青龍
眠気、物憂げ。
欠伸を一つ。薄膜が眼球に張り付いて、視界をぼやかした。
窓の外を、頬杖つきながら眠たげに見つめる。
窓の外を見つめてるつもりが、焦点が合わずに、うっすらと象られた自分の姿が目に入ってきた。
目を逸らす、目を遠くへ逸らす。
夏の蝉の声に引き寄せられて、眼下の風景をみたくもなるけど、首が上を向いているから今は辞めた。
先生の声と蝉の声の違いもわからなくなる頃に、汗ばんで来た首と手の間が滑ってきた。
見上げる雲のまにまに、もう一回欠伸をした。
無造作に立ち登る夏の雲に薄らいだ思いを馳せていると、雲の間から何かが伸びているのが見えた。
夢か。幻か。見間違いか。
アレはそう、雲間を這ってる龍だった。
目を大きく見開いてみると、やっぱりそれは青龍で、頬杖をつくのもやめて、少し背伸びをして窓に食いついてしまいそうだったけど、物憂げな体は興奮に追いつかず、がくりとまた寝入ってしまった。
目だけがあの生きたせせらぎを追う。視神経のつながった本体が理解する前に眼球はアレの意味を知ってるかのように、しっかり瞼にその姿を焼き付けていた。
翼もなく悠々自適に飛ぶあの在りし青龍に、感動に近い何かを感じた気がした。それは薄めた染料のように心に染み入り、内にあることを啓発しようとした。
青龍の眼が赤く、ビー玉のように光っているのが見えた。
けれども天然の麻酔はとうとう頭部まで侵食し、後頭部からゆっくりと重い世界へと沈められた。
あの青龍をもっと見ていたい、と思ったのは夢でか、現でか。
起きた頃には青龍はおらず、雲もなかった。
他の人もいなかった。
どうやら次は移動教室らしかった。
誰も教えてはくれなかった。