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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、知らぬ間に渦の中心に立つ

……それからの後始末は大変だった。


 炎を目撃した屋敷の人間が集まって騒ぎ始め、更にその騒ぎを聞き付けた人間が集まって騒ぎ始め。

 幸い、近隣の住宅からの苦情や、消防車を呼ばれるような事態は避けることが出来たが……当然のことながら、天音はどこか恨めしそうに、僕のことを見つめていた。



「……わざとか? わざとなのか?」


「違う。誤解じゃ。そう詰め寄るな」



 じりじりと、距離を詰めてくる天音。事態の収拾に労力を割いたためか、疲れ切った表情をしている。



「くそっ……お前が現れてから事務の仕事が目に見えて増えたっ……疫病神なのかっ……!?」


「失敬なっ! わしのことを疫病神かなにかだと思っておるのかっ!?」


「だからそう言ってるだろうがっっ!」


「あいだだだだっっ!?」



 目の前までやってきた天音が、僕の頭を左右から指の関節で『ぐりぐり』と締め付けてくる。しかも、少しだけだが仙力の気配を感じる


 本気だ。本気で頭を潰しにきている。



「お前といると心労が増えてばかりだっ! 自覚はあるか、あぁっ!?」


「あるっ、あるのじゃぁっ!! じゃからそのぐりぐりするやつをやめてもらってもよいかのっ!?」



 先ほどのカカシのように、頭が潰れ、破裂し、中身をぶちまけるかと思ったその直後、強烈な圧迫感から解放される。


 痛みを堪えながら見上げると、『やれやれ』といった様子で、呆れた顔をしながら、天音が手を振るっていた。



「……今日はもう帰れ。良い時間だし、仙力の使い方も分かっただろ」



 見れば、時刻は既に午後四時を回っている。夕飯の買い出しもしなければならないし、確かに良い時間だ。



「うむ……次はお詫びの品でも持参するのじゃよ……」


「また来る気か、お前っ……!?」



 天音の絶望しきったような表情が面白くて、思わず『にへら』と笑ってしまう。

 勿論、これだけ迷惑をかけたのだから、暫くこのようなことは控えるつもりだ。


 特に、仙力に関しては、不用意に使うことは避けなければならない。宵山一族に観測されることもそうだが、町中で使用した際の被害規模が予想も出来ないからだ。


 仙力『狐火』。あんなものを町中で使用すれば、テロリストとして警察のお世話になってしまうだろう。それだけは避けなくてはならない。



 帰れと言われた以上、これ以上ここにいても迷惑がかかる。そう考え、早急に立ち去ろうと踵を返すと、天音が背後から呼び止めてきた。



「ああ、待て。帰る前に、いくつか伝えなきゃならないことがある」


「む?」



 何か用件でもあっただろうかと、再び振り返る。



「一つは、お前の学校の件。登校は明後日からだ。明日は一日、家でじっとしていろ」


「なぬっ、もう準備が出来たのか?」


「ああ。詳しい話はメッセージで送っておくから、自分で確認しろ」



 昨日頼んだばかりだというのに、明後日からはもう登校出来るとのこと。対応が迅速すぎて、どんな手を使ったのやら……想像も出来ないが、こちらとしてはありがたい話だ。


 だとすれば、明日には『佐藤樹』という人間があの学校からいなくなるのだろう。天音の話では転校したことにする、とのことだ。



 『篠宮水樹』



 姿は変わり、名前まで変えて、友人知人たちを騙すような真似をして再び学校に通う。罪悪感がないわけではないが、こればかりは仕方のないことだと割り切るしかない。


 天音の話はそれだけではなかった。むしろ、ここからが本題だと感じるほど、彼女の表情は真剣なものだった。



「それから……先ほど報告を受けたところだが、どうにも、この町に他所者の仙継士が紛れ込んでいるらしい」



 思わず、耳を疑った。また何かやらかしてしまったかと、心を跳ね上げさせてしまったからだ。


 ただ、彼女の言い方からして、僕の仕業ではない。それならそうと、『頭ぐりぐり』が再開されるだけだ。



……そう言えば、『狐火』の後始末の際、家臣らしき人と話し込んでいるところを見かけた。深刻そうに話しているから何事かと思ってはいたが、恐らく、この件に関しての話だったのだろう。



「他所者? わしではなく、か?」



 そう質問すると、彼女は自信満々に否定した。



「こればかりは違うな。確認されたのはつい先ほど。お前は私と一緒にいただろう?」


「それもそうか……ただこの地に用があっただけではないのか?」


「用があっただけで、わざわざ宵山の領地に踏み入ってまで仙力を使うか?」


「いや、可能性は低いのぅ……」



 そうだ。『仙継士が確認された』ということはつまり、宵山家の手が及ぶ範囲内にて何者かが仙力を使用したということだ。ただの観光ならいざ知らず、それならば仙力を使う必要性もない。


 そもそも、彼女自身が言っていたのだ。他族の領地内で仙力を使うということは、宣戦布告にも値するものだと。何の考えもなしにそれを行った者がいると考えるのは、少々都合が悪く、無理がある。



「仙継士ということは、候補は限られるのではないか? 心当たりは?」


「あったらわざわざ忠告なんてしないさ。これもお前の仕業なら、ある意味楽だったんだがな……」



 ある時は面倒事を起こすなと言われ、ある時は『何故お前の仕業ではないのか』と文句を言われる。酷い言われようである。



「……まあ、お前に被害が及ぶことはないと思うがな。ただし、もしその仙継士に遭遇したら、仙力は使わずに隠し通せ。それから、すぐに私に連絡しろ。いいな?」


「承知した。留意しておく」



 警戒するに越したことはない、というのが、僕たちの出した結論だ。他の仙継士からすれば、僕は未知の存在。不用意に仙力を使い、その正体が晒されるような事態は避けたかった。


 話というのはそれだけだった。今度こそ立ち去ろうかと踵を返し、天音に向けて手を振る。



「では、世話になったの」


「ああ。気を付けてさっさと帰れ」



 悪態をつきながらも、天音は僕が屋敷を出るまでその場にいて見守ってくれた。何だかんだで優しいのか、それとも、屋敷内で問題を起こされるのが嫌で見張っていただけなのか。僕としては、前者だと信じたいところだ。



 さて、後は……帰りに買い出しをして、帰宅してからこのことを隆盛に報告しておこう。学費の件は、詳しい話が判明してから連絡した方が良いだろう。









——屋敷から立ち去る樹を、ただ静かに見守る者がいた。


 黒いパーカーに身を包み、開いているのかさえも分からない細い目で樹を見送りながら、『彼』は怪しげで不気味な笑みを浮かべる。



「……へぇ、面白い子だねぇ……」



 そんな呟きを聞き届ける者は、発言した彼以外に何者もおらず、気付けば、彼自身の姿も消えていた。





——波乱の予兆があった。その波の中心にいる樹は、そんなことも露知らず、真っ直ぐと帰路についていたのであった。

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