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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、再度の旅支度

「……つまり、お前はあの時、妙な祠にいて謎の光を浴びた。姿が変わった原因はそこにあるかもしれない。そういうことだな?」



 説得が終わってからの隆盛は、理解も早く、この現実を事実として受け入れようとしていた。


 修学旅行最終日、あの祠で起きたことを全て話すと、隆盛は顎に手をやり、深く思案する素振りを見せる。


「まあ、日本にも八百万の神だとかそういう話はあるだろう? 神秘的で奇妙な祠、そんなものがあったとしても不思議じゃない」


「それはあくまでも『祠』の話じゃろ? わしの肉体についてはなんの説明も付かん」


 辺境の田舎村に神秘的な祠がある。それ自体は何らおかしいことではない。土地信仰によるものもあるだろうし、現にそういった地域は他にも存在する。

 だが、隆盛の話はあくまで『祠の存在』に現実性を持たせるためのものであって、僕の肉体がこのような形に変化してしまったことへの説明にはならない。


 それは奴自身も分かっているのか、僕の言葉には異議を返すことなく頷いていた。



 そうして、何度かお茶のお代わりを淹れつつ、隆盛が出した結論はこうだ。



「……行ってみるか、祠」


「なぬ?」



 意外にも、それは僕が最初に思い付いたものと同じ案だった。


「ここでうだうだと考えてても仕方ないだろ。話を聞く限り、そうなった原因は間違いなくその祠だ。なら、もう一度行って元の体に戻る手がかりがないか探してみるしかない」


 まさしく、その通りであった。あの祠が何らかの形で関与しているのは間違いない。である以上、真っ先に調べるべきは祠だ。


 ただ、隆盛の言い方に引っかかりを覚えた。まるで、奴も同行するかのような口ぶりだ。


「いや、わしは元よりそのつもりじゃったが……お主も来るのか?」


 そう問いかけると、隆盛は馬鹿にするように笑ってみせた。


「お前、その体でどうやってあの村まで行くつもりだ?」


「ぬぐっ……痛いところを突いてくるのぉ……」


 この姿では、公共機関はまず利用出来ない。使えるとすれば、タクシーか、車か。車の免許なんてものは当然持っているはずもないので、残る選択肢は必然的にタクシーのみになる。


 が……バスで数時間かかる道のりをタクシーで走れば、どれだけ高く付くだろう。想像したくもない金額になるはずだ。



 そこまで考えてから、ふと、疑問に思った。確かに僕一人であの村まで行くことは難しいが、それは隆盛が増えたとて同じこと。同行者が増えるかそうでないかの違いでしかない。



「じゃが待て。それはそうとしても、あの村までの足はどう用意するつもりじゃ。バスなんぞ出ておらんぞ」


「そこはほら、ガソリン代の代わりだと思って、お前が一肌脱ぐんだよ」


「ぬ?」


 『安心しろ』とでも言いたげに、そう答える隆盛。何を言っているのかはよく分からないが……口ぶりから察するに、何か手があるのだろう。車を出してくれる知人だとか、そういうものが。

 僕が一肌脱ぐ、という発言が、何やら不穏な雰囲気を醸し出しているが……この際、文句は言えまい。まずはあの祠に戻ることが先決だ。


 混乱する僕をよそに、隆盛は一人、残っていたお茶を飲み干し、お茶菓子も全て平らげ、帰り支度を始めた。


「ま、すぐに分かるよ。昼過ぎにでも出発しよう。明日も休みだしな。二時間後にまた来る」


「お、おお……なら、支度をして待っておる……」


 何やら忙しそうに、隆盛は去っていった。どんな手を用意してくれるのかは分からないが……出発は二時間後。そう悠長にしている時間もない。



 まずは……そうだな。




「わし……もしや着る服が無いのでは?」




……着替え、からだな。いつまでもぶかぶかな制服を着ているわけにもいかない。かと言って、二時間で服を買いに行けるはずもないし、そもそもこの姿で外に出られるわけがない。



「……そうじゃ。確か、物置に……」



 僕が子供の頃に着ていた服が、まだ残っていたはずだ。母さんは物を捨てられないタイプの人だったから。

 寝室へと向かい、物置の扉を開ける。最近は特に用もなく、開くのも久し振りだったせいか、少し埃っぽい。

 その中を漁り、子供用の服を探した。プラスチックのケースに入れて、物置の奥深くに仕舞い込んでいたはずだ。




「あった……!」




 探し始めて一五分。ようやく、子供服が入ったケースを見つけた。

 蓋を開けると、やはり埃っぽい。もう何年も……下手をすれば、一〇年以上前の服だ。虫食いがなくて、まともに着ることが出来る状態ならそれ以上は望まない。


「これはダメ、これは大きい、これは食われておるし……」


 ケースをひっくり返し、中身を選別していく。あまりにもサイズが違いすぎるものや、虫に食われているもの、デザインが奇抜すぎて着ることが出来ないものなどを除けば……残ったものは、上が三着と下が二本。

