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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリと争いの終わり

「そもそも、この戦は俺の愚息が全て企てたことだ。言い逃れに聞こえるかもしれないが、俺はこれまでの件に関与していないということだけ、先に言っておく」



 被害を受けた側からすれば、経緯はどうであれ害を受けた事実に変わりはない。

 だが、この前置きがあるのとないのとでは、黒霧雲源に対する対応というものも変わってくる。この男が直接関わっていないというのであれば、今後についても交渉の余地はあるということだ。



「これまでの件ということは……お主の倅が、わしの友に手を出したことも知っておるのじゃな?」


「ああ。本当に、すまないと思っている」



 そう言って、黒霧雲源は深々と頭を下げた。あくまで僕の直感ではあるが、嘘は吐いていないように思う。


……しかし、そうなってくると、また別の疑問が浮上してくるのだ。



「……黒霧風雅は、何故今になって戦を?」



 その疑問は、天音が言葉にした。

 黒霧家当主はこの戦に関与していない。黒霧風雅が独断で決行したことだと言うのであれば、何故戦を起こしたのか、その理由が分からない。


 黒霧雲源は頭を上げ、難しい顔をして答える。



「……宵山の人間なら知っているだろうが、俺が黒霧の当主の座を継いでからは戦は起きていない。いや、起こしていないんだ」



 『起こしていない』


 それはつまり、現当主が自らの意思で戦を回避していたことを示している。

 戦が起きていないことは間違いない。事実、天音も前の戦争が起きたのは、彼女の祖母の代だと言っていた。


「正直……俺は、戦だ何だはあまり好かなくてな。これ以上領地を拡大する必要性もなかったし、宵山家との禍根は俺の代で断ち切ろうと思っていた」


「その見た目で戦を好かんじゃと……!?」


「どういう意味だ」



 『ぎろり』と、鋭い眼光が飛んでくる。余計な一言だったかもしれない。何せ、いかにも争い事が好きそうな見た目をしているのだ。驚きを隠せなかった。


 思わず目を逸らすと、黒霧雲源は呆れたようにため息をこぼし、話を続けた。



「……だが、風雅は違う。どこで育て方を間違えたのか、あいつは……俺の父、今は亡き先代当主に似てプライドが高く、強い野心を持つ人間になってしまった」



 プライドと野心。そう言われ、心の中で頷いた。黒霧風雅を表すのに、これ以上ない的確な言葉だろう。



「それでもって、実は今、当主の座の継承で少しいざこざがあってな……風雅は、俺に認められるために手柄を急いだんだろう」


「その結果が、宵山家との戦ですか」



 彼が、首を縦に振る。


 当主の座の継承や、家門間・内の問題のことは僕には分からない。家門として認められたものの、まだ一般人とさほど変わらない状態だ。


 だが、奴と同じく次期当主の座にいる天音は、何か思うところがあるようだった。顎に手をやり俯いたまま、真剣な表情をしている。



「戦ともなれば、当主である俺は参戦しないわけにはいかん。だからここで、改めて風雅の素質を見極めようと思っていた」


「結果はどうじゃ?」



 今度は、渋々といった様子で、首を横に振る。



「この通り……あいつは相手の力量も見極められず、喧嘩を売る相手も間違えた。まだ、当主の器じゃない」



 そう言って、黒霧雲源はその場に膝をつき、座り込んだ。正座の状態だ。



「……すまなかった。怪我をしたというお前さんの友人への支援も約束する。金輪際、風雅を宵山家に近寄らせないようにもしよう。だからどうか……これで、手打ちにしてはくれないか」



 彼は頭を下げ、教科書に載せられるほど見事な土下座をしてみせた。


 一家門の当主が、別家門の次期当主と新参家門の人間に土下座をする。これがいかに異常な事態であるかは、流石の僕でも理解出来た。

 元々は、黒霧風雅を倒した後、当主も倒してこの戦を終わらせるつもりだった。だが、ここまでされれば戦う意思も失せてしまう。


 それに……僕の目的は、黒霧風雅を倒すことだ。その目的が達せられた今、『争い』に固執する理由はない。


 判断を仰ごうと、天音の方を見る。彼女も同じことを考えていたようで、困ったように笑っていた。



「……私が決めることか、これ? 被害を受けてるのはお前だろ、水樹」


「丸投げしたいのが目に見えておるぞ……」



 要約すれば、『面倒な話はそちらで済ませろ』ということだろう。仕方ない。



 土下座をする黒霧雲源の正面に立ち、いまだ下げられたままの後頭部に向かって言葉をかける。



「……そも、わしは元より、あやつの命まで奪う気はない。わしの友は今もピンピンしておるからの」



 隆盛が殺されてしまったのなら話は別だが、全治二ヶ月の怪我を負ってしまったものの、本人は今も学校に通っているほど元気が有り余っている。その罰として奴の命を奪うのでは、天秤がどうにも吊り合わない。


 それに、命まで奪うのは、当の隆盛自身が拒むだろう。あれは善人だ。他者の命を奪うこと、それも、親友の手で奪わせることを望みはしない。



 ただ、折角当主がこう言ってくれているのだ。出来得る限りの恩恵は受けて、手打ちとしよう。



「……じゃが、元はと言えばお主があやつを抑え込めておれば起きなかった事案じゃ。故に、このまま降伏を宣言するのなら、手打ちにしてもよい」




 そんな言葉をかけると、黒霧雲源は一度頭を上げ、満足げに微笑んだ。




「……感謝する、篠宮家当主殿」


「うむ。ならば面をあげよ。此度はこれで幕引きとしよう」




 彼の笑みに、こちらも笑顔で返し、立ち上がらせる。彼はすぐに無線機を取り出し、三枝家の人間に向かって宣言した。




「黒霧家は、現時点をもって当聖石占有戦の降伏を宣言する」




 その言葉を皮切りに、戦場に騒がしいアラーム音が鳴り響いた。本来は制限時間の終了と共に流れる音らしいが、黒霧家が降伏宣言をしたことで、この場にいない者に終戦を告げるために流されている。



——終わった。復讐も終え、戦にも勝った。これ以上ない、満足のいく結果だ。

 開戦の通達がなされてからここまで、どこか表情の奥底に不安が見えていた天音も、安心しきったように表情を崩していた。



「……今宵は宴じゃの」


「ああ……豪勢な食事にしよう。隆盛も呼んでな」



 彼女に向けて、拳を突き出す。彼女は疲れの残る笑顔を浮かべ、『こつん』と、拳を突き返してきた。


 


次回、一章最終話『のじゃロリと友たちの祝宴』

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