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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリと挟撃の末路

 何としてでも篠宮水樹を無力化せよ。それが、聖石の防衛に失敗した私に下された命令だった。



 開戦直後、最速で第一地点の小聖石のもとへ向かった秋月(あきづき)が、少し遅れて私がやってきた頃には既に戦闘不能になっていた。それだけでなく、守るべき対象までもが破壊されていた。


 篠宮水樹。開戦前、風雅様は奴のことを『大した脅威ではないだろう』と評していたが……それは誤りだ。この場にいる誰よりも、奴の動きを警戒しておくべきだった。



 それから風雅様は言った。奴に気付かれないよう距離を取りながら後を尾け、風雅様の一撃に合わせて挟撃せよと。


 自信はあった。宵山家と同じく隠密行動を得意とする私なら、篠宮水樹の感知出来ない場所から不意の一撃を仕掛けることが出来ると。


(私なら出来る……ここで奴を倒せば、宵山は終わったも同然だ)


 ぐっと拳を作り、宵山天音と合流した奴の後を追う。奴らは真っ直ぐ、第二地点へと向かっていた。風雅様はそこで奴らを二人を迎え撃つつもりだ。

 風雅様の纏衣ならば……私の助力などなくとも、奴らを討てるだろう。私はほんの少し、お力添えをするだけ。










——そう、思っていたのだ。




 風雅様が纏衣を解放し、風を無数の弾丸のようにして撃ち出す『風葬千雨(ふうそうせんう)』を発動する。風雅様の仙力によって、奴らの警戒は他へと向かなくなる。今がまさに、またとない好機。




「纏衣解放」




 廃屋から飛び出し、上空で纏衣を解放する。体中に、虫が這いずり回る様な不快感が走り、感覚が研ぎ澄まされた。



 今なら、やれる。



 奴らの視線は、目前に迫る無数の風に釘付けだ。纏衣を解放して仙力を放つようになってしまったとはいえ、既に私は奴を……篠宮水樹を捉えている。

 仮に、奴が私に気付いたとして、あの数の風を処理し、尚且つ私の一撃を防ぐことは不可能だ。



(この戦い……黒霧家の勝利だ)



 風雅様も勝利を確信し、思わず笑みをこぼしている。



 そして……ふと、目が合ったのだ。




 途端に、首元に鋭い刃物を突きつけられたような、強烈な悪寒を感じた。一言で言い表すのならば、それは、『恐怖』だった。



 目が合った。それは、風雅様とではない。






「……っっ!!」






 篠宮水樹(・・・・)が、首を曲げ、確かにこちらを見ている。不気味で、どこか妖艶な雰囲気を放つ奴の赤い瞳(・・・)が、大きく見開かれてこちらを見つめていた。



 人は、死を目前にすると、時が遅くなったように感じるらしい。思考が加速するだとか、精神と肉体が切り離されるだとか……そんな不思議な話は何度も聞いてきたが、一度も信じたことはなかった。


 だから、考えを改めることにした。今まさに、目の前に広がる光景が、まるでスローモーションになったかのようにゆっくりと見えたからだ。



 私を見つめる篠宮水樹は、遅くなった世界で私から視線を外すと、目前に迫っていた『風葬千雨』の弾丸を、目にも留まらぬ速さ(・・・・・・・・・)で一部は弾き、一部は叩き落とし始めた。


 全てが遅くなった世界で、篠宮水樹だけが加速して見えた。一体どうなっているのかが分からない。

 だが、奴は……その全てを処理してみせたのだ。暴風雨のように荒れ狂う風雅様の仙力を、擦り傷一つ負うことなく。



 それで終わりではなかった。仙力を無力化した篠宮水樹はそのまま体を反転させると、私に向けて手を突き出してきたのだ。



(っっ……!)



 その手を躱そうと、必死に力を込める。しかし、体は動かない。思考は加速し、奴の動きを追えているものの、肉体が対応することが出来ていないためだ。

 ゆっくりと、けれど確実に私に伸びてくる手を、分かっていても避けることが出来ない。


 そして、奴は無抵抗とも思える私の頭を掴むと、下方向へと力を込める。私の肉体は抗うことも出来ず、頭から急速に落下した。



……何が、起こったのだろう。この目で見ていたはずなのに、理解が追い付かない。ただ、一つはっきりしているのは……強い衝撃と痛みを受けた私の意識が、そこで途切れたということだ。













『『っっ!?』』



……その場にいた誰もが、その光景を理解出来なかった。彼女に迫る数え切れないほどの風の弾丸。そして、背後からは音も無き凶刃。誰もが、彼女が倒れると予想していた。


 しかし、結果は……目にも留まらぬ速さで風の弾丸を撃ち落としたのち、背後から忍び寄る纏衣状態の仙継士をあっという間に制圧してしまうものとなった。


 水樹は三田の頭部を掴んでいた手を離すと、ゆっくりと姿勢を正し、『こきり』と凝り固まった骨を鳴らした。

 


「遅い。雪殿に比べれば赤子のようじゃな」








——その頃、宵山家陣営、大聖石では。




「……くしゅんっ」



 珍しく可愛らしいくしゃみをした雪を見て、宵山茜音はからかうように言った。



「あらあら……どうしたの、せっちゃん。風邪かしら?」


「いえ……どうやら、どこかで噂話をされているようです」



 自身の健康を少しも疑わず、雪は言う。誰が噂話をしているのか、何となくの予感を持ちながらも……彼女は手に持っていた『それ』を投げ捨てた。


 投げ捨てられたそれ……仙力を持たぬ一般兵は、同じく気を失った一般兵の山の上に積み重なる。その数、六。


 黒霧風雅の指示で、宵山家の戦力を削ぎ落とすべく投下された六人の精鋭たちは、宵山家の誇る最強の家臣、雪によって瞬く間に蹴散らされていた。

 念の為に用意された仙具、『鉄砕』の出番もないまま、雪は落ち着いた様子で黒霧陣営の方向を見つめる。



「……水樹様が、派手に暴れているようですね」



 独り言のように呟かれたそれを、宵山茜音は聞いた。そして、こう問いかけた。



「……ずっと聞きたかったのだけど、彼女……どれくらい強いの?」


「そうですね。生身の状態であれば、まだ私が負けることはありませんが……」



 短期間のことではあったが、水樹は雪の指導を受けていた。元が戦闘訓練も受けていない一般人であることを考えれば、彼女の成長は目覚ましいものであった。

 しかし、生身であれば、まだ雪に軍配が上がる。戦闘経験の差において、水樹は雪に遠く及ばない。



 が、そう……生身であれば、の話だ。



 雪は目を瞑ると、呆れたようにため息をこぼしてみせた。



「纏衣を解放されれば、私など手も足も出ません。力の底が見えない、と言いましょうか」


「あ、あらあら……あのせっちゃんが、手も足も出ない、か……」



 雪の戦闘力を知る宵山茜音は、彼女の言葉にただ頷くことしか出来なかった。

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