5話゜ミスは誰にでもあるよ
車に乗ってから約1時間がたった。高梨は興味のないスポーツの話やマイブームの話を、守山さんと花澤さん、黒井さんは最近のトレンドに関することや恋バナなどを続けていたので俺は寝たふりをしてその場を過ごした。
ていうか恋バナって普通夜に部屋でヒソヒソとするもんじゃね? 知らんけど。
それにしてもいつも黒井さんのターンで話が途切れてるな……話しづらくないのか?
でもまぁ楽しそうに和気あいあいしているから大丈夫そうか。
するとなにかがぶつかってきたのでうっすら目を開け横を見ると、ついさっきまでどうでもいい話をしていた高梨が、俺の肩に寄りかかり眠っていた。
やっと静かになったな……邪魔だけど、起こすとまた話始めそうだし、少しかわいそうだからこのままでいいか。
「お前らー起きろ。着いたぞ」
「いつまで寝てるのよ! 起きなさい! 私は先に行ってるからね!」
「んっ……ふぁぁ……、よく寝た」
あれからいつの間にか深い眠りについてしまっていたらしく、守山さんと花澤さんに起こされ目が覚めた。
寝起きでまだ少し目が重い。
「高梨ー、起きろー」
何度も何度も体を揺さぶるが起きる気配が全くない。
死んでないよな? 思わず心臓に耳を当てて確認してしまった。
良かった……生きてた。
生存確認を済ますとまた何度も揺さぶるが起きない。
「全く起きないんすけど」
「ん? あぁ……こいつ一度寝ると中々起きないんだ」
「どうしたらいいんすかね?」
「ちょっと待ってろ」
吸っていたタバコの火を消し、車についている灰皿に捨てる。
うわぁ……めっちゃいっぱい入ってるじゃねぇか、流石はヘビースモーカー……。
「おい、高梨、あと3秒後に起きなかったら私のパンチが飛ぶぞ。3……2……......」
「うわぁ!? さーせん! 起きました! 起きましたから!」
カウントダウンが終わりかける前に顔を真っ青にし、飛び起きた。
「す、すげぇ」
思わず心の声を口に出すほど俺は普通に驚いた。起こし方も単純な脅しでまさかそれで起きるとも思ってなかったからだ。
「私にかかればこんなの朝飯前だ」
そして自分の荷物を運べと言うと、またタバコを吸い始める。
周りを見渡すとそこは自然そのものだった。
キレイな空気に緑色の木々、遠くには大きな山も見える。
でこぼことした道を10分ほど歩くと大きなログハウスのような木の家が建っていた。
「ここが合宿の場所なのか?」
「らしいすね」
ドアの前では花澤さんと黒井さんが座っている。
「そこで何してんだ?」
首を傾げ問う。
「それが鍵が空いてないのよ」
「鍵持ってきてないのか?」
「守山さんにはもう空いているはずだからって言われたんだけど、この通りなのよ」
「守山さんが持っているってのは?」
「それは無いわ、あのしっかり者の守山さんなら渡しそびれるってこと無いもの」
たしかにあれでも真面目で、しっかりしている守山さんであれば渡すのを忘れるってことはないと思いつつも、もしかしたらと思い俺と高梨で守山さんの所へ戻ろうとした時、何してんだ?とやって来た。
「いやぁ、鍵が空いてないらしいんすよ」
高梨が困り顔で頭をポリポリ掻きながら現状を伝える。
「守山さん、鍵って一体誰が持ってるんです?」
「鈴本だ」
「なんで鈴本さんがもっているんですか?」
「あー、言ってなかったか。 ここは鈴本の別荘だ」
それを聞いた瞬間俺と高梨は目を合わせ驚愕した。
「は、鈴本さんこんないい別荘もってんの!?」
思わず俺は驚き、何回もその家を見る。
「でっかいっすねー、センパイの家よりきれいだし」
「おい、俺の家は関係ないだろ」
「ねぇところで鈴本さんって?」
