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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
33/79

のじゃロリと友たちの祝宴

 戦が終わったその日の午後。連絡を受けて駆け付けた隆盛と共に、僕たちは祝宴の準備に追われていた。

 『一番の功労者』だから休んでおけとは言われたものの……食材費まで全て負担してもらい、準備も何も手伝わないというのは、少し気が引けたのだ。



「しっかし、見事なまでの圧勝だったらしいな」


「うむ。写真に収めるという約束は果たせなかったがのぅ……」



 食器の準備をしながら、隆盛に戦果の報告をする。主に、『約束は果たした』という報告を。


 黒霧風雅を完膚なきまでに叩きのめし、戦にも勝利したという話を聞いた隆盛は、とても満足げだった。あまり顔には出さないが、痛い思いをしたせいか、やはり黒霧風雅にはそれなりの恨みを持っていたのだろう。

 そして、予想通り、『命までは奪わなかった』と話せば、それにも満足げな反応を見せてくれた。どうやら、僕の選択は正しかったらしい。



「まあ、いいさ。どうせ、二度と拝むこともないんだろ?」


「当主の話ではな。黒霧風雅とは違って、父親は信用出来るじゃろう」


「そうか。なら良かった」



 それから、戦の最中に起きた細かな出来事や、学校での話を聞きながら準備をしていると、雪さんから声がかかった。仕上がった料理を運んでほしい、とのことだ。


——そういえば、噂によると、今回の戦は雪さんも影で大活躍していたらしい。何でも、黒霧の仙継士でない一般兵六人を、たった一人で無力化してしまったんだとか。宵山茜音もそばにはいたらしいが、一切の手助けを必要とせずに成し遂げたとのことだ。流石は雪さん、恐ろしい。



 兎にも角にも、仕上がった豪勢な食事を、一つ一つ慎重に運んでいく。宵山の屋敷で最も広い宴会室で、畳の上では珍しい立食形式。普段は違うのかもしれないが、もしかすると、僕や隆盛が堅苦しい場で緊張しないように用意をしてくれたのかもしれない。


 そして、料理も含め、全ての準備が整った。祝宴には当然、当主である宵山茜音やその側近も在席しており、少しでも目が合うと、バチバチと火花が散りそうなほど熱い視線を送ってきた。まだ、好感度はそれほど上がっていないらしい。



