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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、初めての説得

 リビングにある丸テーブルを挟んで、僕たちは座っていた。


 片や、腕を組み、『ゴゴゴゴ』という漫画によくありがちな効果音が見えてきそうな威圧感を放つ、隆盛。


 片や、それを前にして萎縮し、狐耳をへたらせた幼女。つまり、僕だ。




「……俺は物分かりが悪くてな。だから、一度聞いただけじゃ理解出来ないことも多いんだが……」




 腕を組む隆盛の瞳が、ぎろりと見開かれる。思わず、『ひぃっ』と小さな悲鳴をあげてしまった。




 遡ること二〇分ほど前。不慮の事故によってこの姿を見られてしまった僕は、仕方なく、隆盛を部屋へと招き入れた。

 一応は客人だ。もてなすためにお茶でも淹れようと準備している最中も、リビングで座る隆盛からは、妙に圧の強い視線ばかりが飛んできていた。


 そうして、もてなす準備が整い、僕を含めて二人が共に着席してから、僕はここに至るまでの経緯(いきさつ)を話した。

 経緯、とは言うものの、僕自身がこの状況を理解出来ていないために、話せることはほんの僅かな情報だけだ。



『朝目が覚めたら、この姿になっていた』



 ほんの少し、ただそれだけを話した。


 それからだ。隆盛が威圧感を放つようになったのは。




「ドッキリ大成功の看板を出すなら……今が最後のチャンスだぞ、樹……」


「ち、違うのじゃ! どっきりなどではないのじゃっっ!!」




 どうやら隆盛は、この事態を『僕が仕組んだドッキリ』か何かだと思っているらしい。

 いや、妥当な判断だ。『友人が突然狐耳を生やした幼女になった』という話よりも、余程現実味がある。


「ほら、お前、耳にイヤホンでも付けて指示を受けてるんだろ」


「な、何をするっ!?」


 隆盛が身を乗り出し、長くなった僕の白い髪を掻き分けた。目的は、耳に付けている(と隆盛が推測している)イヤホンを外すため。


 しかし、隆盛はすぐさま首を傾げた。



「……ない」


「当然じゃ! どっきりなどではないと言っておろうっ!」


「いや、耳が無い」


 しれっと、そう告げる隆盛。


 最初は……その言葉の意味が分からなかった。耳ならある。頭の上に、立派な狐耳が。

 そこまで考えてから、それが既に人間の思考からは外れたものだということに気付いた。普通、人間の頭には、狐耳など生えていない。耳と言えば、頭の側面に付いているものだ。



「っ!?」



 慌てて、本来人間の耳が位置するであろう場所に手を当てる。どれだけ触っても、髪を掻き分けても、そこに人としての耳は存在しなかった。


「な……なんじゃこれっ!? わ、わしの耳はっっ!?」


「いや、知らんが。最近のコスプレってのは進んでるんだな」


「そんなわけあるかぁっ!」


 思わず、机を叩きつける。


 直後、テーブルに巨大な亀裂が走った。それほど強く叩きつけたわけでもなく……そもそも、強く叩きつけた程度で亀裂が走るほど、安物のテーブルでもない。


 経年劣化……いいや。このテーブルはまだ購入してから数年しか使用していないはずだ。少しの衝撃で亀裂が走るほど劣化していたとは思えない。




……もう、意味が分からない。朝起きてから、奇妙なことの連続だ。幼女の姿に変わってしまうし、軽く叩きつけただけでテーブルは割れてしまうし……何が何だか、分からない。




「なんなのじゃ、本当にっ……」



 亀裂が走ったテーブルに肘をつき、頭を抱える。隆盛はただ静かに、何か考え事をしているようだった。



「……なあ」


「なんじゃ……」



 やがて口を開くと、隆盛はこんなことを言い出した。


「お前が本当に樹だって言うんなら、樹にしか答えられない質問にも答えられるはずだ。違うか?」


「じゃから、わしは正真正銘、佐藤樹だと言っておるのに……それで、質問とはなんなのじゃ?」


 そう問い返すと、隆盛は俯き、再び考え込むような仕草をとった。

 ここまで来れば、目の前にいる幼女が本物の佐藤樹だと、そう説得する体力さえも残ってはいない。説得したところで、どうなるわけでもなし。無駄な労力を使うくらいなら、ドッキリだと言ってこのまま帰した方が楽なのかもしれない。


 思考を続け、良い質問でも思い浮かんだのか、隆盛が頭を上げる。そして、右手を眼前に置き、人差し指を立てた。



「じゃあ……去年の夏、ゲーセンでやったバスケのゲームの最終スコア」


「なぬ……そんな細かい数字、覚えてるわけがなかろう……確か、八〇対一〇〇だかでお主の勝ちだったと思うが……」


 流れてくるボールをひたすら投げ続け、ゴールリングに入った数を競い合うゲーム。

 確かに、去年の夏、お互い未経験者であるにも関わらず、興味本位でプレイしたことは覚えている。だが、スコアまでは覚えていない。最終的に隆盛の勝ちで勝負を終えたことと、大体のスコア程度しか答えることが出来なかった。


 その答えに、隆盛は満足げに頷くと、今度は中指を立てた。


「この前の一学期末テストの数学の点数」


「わしが七八点。因みにお主は八八点」


 これは最近の出来事だから、鮮明に思い出せる。総合的な点数でも隆盛に負け、散々と煽られた記憶が残っていた。


 同じように、満足げに頷いた後、さらに薬指を立てる。


「去年の体力テスト、五〇メートル走のタイム」


「わしが七秒強でお主が六秒強! というか隆盛、お主、さては自分が勝った勝負事の質問しかしておらんなっ!?」


「バレたか」


 隆盛は悪戯な笑みを浮かべると、立てていた指を下げ、立ち上がった。


「何処へ行く?」


 僕のそんな質問に答えることもなく、無言で家中の扉を開けていく。


 恐らく、最終確認か。どこかに隠れている佐藤樹を見つけ出したいのだろう。残念ながら、本物の佐藤樹はここにいる。どれだけ探しても、佐藤樹の『さ』の字すら見つからない。



 そうして、家中を探索する隆盛を見守りながら、早一〇数分。諦めてリビングに帰ってきた隆盛は、再び席に着いた。


 こちらにも聞こえるほど大きな音を立てながら息を吸い、吐く。何か、自分に言い聞かせるような。そんな風に見えた。




「お前……本当に樹なのか?」




 先ほどとは打って変わって、深刻そうな表情をしながら、そう問いかける隆盛。ようやく、目の前の現実を呑み込んだようだ。


「初めから言っておろう。わしが佐藤樹じゃ。こんな姿になってしもうたがの」


「おいおい、嘘だろ……」


「嘘だと思いたいのはわしの方じゃよ。朝起きたらこうなっておったんじゃぞ」


 お前には実害も何もないだろう、などとくだらない感想を抱きながら、僕はため息をこぼした。

 経緯はどうであれ、隆盛は目の前にいる幼子が『佐藤樹』だということを理解してくれたようだ。これを進歩と捉えるべきか、成果無しと捉えるべきか。それを判断するのはまだ早計だというものだろう。


 つい先ほどまで僕がして見せたように、隆盛は頭を抱えている。現実を呑み込むことは出来たものの、受け入れる準備はまだ出来ていない、といったところか。


 だが、立ち直りの早さだけは一級品。首を振って無駄な思考を振り払うと、隆盛は真剣な面持ちで告げた。


「……分かった。話、詳しく聞くよ」

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