お隣のクールな美少女に、バレンタインデーチョコをあげてみたら泣かれてしまった件
僕は彼女いないので、妄想を書いてみました。勢いで書いたので誤字は許してください。
雪がホロホロと降り始めた高二の二月十四日の朝に俺、吉田和也は冷蔵庫から昨夜に作り置きしていた特製のチョコレートが入った箱をカバンに入れて、マンションの部屋を出た。
「結構寒いな……マフラーがあってよかったわ」
気温が氷点下まで下がった今日はとにかく寒い。普段は暑がりの俺も、流石に厚着をせざるを得なかった。
暑がりの俺が普通ならマフラーなんて使うわけがない。そう思っていたのだが、俺はある女の子からクリスマスプレゼントでマフラーを貰った。
このマフラー、聞けば自分で編んで作ってくれたらしく、モコモコとした糸で編んでくれているおかげで肌触りも抜群に良い。
しかもその女の子、初めて目にしたときは全然話してくれなくて、席替えで隣の席になっても話をするのには結構苦労した。
「はぁ……ちょっと不安だな。果たして成功するのだろうか」
俺は今日のバレンタインデーに、マフラーをくれた吉野紗香にチョコを渡す。いわゆる逆バレンタインと言うやつだ。
俺は料理全般が得意なため、チョコも振られてもいいから手作りで持ってきた。まあ、流石に振られたらしばらく立ち直れそうにないけど。
俺は見た目が結構地味だ。俺が通う高校には、俺よりもイケメンなやつがゴロゴロといる。それでも、俺は彼女と自分なりに頑張ってコミュニケーションはとってきたし、家が隣だと発覚してからは交流もある。
隣の部屋が吉野だと分かったときは驚いた。なんせ吉野が隣の部屋だということに、三ヶ月前まで気づかなかったのだから。
「やあ、おはよう和也」
爽やかな声と共に俺の後ろから現れた金髪のイケメンは、学校内で女子からの絶大な人気を誇る岩本奈瑠だ。
なぜこんな地味で接点がなさそうな俺と親しげに話してくれるのかは、俺と奈瑠がアニメ好きという共通の趣味があったからだろう。
夏休みが明けて、俺は学校にライトノベルを持ってくることが恥ずかしいと思うことをやめて、学校にライトノベルを持ち出して読んでいた。すると奈瑠が急に声をかけてきて、そこから仲が良くなった。
「おはよう奈瑠、相変わらずイケメンだな」
「あんまりからかうのはよしてくれ。それに、男の和也から言われても嬉しさは半減するし」
なるほど、イケメンはイケメンと言われ慣れているからな。ただ俺がムカつくだけになってしまった。
「けっ、余裕があっていいな。どうせ今日はチョコを持ってくる女子が殺到するだろ」
「そうだね……君はもっと特別なものが貰えるんだろうけど」
どこか悲しげな笑みを浮かべてボソッと言う奈瑠だが、なんのことなのかさっぱり分からない。
「どういうことだ?」
「いや、なんでもないよ」
この後は特に面白いこともなく、雑談をしているうちに学校に着いた。
既に下駄箱で何人かの女子が、奈瑠にチョコを持ってきていた。そんなモテモテ具合を俺は側から見ていて、中々に悲しい気分になる。俺の方を向く女子など一人もおらず、俺がこれからしようとしていることに更に不安が募るばかりだ。
「流石だな、ほれ」
奈瑠は頭はいいが、チョコで手が埋め尽くされることまでは頭が回らなかったらしい。俺は鞄にビニール袋を入れていたため、それを奈瑠に渡した。
「ああ、ありがとう」
奈瑠は抱え込んでいたチョコの箱を袋に詰めていく。俺も一度でいいからこんなことで悩んでみたいものだ。
廊下でもチョコ渡しは続き、教室に入るまでに袋がチョコでいっぱいになってしまった。やはり小サイズの袋では無理だったようだ。
どうせ教室に入ってもチョコを渡す生徒はいるだろうということで、俺はもう一つの袋を奈瑠に渡して教室に入る。
「あの……奈留君、これ受け取ってほしい。別に食べてくれなくてもいいから」
顔を赤らめて恥ずかしそうに奈留にチョコを渡す女子。俺が邪魔しても仕方ないので、さっさと自分の席についた。
「おはよう吉野」
「……あら、いたの。存在が薄いから分からなかったわ」
この冷たい挨拶の返事をする美少女が、今日俺がチョコを渡そうとしている吉野だ。
外に見える雪のような色をした銀髪に、潤んで宝石のような青色の目。胸は控えめに見えがちだが、スタイルがいいからか胸も大きく見える。こんな美少女に、俺は無謀なことをするのだ。
「ほぼ毎日会ってるんだから流石に存在ぐらいすぐに察知してほしいんだけど」
「どうして私があなたのために労力を割かないといけないの?」
せめて存在を察知するぐらいの労力は使ってくれていいじゃないか。そこまで言われるとちょっとへこむ。
こんな冷たい女の子に告白するのかと疑問に思う人もいるだろうが、別に俺はドMだというわけではない。これまでの交流で、彼女の可愛さや奥底に秘められた優しさを知っているからこそ、この無謀な挑戦をしようと決意をした。
「それはあれだ……いや、やっぱなんでもない」
「そう……そういえば吉田君はチョコを貰えたの?」
「ぐはっ!?」
これは彼女が純粋な気持ちで聞いてきたことが分かる。しかしいざ聞かれてみるとやはりダメージが大きかった。
「どうしたの? もしかして貰えなかった? 大丈夫よ、まだバレンタインデーは終わっていないのだから、もしかすると振られてしまった女の子がお情けでチョコを恵んでくれるかもしれないわ」
余計なお世話だよ。
「てか、義理ですらなくてお情けチョコなのね……」
この際俺が可哀想なのはどうでもいい。それよりも、吉野が誰にチョコを渡すのかだ。
周りの男子もこの件に関しては気にしているようで、彼女がいなくてチョコをまだ貰っていない男子は、目をギラつかせてチョコを待っている。
「吉野は誰かにチョコ渡すのか?」
「どうかしらね……義理チョコと言っても、チョコを作るなんて面倒くさいだけだから」
ああ……この感じは誰にも渡さないつもりなパターンじゃん。この時点で俺半分ぐらい詰んでね?