 これだけあれば、洗濯をしながら着れば何とか繋いでいけるだろう。今日と明日繋ぐことが出来れば、後はネットショッピングで増やせばいい。


 時計を見れば、約束の時間まであと一時間半と少し。これだけの量なら、今すぐに洗濯して乾燥機にかければ間に合うだろう。


「服はこれでよし……あとは、風呂と飯じゃの……!」


 昨日は風呂にも入らず、夕食も摂っていない。朝は起きてすぐに隆盛が来たものだから、結局食わずじまいだ。洗濯機を動かしている間に、その二つを済ませてしまおう。













——そして、約束の時間。





「……ふむ。意外と様になっておるの……」


 子供の頃着ていた服だということで、幼稚な見た目になることを覚悟していたものの、この狐のような見た目も相まってか、想像よりは可愛らしく仕上がった。

 少々男の子らしさに重点が置かれているものの、それは僕自身が男だから仕方のないこと。許容範囲内だ。

 ただ……ズボンだけは、履くのにかなりの時間を要した。何せ、今の僕には大きな毛の塊のような尻尾が生えている。漫画やアニメのように、ズボンに丸い穴を開けてそこに通すことが出来れば楽だろうが、初めてのことでこれが上手くいかない。


 結局、尻尾の当たる部分の布地を少し切り落とし、ズボンを下げ気味に履くことで解決した。締め付けはベルトで調整が出来たので良しとしよう。


 準備は整った。修学旅行で使用した大きな鞄に替えの服を詰め込み、隆盛が戻ってくるのを待つ。



 時計が、丁度午後二時を差した頃だろうか。再びインターホンの音が鳴り響く。



 玄関に駆け寄り扉を開けると、動きやすい格好をした隆盛がいた。探索する準備は万端、と言ったところか。


「準備、出来てるか?」


「うむ、いつでも構わんのじゃよ」


「そうか。なら、出発の前に……」


「む?」


 そう言って、隆盛が横にずれる。その背後から、大きな影が猛烈な勢いで迫ってきた。


 影は勢いをそのままに僕に抱きつくと、断りも無しに耳や尻尾を弄り始めた。



「やぁん、可愛いぃっっ!!」


「ななっっ、なんじゃぁっ!?」



 思わぬ事態に困惑する僕。と、それでも変わらずもふり続ける影。それは、僕たちよりいくつか歳を重ねていそうな女性だった。


「樹は初めてだったな。俺の姉貴、柳田椿(やなぎだつばき)だ」


「初めまして、樹ちゃんっ!」


 女性改め、隆盛の姉である椿さんは、握手の代わりに僕の髪に頭を埋めた。髪の中から、凄まじい勢いで息をする音が聞こえる。

 俗に言う『猫吸い』とやらと同じ感覚なのだろう。まさかこれを人間相手に行う者がいるとは思わなかった。


 隆盛は一人、その光景を見て複雑そうな表情をしていた。そこで、先ほど奴が言っていた言葉の意味を理解する。


「り、隆盛お主っ……一肌脱ぐとはまさかっ……!」


「ああ。姉貴のそれ(・・)に付き合うことが、村に送ってもらう条件だ」


「嘘じゃろっ!?」


 こんなことになるとは思っていなかった。椿さんは、僕のことを猫カフェにいる猫か何かだと思っている。『触れ合える大きな狐』だとでも思っているのだろう。

 でなければ、この容赦のない手付きの説明が付かない。思う存分、堪能されている。



 それに……この距離は、僕としても色々と困るところがある。見た目がこうなってしまったとはいえ、中身は健全な男子高校生。椿さんは間違いなく美人という枠に分類される人だし、そんな人が僕の体の一部に顔を埋めて匂いを嗅いでいるという事態に、頭がおかしくなってしまいそうだった。


 それを引き剥がそうと、彼女の肩を持つ。きょとんとした顔をしながら、彼女は首を傾げた。『何故抵抗するの』とでも言わんばかりの表情だ。



「わわっ、わしっ、中身は男じゃぞっっ!?!?」


「大丈夫っ、『可愛いに性別は無い』っっ!」


「よっ、流石姉貴」



 そう言って、今度は尻尾を首に巻き付けて堪能しているようだった。


 もう、諦めるしかないのかもしれない。村に行く方法は限られているし、この状況を我慢すれば車で送ってくれると言うのだから……我慢するべきなのだろう。


 ただただ無心になりながら、椿さんの『お楽しみタイム』が早く終わることを心の中で祈り続けた。




 が、結局……解放されたのは、それから一五分後。暇を持て余した隆盛が話題を切り出すまで、椿さんはひたすら目の前のもふもふな幼女を堪能していたのであった。

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