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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、初めての仙力

「ここだ」



 案内されたのは、一般的な小中学校の体育館ほどの広さがある場所だった。

 一面に畳が敷き詰められ、壁に沿うように色々な武器が用意されている。


 それから、訓練用のものだろうか。カカシらしきものが、上半身だけのものと、全身を模したものの二種類、用意されていた。



「どの一族でも、仙継士になるのは限られた数名だけ。宵山家であれば、当主と次期当主のニ名だけだ。……だが、仙継士になれずとも、宵山に仕える以上戦えなくてはならない」



 鍛練場に入ってすぐに、天音が独り言のようにそう呟いた。入口から一番近い場所にあった上半身だけのカカシのもとへと歩み寄り、その肩に手を置く。



「ここは、宵山一族の者や、その家臣が鍛練を積むために使用する場所だ。部外者を招き入れることは稀なんだぞ」


「それはなんともまあ、光栄なことじゃの」



 何が面白かったのか、彼女は小さな笑みをこぼすと、今度は先ほどまで手を置いていたカカシの正面に周り、腹部辺りに右手を添えた。


 そして、次の瞬間……彼女が体を捻って右手に力を込めたかと思うと、件のカカシが破裂するように弾け飛ぶ。



……今の一瞬、奇妙な気配を感じた。あの時、天音を初めて察知した時にも感じたような気配。


 そうか、これが……『仙力の気配』か。


 事も無げにそんなことをやってのけた天音は、右手をぷらぷらと揺らしながら、説明を続けた。



「仙継士の言う『仙力』とは、『超常を為す技』と『そのために必要なエネルギー』の両方を指す。恐らく、お前は莫大な量のエネルギーを有してはいるが、それを上手く扱えていない状態だ」


「どうすればよい?」



 そんな質問をすると、天音は呆れたようにため息をこぼした。昨日から一体、どれだけため息をこぼしているのだろう。



「全く……簡単に聞いてくれるがな、本来はお前のような怪しい人間に教えることなんて一つもないんだぞ」


「分かっておる分かっておる」


「本当に分かっているのか、こいつは……」



 そうは言いつつも、彼女はしっかりとした解説を始めてくれる。『ツンデレだ……』と内心思いつつも、それを口にすることはしない。絶対に、即座に家から追い出される結果が目に見えていたからだ。



「……そもそも、仙力というのはかつて『仙人が有していた力』のことだ。仙人の魂を受け継いだ私たち仙継士は、その力を借り受けているだけに過ぎん」


「つまり?」


「仙力で何が出来るかは各個人によって違うし、それは自分自身で知らなければならないものだ。お前の特技を、聞いてもいない私が知るはずがないのと同じようにな」


「……なるほど?」



 分かったような、分からなかったような。

 つまり、個人の才能のようなもので、仙力で引き起こすことが可能な現象は、それぞれ異なるということだろう。


 先ほど彼女がカカシを奇妙な技で破裂させたのは、間違いなく仙力によるものだ。だがしかし、それと全く同じことを、僕が出来るとは限らない。あれはあくまでも『彼女の仙力』であって、仙力としての共通項ではないからだ。


 ならば、僕に……いや、僕の中にいる名も知れぬ仙人が得意とする技とは、一体何なのだ?


 天音は、それを『自分自身で知らなければならないもの』だと言った。だが、一体どうすればいいのかが分からない。



(……僕に、出来ることは……)



 胸に手を当て、思考を張り巡らせる。何が出来るのか。僕には、何があるのか。



 ふと、心の中で小さな炎が灯ったような気がした。赤く、全てを焼き尽くしてしまいそうな、けれども手のひらに収まってしまうほど小さな炎。




「……『狐火(きつねび)』」




 左の手のひらを天に向け、そう唱える。


 直後、体の中にある力が吸い取られるような感覚と、それが手のひらに集まっていくような感覚を覚えた。

 力はやがて形となり、形はやがて炎を成す。心の中に現れたそれと、似たような見た目をしていた。



「出たぞ、天音っ!」


「待て、止まれっ!」



 駆け寄ろうとした僕を、彼女が必死の形相で止めた。何やらただならぬ雰囲気だ。



「……どうした?」


「そんな凶悪なものをちらつかせながら『どうした』とか聞くな、頭がおかしくなる」



 炎による熱か、それとも焦りからか。天音は頬に汗を垂らしながら、少しずつ距離を取っている。



「なにか……まずいのか、これは?」


「感じ取れないのか……? 凄まじい力が込められているぞ、その炎」



 出した本人は、その炎から何か特別な力を感じることはなかった。自分から切り離した力だったからか、それとも、それ以上に強大すぎる力を内に秘めていたからか。


 だが、目の前で見ている天音曰く、それは『見た目以上にやばいもの』らしく、たとえるなら爆弾を手に持っているようなものだそうだ。



「そのまま消すことは出来ないか? そんなものをここで解き放たれたら、その瞬間大火事決定だ」


「いや、無理じゃ。消し方が分からぬ」


「だろうな……待て、そのままだ。そのまま、外の鍛練場まで行くぞ」



 天音が先行し、来たのとは別の扉を開ける。宵山の屋敷には屋外の鍛練場もあるらしく、そこならば被害は少ないだろうという判断だった。

 慎重に、炎を暴発させないように外へ向かう。うっかりここで解き放てば、鍛練場は一瞬にして炎に包まれる。天音が言うには、それほど強大なものらしい。


 屋内から屋外へ。外にも同じようなカカシが大量に並べられており、確かに、可燃物は少ないように見えた。


 先行して外にいた天音は、僕が完全に建物から離れたのを確認し、目の前にいる一体のカカシを指差した。



「よし……いいぞ、あのカカシを狙え。ここなら、多少大規模な炎が上がっても何とかなる」


「うむ……承知した」



 指示されたのは、その場にあった中で、最も古く使い古されたカカシだ。これを機に買い替えるつもりなのかもしれない。


 そんなカカシに狙いを定め、構える。この炎を出したのは初めてだが……本能的に、それは相手に向けて撃ち出して使うものだと察した。



「……狐火っ!」



 小さな炎が、緩やかな速度で撃ち出される。カカシまでの距離は五メートル弱といったところ。

 大人ならば走れば簡単に逃げられそうなほどの速度で進む炎は、やがてカカシに着弾し。




——そして、その場で巨大な炎の渦となった。




「なっ……!?」





 高さ一〇メートルはあろうかというほど巨大な炎の柱。周囲の空気を吸い込み、轟轟(ごうごう)と音を立てながら、それは更に巨大化していく。

 周囲の気温が、途端に何度も高くなる。一瞬にして汗をかくほど、その火力は凄まじかった。



 だが……予想に反して、炎はすぐに消えてしまった。仙力で生み出した炎であるが故、力を使う際に込めたエネルギーを使い果たして消えたのだろう。



 当然の如く、渦中にいたカカシは原型も残さず消滅していた。天音も、その様子を唖然としながら眺めている。







「……想像以上だ。お前、本当に何者だ……?」


「知らぬ……わしが知りたいくらいじゃ」






 仙力『狐火』。ほんの少ししか力を込めていないのにも関わらず、この威力。もしかすると僕は、とんでもない力を手に入れてしまったのかもしれない。



 それこそ……この世界の根幹を揺るがしてしまうほどの力を。

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