「……『敵勢力』が動き出した、ってところかな」

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