そういえば花澤さんは鈴本さんとあったことはあったけど、ヘンテコなペンネームしか聞いたことないんだった。
「あの厨二病っぽいヘンテコな名前の人だよ」
「えっ!? あの黒髪で頭ボッサボサで赤ぶちメガネかけて、服がダサいあの人!?」
「まぁ悪口に聞こえるが、そうだ。 でも最近イメチェンして赤髪にしてコンタクトに変わってたけどな、 服はダサいけど……」
「まぁー確かにすずっちって服ダサいっすよねー」
「皆が言う通りダサいな」
「......確かに……ダサい」
みんなが満場一致で服がダサいと小馬鹿にする。
自分では最先端のファッションと言っているが、チェック柄の服に目がチカチカするほどカラフルなパンツ、骸骨のキーホルダーやネックレスを付けている。
頑張ってお洒落しようとしても無理しすぎてごちゃごちゃしてしまう中学生みたいなファッションだ。
「ちょっと電話してみるか」
守山さんはスマホを取り出し、電話をかけるが中々出ないらしくどんどんイライラし始める。
お願いだから鈴本さん早く電話出てくれ……この場の空気が重いから。
「やっとでたな、鈴本今どこにいるんだ」
苛立ちを隠せず足を貧乏ゆすりをさせている。
「鍵だよ鍵、空けておいてくれるんじゃなかったのか?」
鈴本さんがなんと言ったのか聞き取ることはできなかったが、何かを言われたのか思い出したかのような顔をして電話を切った。
「皆、本当にすまない!」
突然大きくお辞儀をする。
「ちょっ…どうしたんすか!?」
「しずかさんが謝った……」
「守山さん!? どうしたのですか!?」
「……......なんで?」
守山さんが俺たちに謝ることはとても珍しいことで、俺を筆頭に続けてみんなが驚く。
「えっとだな……その……鍵だが、私が鈴本から預かってたのをすっかり忘れてしまってたようだ……すまん!」
さっきまでとは打って変わって申し訳のないような顔で言うと、アハハとその場しのぎのように笑う。
「何やってるんすかーしずかさん!」
「なら早く開けてくださいよ、5月で森の中といえ暑いんすから」
「あぁ、本当にすまない、でも間違いは誰にでもあるよな!」
突如開き直ると無数の鍵束の中から形の合う鍵を探し、2分だったころやっとカチャっと鍵が空いた。
余談だがこの鍵束の中には俺の家の合鍵も入っている。なんかちょっと怖い。
「やっと入れるー……」
花澤さんと黒井さんはキャリーバッグを持ち、リビングにへと向かい荷物を置く。
それにしてもとても綺麗で中も広く木のぬくもりが感じられる。
いい別荘持ってるな……鈴本さんの癖に……。
「えぇーと、各部屋の鍵もあるから自由に使っていいと言ってたから女子は2階、男子は1階の好きな部屋を使え」
はーいと返事をすると花澤さんは黒井さんを引っ張り、二階へと駆け上って行く。
部屋数何個あるんだよこれ、リビングも広いし、トイレとお風呂を除いてもパッと見ただけで五個はあるぞこれ。
「センパイ、同じ部屋にしましょうよ」
「やだ」
「なんでそんな即答なんすか!?」
「一人の空間の方がいいだろ、その方がお前も気にせずエッチなの見れんだろ」
適当なことを理由に逃れようとする。
本当はエッチなのを見るのは俺なんだけどな。
「そーすね、そっちの方がいいっすね」
「いいんかい」
またもや心の声が漏れてしまう。
「ほらさっさと部屋に行ってこい。17時からリビングでこの合宿の目的を教えるそれまでは休むなりしておけ」
「りょーかいっす!」
「うい」
俺は自分の部屋を確保し、高梨が入ってこないよう鍵を閉め、ダブルサイズのベッドにダイブする。
「はぁ……まだ1日目始まったばかりなのにこんなに疲れるとは」
そのまま俺は眠りに落ちた。