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朝目覚めたら『のじゃロリ』になっておったのじゃがっ!?  作者: クレイジーパンダ
一章『のじゃロリになってしまった件』
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のじゃロリ、両親の説得

「……結局、祠のことは何も分からなかったな」


 車に乗って帰る道すがら、隆盛がそんなことを言い出した。


 天音との対談中に祠や御狐様(おきつねさま)の情報を集めてくれていた隆盛たちであったが、その成果は芳しくなかった。

 そもそもこれらの情報を知っている村人が少なかったこと、知っていても宿にあった資料以上の情報が得られなかったことなど、結果として収穫と呼べるようなものはなかった。


 もしかすると、あのまま調査を続けていれば有益な情報も得られたのかもしれない。だが、僕はともかくとして、隆盛や椿さんにはそれぞれ明日からの予定がある。ずっと僕のためだけに連れ回すのも気が引けた。



「よいのじゃよ、隆盛。わしとしては、この身に起きた異変の正体を知ることが出来ただけでも前進じゃ」


「そうは言うけどよ。お前も明日から学校だってこと、忘れてんじゃないだろうな?」


 隆盛の言葉に、思わず目を逸らしてしまう。


 今日一日で、耳と尻尾を隠すことは出来た。しかし、元の姿に戻ることは叶わず、いまだこの幼女の姿のままだ。

 今日で元の姿に戻ることが出来れば、明日からのことは何も考えずとも良かった。それが出来なかった以上、今考えるべきは祠のことではなく『明日からの生活』のことなのかもしれない。


 お金は、毎月両親が生活費を振り込んでくれる関係上、特に問題はない。買い物も、補導されない時間帯に出歩けば支障はないだろう。


 問題は……学校だ。当然のことながらこの姿で通うことは出来ないし、かと言って長期間休めば成績に影響が出る。元の姿に戻らなければ、成績不振で進級することも出来ない。


「学校は……ひとまず、休むしかないの」


「まあ、そうなるよな……けど、どうするつもりだ? 休むって言っても限度があるだろ」


「そこは……母様たちに相談するしかないのじゃ……」


 僕一人ではどうしようもない問題だ。夫婦で旅行をしている最中に水を差すようで申し訳ないが、一度、母さんと父さんに連絡をしなくてはならない。信じてくれるかどうかは別として、だが。


