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8話゜貸しを作るのは少しめんどくさい

 さて、裏山に着いたのはいいものの誰もいる気配がない。

 来なさい!と手紙に書いていた花澤さんの姿も確認できない。


「みんなどこにいんだ? おーい! 来たぞー!」

 なんど叫んでもなんの返事もなく、なにか聞こえたと思えばただやまびこだけが返ってくる。


 なんだよ、せっかく来たのに……戻って少し休んでようかなと思っていたその時だった。


 風が全く吹いていないのにガサガサと奥の草むらから音がする。 俺は熊でも出たのかと思い、体が少し震える。


「な、なんだ!? 熊なのか……?」


 自分の体を大きく見せるよう大きく手を振り、ゆっくりと後ずさりする。


 どんどん音が近づいてくるので何かおとりになるものは無いかと探し、咄嗟に足元にあったカバンを音のする方向へ放り投げると「いてっ」という声が聞こえた。


「あ、あれ?」

「ちょっと! カバン投げたの誰よ!」


 大きな声で茂みをかき分け、こっちに向かってきたのは花澤さんだった。

 やばいと思った俺は茂みに姿を隠す。


「って……あれ? 誰もいない!? なんで? 気配もしたのに」


キョロキョロと辺りを見渡しあちらこちら回って原因を調べている。


 戸惑う花澤さんを見ながら俺はそのまま息を潜めるが、正直に謝った方がいいのではないかだとか、このまま何事もないかのようにするべきかと天使と悪魔の声が聞こえる。


 そんなどうでもいい事で悩んでいると後ろから突然「だーれだ!」と目を手で隠してくる。



 もう声で丸わかりなんだが……。

「んだよ、高梨」


 バサッと手をどける。


「なんすか、答えるの早いっすよセンパイ」

「お前の声わかりやすいんだよ、男っぽくなくてなんか中性的な声だからな」

「流石俺のことが好きすぎるセンパイっすね」


 腕で脇腹をグイグイとしてくる。


「俺はあんまり好きじゃないけどな、お前のこと」

「なんすか!? ちょっと傷つきますよ!?」

「半分冗談だよ」

「なら半分は本当なんすね。所で何してるんすか?」

「いや、その、ちょうど行こうとしてたら花澤さんがピリピリしながらウロウロしてたから行こうにも行きづらくて」


適当にいい訳をする。


「そうなんすね、何があったんすかね」


 しばらく談笑していると不思議な顔をしている花澤さんがこちらに気づいてやってきた。


「ねぇねぇ、祐、高梨くん。今来たばかり?」

「そうっすよー」

「あぁ今来たばかりだ」


 平然と嘘をついた。別に嘘をつくつもりは無かったが、なんとなくの流れでついてしまった。


 まぁ何が聞かれるのかは、ほぼ分かっていたので話が長くなるよりはマシだろうと勝手に解釈したのだ。


「そう、一体なんだったのかしら」

「どうしたんだ?」


 何が起こったのか分からないふりを続ける。


 いや、でももしかしたらバレて「なんであの時言わなかったのよ!」だとかもっと面倒なことになりそうだし、気持ち的にもスッキリしないな……。

 ここは正直に、花澤さんならちゃんと謝れば分かってくれるだろうし。


 謝罪をしようとした瞬間だった。


「それが急に守山さんのカバンがとんできたのよね」

 と花澤さんが言ったのだ。


 俺はつい変な声を出し、聞き返す。


「へ? これ、守山さんのなのか?」

「そうよ、ほら、ここに名前が書いてあるでしょ?」


 見せられたカバンには確かに守山しずかと丁寧に名前が書かれており、変なタバコのキャラクターのキーホルダーがついている。

 しかも、白いシンプルなカバンだったせいか泥や土の汚れがすごく目立つ。


「カバンが急に飛んでくるなんて、ミステリアスっすねー」


 気のせいか高梨が何度もこちらをチラチラ見てくる気がする。



 まさかこいつ……俺が投げたとこみたのか!? いや、考えすぎだ。俺がカバンを投げた時も茂みに隠れた時もほかの人の気配はしなかった。


 …………多分。


「ほら、あれじゃないか、なんかの動物だ、ここ山だからな」

「でもここ野生の動物すくないから安心しろって言われたわよ?」

「な、ならあれだ、あれ、その.......あれだよ!」


 言い訳が思い浮かばず、ただずっとこそあど言葉を並べてしう。



 このままじゃやばい。守山さんにバレたらどんなことされるか……。謎の恐怖があふれ出す。



「あっ! そーいや俺、でっけー鳥が何か持って飛んでったの見たような気がするっす」


 高梨がなにか口を開いたと思えば、何故か俺を庇うようにして嘘をつく。


「え!? まじ!? そういえばここに来てから何回も大きな鳥見たような気もするわ!」


 そういう事かという顔をすると守山さんのカバンをもって川の方へ走っていった。


 てか、鳥はどこにでも居るだろ。


 それよりもなんで高梨は俺をかばったんだ?


 「なぁ、高梨。なんであんな嘘を?」

 「センパイに貸しをつけておこうと思いましてね」

 「貸しって……何を要求するつもりだ」

 「んー……まだ考えてないっすね、必要な時に借り返してくださいね」

 「あぁ……分かった。その代わり無茶な願いは無理だならな」

 「りょーかいっす!」


 軽く敬礼をすると、花澤さんの後を追うように川の方へ小走りで行った。



 貸しを作るのめんどうだが、この場をしのげたことだ。いいとしよう。

 どうせならもっと違うところで助けて欲しかった気もするが……。



 てかみんな川に居るのか? これだけ話していても守山さんと黒井さんが居なかったということは。




 一度行ってみるか、ここにいても仕方ないだろうし。

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