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のじゃロリ、テストを乗り切る

「……終わった。なにもかも……」


「大袈裟だなぁ」



 二日間に及ぶ期末テスト本番が終了し、最後の答案用紙を回収されると同時に、そのまま机に突っ伏した。


 対する隆盛は、余裕綽々といった様子。僕に勉強を教えながら『良い復習になる』と常々口にしていた奴は、その言葉の通り、満足のいく結果を残せたのだろう。



「でもまあ、赤点は回避してるんだろ? 補習に引っ掛からなけりゃ大丈夫さ」


「むぐ……それは大丈夫だと……思いたいのじゃが……」


「そこは自信持ってくれよ……折角、付きっきりで教えてやったんだから……」



 勉強というものは、遅れた分を取り戻すことが一番難しい。それを、この身をもって実感した。これからも仙継士として動き続けるのであれば、まず第一に学業を優先しなければならない。

 まあ……今回のことは教訓として心に刻んでおくとしよう。いつ元の姿に戻れるかが分からない以上、この姿でもある程度の成績は収めておくべきだ。


 と、そこへ別の生徒がやってくる。クラスのイベント担当、三島さんだ。



「みーずーきーちゃんっ!」


「のわっ!?」



 三島さんは後ろから抱き付くように飛び掛かってくると、顔を近付け、にこにこと満面の笑みを浮かべながら言った。



「今日このあと、皆で晩ご飯食べに行くんだけど、水樹ちゃんもどう?」


「このあとか?」


「うん。テストお疲れ様会、ってことでね。柳田君も来るんだよね?」


「ああ」



 三島さんの問いに、隆盛は首を縦に振った。その様子を見るに、どうやら誘われていないのは僕だけのようだ。

 今日はこれといった用事もない。天音や雪さんに『宵山家へ来るように』と催促されてはいるが……まあ、それは明日以降でも構わないだろう。



「ならば、わしも行こう。特に用もないのでな」


「よかった! 水樹ちゃんだけ返信が無かったから、何か用事でもあるのかなって思っててね」


「返信?」



 思わず首を傾げると、隣にいた隆盛が呆れたようなため息をこぼした。



「……お前、クラスのグループメッセージ読んでないな?」


「……なんのことやら」


「ったく……」



 『なるほど』と、そこで漸く理解が及んだ。


 今時流行りのメッセージアプリ。そこにある『クラス全員が参加しているグループ』で、このテストお疲れ様会とやらの募集が行われていたらしい。

 ただ……残念なことに、僕はこのクラスのグループメッセージを、滅多なことでは覗かない。放っておいても、覗いても、通知が消えることがないから。段々面倒になってきて、そのまま放置してしまっていたのだ。


 基本的には、他愛のない会話ばかり。それ故、時折こういった重要な話があると見逃してしまう。

 隆盛の呆れ具合は更に増していたようで、三島さんも困ったような笑みを浮かべていた。



「詳しい内容はグループの方で書いてあるから、その通りお願い。水樹ちゃんが来るって知ったら、皆も喜ぶよ」


「そ、そうか……わかった」



 用が済んだからなのか、はたまた、この空気感に耐えられなかったからなのか。三島さんはそそくさと立ち去ってしまった。

 残された隆盛は、『ぽん』と僕の肩に手を置くと、首を横に振る。



「……そういえば、前からグループのメッセージは読まずに溜め込んでたな、お前」


「い、いや、読んでも読んでもなくならんでな……」


「気持ちは分かるがなぁ……」



 こちらに向けられる刺々しい視線から目を逸らしつつ、三島さんの言っていた『詳しい内容』とやらに目を通す。







——そうこうしているうちに時は過ぎ、放課後。一九時の集合時間までは暇を持て余すということで、久し振りに何かに追われることのない落ち着ける時間を作ることが出来た。


 思えば、仙継士になってからこれまで、ずっとドタバタと騒がしい日々で、何者にも平穏を脅かされない時間というものを忘れていた。


 まあ、やるべきことがないというわけでもない。暇を持て余しているなら、少しでもこの体のことを調べるべきなのだが……いかんせん、これ以上の手掛かりを見つけることが難しく、進展がない。



 家で仰向けに寝っ転がり、天井のシミを眺める。この姿になるまで、どうやって過ごしていたのか、もう思い出すことが出来ない。



「いかんいかん……このまま眠ってしまいそうじゃ……」



 体を起こし、眠気を吹き飛ばすように瞼を動かす。



……その時だった。




「……む?」




 夢の中の声を明確なものとするべく、家にいる間は纏衣を解放している。それが功を奏したのか、はたまた、偶然か……感じ取ったのは、微弱で奇妙な気配だった。


 仙力にとてもよく似ている。しかし、微弱すぎてそれが仙力だとは断言出来ない。

 ただ言えるのは、何か奇妙な力を感じ取ったということだけ。


 しかも、その気配は感じ取ると同時に消え去ってしまった。ほんの一瞬の出来事で、勘違いだとも思った。



「……いや、気の所為ではないのぅ……」



 ただの人間であった頃の僕ならば、妙な気配を感じたとしても気のせいだと言って片付けていただろう。

 だが、今の僕は仙継士だ。妙な気配を感じたのならば、そこには確かに何かがあったのだろう。



 考えられる候補は幾つかある。



 一つ。天音が訓練か何かで仙力を行使し、それを感じ取ったという説。

 が、これは否定出来る。天音とは何度も手合わせをしているし、彼女の仙力ならば感覚で区別出来る。故に、この説は薄い。


 二つ。茜音さんが近くに来ており、仙力を行使した説。

 これに関しては確実に否定することが出来ない。茜音さんの仙力をこの身で感じ取った経験がないためだ。


 三つ。何者かが、この領地に侵入して仙力を行使した。

 これは……極力、考えたくはない話だ。ようやく黒霧風雅の件が片付いたところだというのに、これ以上厄介なことには巻き込まれたくない。



「ふむ……天音にも知らせておくか……」



 念の為、天音には連絡しておいた方がいいだろう。二つ目の説であった場合、天音が即座に反応を返してくれるはずだ。


 天音にメッセージを送り、気配を感じ取った方向へと視線を送る。大きな窓と、そこから見える住宅街。当然、そこには誰もいないし、何もない。



「何事もなければよいが……」



 出来れば、平穏な日々を送りたい。ただただ、そう願うばかりだ。

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