まあ確かに吉野は料理があまり上手くない。学校の日は毎日購買のパンを買っていたぐらいだからな。
なんで俺がそんなことを知っているのかは、家が偶々隣だったから偶々知ったとしか言えない、うん。
「まあ確かに面倒なのは面倒だろうな。けど吉野が作ったやつなら男子は何でも喜びそうだけどな」
「……そう」
相変わらず何を言っても殆ど表情が変わらない。それでもこれまで接してきた中で、吉野の表情は俺に対して多少緩んできている。
今だって気のせいかもしれないが、ほんの少し顔が赤くなっているように見える。これが気のせいでないことを少しでも祈るばかりだ。
◆
「くそぉ〜……渡すタイミングが無かった!」
放課後に俺は帰宅途中でチョコを渡そうとしていたのだが、国語の課題を提出することを忘れていて職員室に出しにいっていると、既に吉野は教室から消えていた。
「でもやっぱり吉野は誰にもチョコ渡さないのか……いや、俺にもまだ希望はある」
ほんの一欠片しかないであろう希望を胸に、俺は学校を後にした。
それでもやはり不安な心を拭うことができないまま、家に着いてしまった。すぐ隣の部屋のインターホンを鳴らせば吉野が出でくるはずなのだが、いざとなると躊躇してしまう。
「落ち着け……ここは深呼吸だ」
ゆっくりと息を吸い、ゆっくりと吐く。そして落ち着きを取り戻したところでインターホンを鳴らそうとすると、突然扉が開いた。俺は扉の目の前にいたため、開いてきた扉に額がぶつかる。
「ああ……」
「えっ、なに……だ、大丈夫?」
流石の吉野も心配なのか、不安げな声で問いかけてくる。
「あ、いや、大丈夫。俺が扉の前にいたせいだ」
「……それで、なにか用?」
遂にここまできてしまった。こうなるとここで躊躇してても仕方がない。俺は頭を下げて、後ろに隠していたチョコの箱を差し出した。
「あの……これを受け取ってほしい」
「え……」
今更ながら、なんでバレンタインデーなのに男の俺がチョコを渡そうとしているのかと、恥ずかしさが込み上げてくる。だがここで止まるわけにはいかない。
「俺は吉野が好きだ。だから……その……逆バレンタインデーってやつ……え?」
顔を上げてみると、吉野は口元を抑えて涙をこぼしていた。
もしかして俺からチョコ貰うのってそんなに不快なことだったのか?
「ご、ごめん! まさかそんなに不快だとは思わなくて……」
「ち……違うの、私……ずっと不安だったから」
「な、なんで?」
「だ、だって……私普段からあんな態度で接してしまって……どうすればいいか分からなくて。……今日だってチョコを渡そうと思ったけれど、あんな態度をとっておきながら好きだなんて言えないと……」
まさかの告白に俺は驚きを隠せなかった。
俺にチョコを渡そうとしていた? 好きと言おうとしていた? 情報が多すぎて訳が分からない。
「で、でもチョコを作るのは面倒だって……」
「……あなたのために作るなら面倒なんて思わないわ」
そう言って吉野は俺と同じような箱を見せてきた。ここにチョコが入っているのだろう。
こんなに嬉しい言葉を聞いたのは生まれて初めてかもしれない。こんな美少女が、泣きながら必死になって自分の心を打ち明けてくれている。そのことが嬉しくて仕方がないのだ。
「そ、それじゃあ……」
「……やっぱり嫌よ」
「なんで!?」
「だって……私が先にチョコを渡そうとしていたのに、あなたが先に差し出してくるなんて生意気よ」
少し吹っ切れたのか、吉野にもいつもの調子が戻ってきたようだ。
「そんなこと言われてもな……俺吉野がチョコくれるなんて思ってなかったし」
「私の気持ちぐらい察してくれてもいいじゃない……馬鹿」
そう言って吉野は俺に抱きついてきた。
柔らかいやらいい匂いやらで心臓がバクバクと踊りだす。吉野の顔が俺の胸辺りにあるので、もしかすると心臓の音が聞こえてしまっているかもしれない。
「素直になれない私だけど……これからもずっとあなたの側にいさせてください」
「……俺が言いたかったな、それ」
「言わせないわよ。だって私、面倒な女だもの」
「自分で言うなよ……」
初めは話をしようとしても、冷たく返されるだけの仲だった。それでも今、この胸の中にいる可愛らしい女の子を見て、これまで頑張ってきて本当に良かったと心の底から思った。