「睨まれてるな」


「睨まれておるのぅ……」



 隆盛は他人事のように言った。実際、他人事ではあるのだが。

 ただ、朝のように突然殺意を放つようなことまではしなかった。皆の前だからなのか、戦を勝利へ導いた功績だけは認められているのか。


 一先ず指定されたテーブルの前へと移動し、宴の開始を待つ。すると、天音がグラス片手に前に出た。




「腹を空かせている者もいるだろうから、挨拶なんてものは手短に済まそう」



 宴前のスピーチだろう。この場にいる全員が、彼女の言葉に耳を傾けていた。



「皆、今日までよく頑張ってくれた。皆の尽力のおかげで……黒霧家を打ち倒すことが出来た。今日は祝宴だ。日頃の疲れを癒すつもりで、思う存分羽目を外してくれ」



 そう言って、彼女がグラスを掲げる。手短に済ませると言って、本当に手短に済むことがあるのかと、少し驚いた。


 家臣や宵山茜音、隆盛も、皆が彼女のいる方へ向けてグラスを掲げている。僕も同じように、ジュースが入ったグラスを手に取り、彼女へ捧げた。


 天音は宴会場を一通り見渡し、全員の準備が整ったのを見ると、宴会場を飛び出して聞こえるほど大きな声を響き渡らせた。



「では……乾杯っ!」



『『『乾杯っっ!!』』』




 そうして、宴が始まった。天音の言葉通り、普段は顔を隠している家臣たちも素顔を曝け出し、思い思いに羽目を外している。

 それを咎めようとする者は、この場にはいない。それどころか、天音はどこか満足そうな笑みを浮かべながら、その光景を眺めていた。


 彼女は、良い主君になるだろう。いや、既になっているだろうか。もしも会社勤めをするのなら、彼女のような人間が上司になってほしい。そう思える。


 一方、隣にいる隆盛は、あらゆるテーブルからありとあらゆる料理をかき集め、リスのように頬を膨らませながら宴を楽しんでいるようだった。



「なあ、ああいうのって普通は当主がするものなんじゃないのか?」



 口に含んでいるものをまとめて胃に落としてから、隆盛が言った。視線の先には、家臣の皆と談笑する天音の姿があった。

 奴の言う『ああいうの』とは、乾杯前のスピーチのことだろう。会社の宴会等であれば、それなりの地位にいる者が司会を務め、社長などの会社のトップの人間がスピーチをするだろう。宴にせよ集会活動にせよ、基本的にはトップの人間が務めることが多い。



「今の宵山は、家門の習わしで実質的に天音が運営しているようじゃよ。詳しいことは知らんが」



 隆盛の言葉に、僕はそう答えた。


 以前、宵山茜音の話題に絡めて、そんな話を聞いたことがある。宵山茜音がこの本邸ではなく別邸に暮らしているのは、どうにもその『習わし』に理由があるらしく、その影響で実質的な家門の運営は天音がしているのだとか。

 詳しい話は聞かされていないが……黒霧雲源の言っていたことも考えると、『当主の座の継承』などの問題なのかもしれない。



「なるほどなぁ。仙継士ってのも色々あるんだな」



 そう言いながら、肉の塊と米を口に押し込んでいく隆盛。テレビでよく見るフードファイターさながらの食いっぷりだ。


 その奥から、談笑を終えた天音がこちらへやってくる。グラスだけを手に、まだ食事には手を付けていないようだった。



「食べてるか?」


「うむ。やはり、宵山の料理人は良い腕をしておるの」



 料理の質で言えば、高級レストランのそれのような、普段では中々味わえないものであった。

 天音は僕の返答に満更でもない笑みを浮かべると、グラスをテーブルに置き、空いていた小皿に料理を取り分け始めた。



「というか、宵山さん……今更だけど、俺まで頂いちゃって良かったのか? 今回、特に何もしてないけど」



 その隣で、どこか気まずい雰囲気を醸し出しながら、隆盛が言った。



「構わん。友を招くことに、何の問題があるというんだ」


「それなら良かった。タダ飯食らいだって怒られるんじゃないかと思ったよ」



 そも、隆盛を宴に招待しようと提案したのは天音だ。心配せずとも、何も問題はないのである。


 隆盛の不安を拭うと、天音は小さな肉の塊を頬張った。様子を見るに、まだ何も食べていなかったのか、パンや揚げ物も次々と口へと放り込んでいく。



「んん、美味いな」


「お主らはもう少し落ち着いて食えんのか……」



 隆盛も天音も、押し込むようにして食事をしている。あまり身体には良くない食べ方だ。

 




「……それより、これで少しの間は休めそうか?」


「分からん……黒霧の件はカタが付いたが、別にそれだけが問題ってわけでもないしな」



 食事をしている最中の彼女にそう言葉をかけると、手を止めずに食べ物を頬張ったままで、そんな答えを返してきた。


 ここ最近問題になっていた、黒霧家との戦。今回の聖石占有戦の勝利によって、宵山家は安寧を得た。黒霧雲源が当主の座にいる限りは、黒霧風雅がこのような真似を犯すことはないだろう。


 黒霧雲源による降伏宣言ののち、三枝家を交えた戦後の会談では、色々と取り決めが交わされていた。勝者と敗者との間で、領地や人員のやり取りを行うのだ。

 その中で、勝者である宵山が黒霧に誓わせたことがある。それは、『次代である黒霧風雅が当主の座を継承し、そしてその座を離れるまでの間、黒霧家は要請がない限り宵山家への接触を禁じる』というものだ。