「何か困ったことがあればすぐに教えてね、樹ちゃん。私に出来ることがあれば、何でも手伝うから」


「ああ。一人で抱え込むなよ、樹」


 運転席にいた椿さんも、その隣に座る隆盛も、心強い言葉を投げかけてくれる。本当に、良い友に恵まれたのだと思う。


 腹を括るしかない。なってしまったものはどうしようもないし、今すぐに戻れないのならこの体で何とか生きていくしかない。わがままを言っていられる状況ではないんだ。




 まずは……母さんたちに現状の報告だ。どんな顔をされるか分かったものではないが、学費を払ってもらっている以上、報告は義務。文句は言っていられない。







——それから、昨日通ってきた道をそのまま引き返し、家へと送り届けてもらう。村の人に貰ったという野菜の袋をいくつか渡され、玄関口から隆盛と椿さんを見送った。



 先に風呂に入るか、ご飯を済ませるか。それとも、一番の難所を乗り越えるか。恐らく、後回しにしていいことなど一つもない。


 ソファに座り一息ついた後、スマートフォンから無料のメッセージアプリを開き、母さんの名前を探す。



『母さん、少し話したいことがあります。父さんと二人で電話に出られるタイミングが来たら、連絡してください』



 そう打ち込み、送信する。今どの辺りにいるのかは分からないが、時差の関係ですぐに返事は来ないかもしれない。



……と、思っていたが。



——てぃろん。



 画面を暗くした瞬間に、軽快な通知音とともに母さんからのメッセージが届く。



『丁度今、時間が出来たところよ。そっちのタイミングで電話をかけてきて』



 緊張で覚悟が決まっていない時に限って、『タイミングで』というのはすぐに訪れてしまうもの。そんなことを思い知らされているようだ。


 同じアプリから受話器のマークを選び、続いてカメラのマークを選ぶ。声だけで話すより、画面越しにでも顔を見せたほうが理解は早いだろうと判断してのことだった。


 『とぅるるる』という軽快すぎる電話のコール音が二度鳴り響き、途切れる。直後、画面に母さんの顔がでかでかと映し出された。



『もしもし? 樹……えっと、どなた?』



 その反応は、概ね予想していた通りのものだ。

 父さんの姿が見えないが、声は聞こえる。どうやら近くにはいるみたいだ。


「……母様、これから話すことは全て真実なのじゃ。落ち着いて……聞いてほしいのじゃよ」


『待って待って、母様って何? あなた誰? もしかして……樹の彼女っ!?』


『樹に彼女だってっ!?』


 早とちりをして叫ぶ母さんと、その言葉を聞いてすぐさま駆け付け、画面に顔を押し入れようとする父さん。画面の中が大渋滞だった。


『樹、やるなっ! こんなに可愛い子を彼女にするなんて……だが、日本の法律では恐らく犯罪になるぞっ!?』


「違う、違うのじゃっ! 話を聞いてほしいのじゃがっ!」


『のじゃですって、あなた! 古風な女の子よっ!?』


「話を聞かんかっ!?」



 二人は勝手に盛り上がり、ハイタッチをして騒いでいる。


……これだから、嫌だったのだ。父さんも母さんも、一度盛り上がると話を聞かないから。


「二人とも、落ち着いて聞いてほしいのじゃ。わしは……わしは、樹。佐藤樹。二人の大事な一人息子じゃ」


『……やだぁ。この子、冗談が上手いわよ』


『そうだなぁ。僕らには娘はいないからなぁ』


 二人は愛想笑いを浮かべながら、画面越しに僕のことを見つめる。流石に、これだけで信じてもらえるとは思っていない。


「茶化しているわけではない。何を言っているのか分からないとは思うが、朝目覚めたらこの姿になっておったのじゃ」


 自分の息子が、こんなことを言い出したら、まずは病院に連れていくだろう。それも、頭の病院に。僕ならば、そうする。


 だが、二人は違った。茶化す気配もなく、真剣な表情で語る僕を見て、何か深刻な事態であることを察した。



『……なら、樹の誕生日は?』


 母さんが、そんなことを言い出した。確かめる方法は、隆盛と同じ。


「八月三日なのじゃ」


『小さい頃の将来の夢はっ?』


「確か、宇宙飛行士じゃの」


 続いて、父さんの問いにも答える。これは、幼稚園と小学校の頃の将来の夢だ。漠然とした夢を語っていただけで、特に宇宙が好きだったわけでもないが。


 二人は顔を見合わせ、汗を浮かべる。明らかに混乱している様子だった。


 だが、最後の一押しが足りない。もっと、僕しか知らないような情報を……あるいは、他の人間が知っていてはおかしいような情報を話す必要がある。




『それじゃあ、私たちが毎月お金を振り込んでいる口座の暗証番号はっ!?』




 母さんからの最後の質問は、そんなものだった。


 本人かどうかを確認するにはうってつけの質問。本人と、番号を設定した者にしか分からず、恋人であったとしても他者に教えている可能性の最も低いもの。




「三、七、九、一じゃ」




 そんな質問にも難なく答える。何せ、僕は佐藤樹当人なのだから。



 二人の顔が、みるみるうちに青くなっていく。無理もない。こんな話を今すぐに受け入れろと言う方が無茶なのだ。



「信じてほしいのじゃ、二人とも。わしは、佐藤樹。嘘偽りはない」


 後はもう、二人の心に訴えかける以外に方法は残されていない。二人からの質問には全て答えられる自信があるが、最終的に僕の言葉を信じるのは二人なのだから。


 二人はかなり悩んでいるようだった。この事実をどう受け止めればよいのか。



 そして、悩んで、悩んで、悩み抜いた末に導き出した結論は……。




『……可能性は二つ。君が本当に樹だという可能性と、僕たちの息子が他人に暗証番号を教えるような愚かな人間に育ったという可能性だ』


『私たちの息子は、そこまで非常識な人間じゃない。あなた……本当に、樹なのね?』



……どうやら、僕の言葉は届いてくれたようだ。第一関門は、僕が本物の佐藤樹だということを二人に信じてもらうこと。これは、無事に突破出来たようだ。

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