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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、いざこざに巻き込まれる

「……奴は黒霧風雅(くろぎりふうが)。大山県北部にある和道市(わどうし)を中心とした地域を領地にしている、黒霧家の次期当主だ」



 ため息をこぼしながら、そんな答えを返す天音。


 次期当主。即ち、天音と同じような立場にある人間だということ。ならば、奴の言っていた、『黒霧家が更なる力を手に入れる』という話も理解が出来る。

 仙継士の『遺伝』的なものがどういうものかは分からないが、こういうものは大抵、強き者と強き者を掛け合わせることで強き血を遺していくものだ。


 奴は僕の内にある仙人の力を見抜き、妻として迎え子を成すことで、黒霧家の更なる繁栄を目論んでいた。



「次期当主? なら、奴の目的は何だったんだ? 意識が朦朧としてて、会話が聞き取れなかったんだが」


「ああ。それは私も気になっていた。何を話していた?」



 林檎を齧りながら、二人が問いかけてくる。真面目な話をしているとは思えないほど、口の動きが活発だ。勿論、咀嚼の方で。



「……どうやら、わしを妻として迎え入れるつもりだったようじゃの。子を成せと言ってきた」


「はぁ!? 正気かっ!?」


「わしも同じことを聞いたのじゃがな……」



 驚きに満ちた表情をする隆盛。奴は僕が男だということを知っているから、天音よりも感情の振れ幅が大きいのだろう。


……しかし、こうして話していると、新たな疑問点も出てくる。次期当主ともあろう者が、それだけの目的で、わざわざ他族の領地にまで踏み込んでくるだろうか?



 一方、天音は林檎を持ったまま手を止め、何やら深刻な表情をしていた。



「今の話は本当か、水樹」


「む? ああ、概ねそのような話をしていた」


「何か問題があるのか、宵山さん」



 隆盛が問うと、天音はこくりと首を縦に振った。



「ああ、順番がおかしい」


「順番?」



 その意味がよく分からず、隆盛と二人、首を傾げる。

 天音は『いいか?』と前置いて、解説を始めた。



「奴が水樹のことを知ったのは、恐らく『狐火事件』の後だ。それ以前に知ったのだとしたら、既に接触していたはずだからな」



 奴と接触したのは水曜日。僕がこの姿で目覚めた……つまり、纏衣を解放したのが土曜日の朝。ここまでの間、およそ五日。事件以前の段階で仙力を捕捉していたのなら、もっと早い段階で接触していただろうというのが、天音の見解だ。


 確かに、一理ある。

 勿論、仙力の捕捉はしていたが、正確な居場所が分からないために接触してこなかった、という可能性もあるが……天音曰く、纏衣状態の僕は『膨大な量の仙力がダダ漏れになっていた』とのことで、その状況で居場所を把握出来ないのは不自然だ。



「だが……そもそも奴がこの町に来たのは、事件の『直前』だ。これが何を意味するか分かるか?」



 そこまで説明されて、ようやく理解が追い付いた。



「……そもそもの目的は、わしではない?」



 順番がおかしい。その通りだ。


 もし奴の目的が僕であったとするならば、存在すら知らない僕のことを探しに町にやってきたことになる。


 僕の答えに、天音は頷いた。



「ああ。奴は領地内で仙力を発し、わざわざこちらを挑発しているからな。その時点ではお前のことを知らなかったはずだ」


「水樹が狙いでこの町に来たけど、この町に来た段階では水樹のことを知らなかった、ってことか……」



 隆盛も理解出来たようだ。時系列がおかしな話になってくる。


 だとすれば、疑問が残る。



「ならば……奴の本来の目的はなんだったのじゃ?」



 奴は何らかの目的があってこの町に来た。そして、狐火事件で発生した仙力を捕捉し、僕のことを見つけた。

 そこで、奴は目的を切り替え、僕を手に入れようと動いた。こう考えるのが自然だ。


 だとしたら、奴がこの町に来た当初の目的は何だったのか。



 僕の問いに、天音は暫く沈黙したままだった。暗い表情をしている。何か、言いづらいことなのだろう。


 やがて決心したように一度目を瞑ると、今度はゆっくりと開き、彼女はある言葉を口にした。





「……戦だ」





 その言葉は僕らが予想していたようなものではなくて、瞬間、思わず、呆気に取られて言葉を失ってしまった。



「……今、なんと言った? 戦じゃと?」



 先ほどの言葉を飲み込み、確認するように問いかけると、彼女は真剣な表情のまま答えた。



「前にも言っただろう? 他族の領地内で仙力を使うことは『宣戦布告』に値すると。あの言葉は、文字通り受け取ってもらって構わない」


「戦って……一般人にも被害が出るんじゃないのか?」


「安心しろ。戦といっても、お前たちが想像しているようなものではない。あくまで、仙継士の一族が己の領地を懸けて行うものだ」



 彼女曰く、一般人に被害が及ぶようなものではなく、秘密裏に行われるものだそうだ。


 彼女が以前言っていた、『敗者は勝者に従う』といった言葉も、この戦のことを指していたのかもしれない。僕と天音の戦いが正式な戦の場であれば、今頃、この領地は僕のものとなっていたのだろう。

 


「領地を懸けるってことは……負ければ、ここも黒霧の領地になるのか?」


「奴らがそれを望めばな。まあ、十中八九そうなるだろうが」


「なんともまあ、大層な話になってきたのぅ……」



 仙継士の一族同士での争いだとか、領地を奪い合うだとか、少し前までは考えられなかったような話だ。随分と殺伐とした世界に足を踏み入れてしまったものだと思う。



 そこまで話して、天音は再び言葉を止めた。そして何やらこちらに向き直ると、じっと、僕の目を見つめてくる。



「どうした、天音」


「……水樹。お前に、折り入って頼みがある」



 改まった様子の天音の言葉に、僕は耳を傾けた。


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