 天音曰く、永久的な不干渉を誓わせることは不可能らしい。今回の戦の規模自体が小さなものであったことやその他諸々の理由から、『宵山側に敗北した張本人』である黒霧風雅の代まで効力を持たせることが精一杯だそうだ。


 ただ、それだけでも十分だろう。将来的な禍根が残る可能性はあるが、少なくとも、今後数十年は黒霧家に難癖を付けられなくて済むのだから。


 他にも色々とやり取りはあったのだが……とにもかくにも、これでこの案件はひと段落したということだけは確実だ。



 天音の顔色には、まだ幾分か疲れが見えるが、それでもふとした瞬間に垣間見せる笑顔は、活力に満ち溢れたものだった。



「まあ……お前のおかげで、厄介だった悩みの種が消えたことは確かだ。本当に感謝している」


「なに、これで少しでも借りを返せたのなら、安いものなのじゃ」



 頭を下げようとした天音を制止する。元々、彼女には色々と借りがあったのだ。今回の件でそれの全てを精算出来たとは思っていないが、少しでも返せたのなら、こちらにとっても都合が良い。



「隆盛も……巻き込んでしまってすまなかった。黒霧と同様、宵山としても補償はする」


「またまた。もう何度も謝ってくれてるんだし、祝いの場でそういう話は無しだろ」


「ふっ、そうか……」



 隆盛の男らしい対応に、天音は嬉しそうに微笑むと、その視線の先に何かを見つけたのか、はっとした表情で皿とグラスを手に取った。


 彼女が見つけたのは、彼女を呼ぶ家臣たちだ。何が問題ごとが起きた様子ではなく、単にコミニュケーションを図るためだろう。天音は皆から好かれる当主なのだ。



「おっと……すまん、また後でな」



 そう告げた天音を見送り、僕たちは再び二人になった。



「宵山さんも大変だなぁ。あの人もまだ若いんだろ?」


「歳は知らぬ。まあ、椿殿とそう変わらんはずじゃが」


「だよな。その歳でこんなに大勢をまとめて……」



 見た目だけで言えば実の姉と同年代だからか、しみじみと語る隆盛。他の人間と比べて、天音の多忙さは群を抜いているだろう。


 そして、隆盛もまた、何かに気づいたように肩を強張らせる。その視線は、僕の背後へと注がれていた。


……途端に、背筋を冷たい何かが這いずり回った、ような気がした。嫌な予感がする。それは、隆盛が感じているものと同じだろう。



「……あっ、俺、ちょっと雪さんのところに行ってくるわ。世話になったし、挨拶しておきたいからさ」


「あ、こら、待つのじゃっっ!」



 一目散に逃げる隆盛を追いかけ、その場から立ち去ろうとする。……も、肩が何者かに掴まれた。

 恐る恐る首を回して背後を確認すると……そこには、顔『だけ』が笑っている宵山茜音が立っていた。


……その視線には、修羅が宿っている。表情ではニコニコと笑っているものの、目がこれっぽっちも笑っていなかった。




「あらあら……別に、取って食いはしないわよ」


「な、何のご用じゃろうか……?」



——この人は苦手だ。嫌いだとか、そういう話ではないが……天音と親しくしている僕らを、目の敵のように思っている節がある。特に、僕を。


 果し状でも突き付けられるのではないか、と警戒していると、彼女は困ったように笑みを浮かべ、恥ずかしげに顔を逸らした。




「……あなたのおかげで、こうして笑って祝宴をあげることが出来た。そのことには……感謝しなければいけないと思ったのよ」




 ほんの少し顔を赤らめながら、これまでとは違った態度を見せる宵山茜音。


 そうか。もしかすると……彼女なりに、僕のことを認めてくれたのかもしれない。


 彼女は決して悪人ではない。ただ、娘である天音への愛が過剰なまでに行き過ぎているだけだ。

 そして、それと同様に、宵山家全体のことも考えているはず。宵山を救ったとも言える僕のことを、少なくともこの場では、邪険には出来ない。



「茜音殿……」


「けれどっ! 私の天音ちゃんは渡さないわ。せっちゃんもあなたのことを気に入っているようだけれど、私はまだ認めてませんからねっ!」



 『びしっ』と人差し指を僕の額に押し付け、それだけ言って彼女は立ち去った。プンプンと頬を膨らませ、照れたような怒ったような、そんな顔をして。


 残念ながら、まだ僕のことを認めてはくれていなかったようだ。



 結果的に一人取り残された僕は、その場にポカンと立ち尽くすしかなかった。嵐のように過ぎ去っていった茜音さんの背中を見送りながら、捨て台詞のように吐かれた最後の言葉を思い起こす。



「……なんだったのじゃ……? というか、『せっちゃん』とは誰じゃ……」



 その『せっちゃん』というのが雪さんのことを指すのだという事実を知ったのは、まだもう少し先のことだ。












——それから、数時間後。祝宴は盛況ののちに幕を下ろし、僕と隆盛はそのまま屋敷に泊まることになった。


 月も上がってすっかり暗くなってしまった午後九時頃。風呂に向かう途中で廊下の先に人影を見た。



「……む?」



 目を凝らすと、それは隆盛だった。あくびを漏らしながら歩いてくる奴は、同じようにこちらに気が付いた。



「風呂上がりか、隆盛」


「おう。お前も今から風呂か?」


「うむ」


「そうか」



 宴の最中に、話したいことは全て話した。戦闘と学校でお互い疲れているし、これ以上時間を割く気力も残されていない。


 そのまますれ違い、風呂へ向かおうとする。そんな僕を、奴が呼び止めた。



「あ、そうだ。水樹、ちょっと聞きたかったんだけどよ」


「む、どうした?」



 振り返って見た奴の表情は、何故か神妙なものであった。


 そして、隆盛がゆっくりと、口を開く。




「お前の目……ずっと赤い(・・・・・)けど、それも仙力ってやつなのか?」


「目?」


「ああ。ほら、お前、目は黒かった(・・・・・・)だろ?」




 そういえば、と思い、スマートフォンでカメラを開いて自分の顔を映し出す。


 この姿になってからも、瞳の色は変わらず黒であった。しかし、今回の戦で纏衣を解放した影響なのか、黒かった瞳が赤く染まってしまったのだ。

 帰ってきて手を洗う時に、鏡を見て気付いてはいた。しかし、どうせすぐに戻るだろうと、特に気にもしていなかった。


 宴で飲んで食べて騒いでと繰り返すうちに、そんな疑念はいつの間にか脳の奥底へと追いやられていた。そして、今の今まで忘れてしまっていたのだ。



「そうじゃのぅ……気にしとらんかったが、纏衣の影響か……?」


「さあな。俺は仙力とかその辺りのことは分からないから、宵山さんに聞いた方が確実だろ」



 この姿になった時……つまり、初めて纏衣を解放して目が覚めた時も、瞳の色は黒だった。使った力によって姿が変化することがあるのかもしれない。隆盛の言う通り、何か問題があるようなら天音に確認した方がいいだろう。



「まあ、なにか害があるわけでもなし……放っておけばそのうち戻るじゃろ」


「そうか。何もないんならそれでいいんだ。それじゃあ、おやすみ」


「うむ。おやすみ、隆盛」



 そう言って、隆盛とは別れた。目の件は……明日戻っていなければ、その時に考えるとしよう。



 とにかく……今日は疲れた。初めての戦に、祝宴。一般人だった頃では考えられないようなことばかりが起こった。

 まだこの姿のことは何も分かってはいないが、少なくとも、この姿になって得たものもある。そう考えれば、悪くはない。



 黒霧との件も片付いたことだし、明日からは学校に通いながら、あの祠や僕の姿が変わってしまった原因の調査を再開することにしよう。


 きっと……それくらいの時間は、あるだろうから。


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