4話゜ゴールデンウィークなのに
今日から学生のみんなならきっと楽しみにしているであろう大型連休。
そう、ゴールデンウィークである。
俺もこの日をどれだけ待ちわびただろうか、土日だけじゃ学校の疲れなんか取れるわけもなく、小説も捗る訳じゃない。
というよりもここ最近、小説を書くことに飽きていたのでサボってたんだけどねテヘッ
と、いうのがあってなのか普通なら浮かれて裸で踊っていたいところなんだが、目の前には守山さんがどこかの番長みたいな風貌で居座り睨みつけている。
「えっ…えーと……突然押し入って何のようでしょうかね……」
「理由は分かるよな? まさか分からないとは言わないよなぁ?」
相変わらず舐めているような言い方をするな……
理由、それはきっと俺が原稿を出せと言われ続けていたのに出していないことだろう。
「はい……分かります……」
怖くて目も合わせられず、下を向きまたもや小声で答える。
「分かるならいい」
ホッとした様子で肩の力を抜き、俺が差し出した麦茶を飲み干すと意味のわからないことを言い放つ。
「という事で祐、合宿をするぞ」
何を言っているんだ?という気持ちからポカーンとするしかなかった。
「なんだ、そのアホ面は」
「突然合宿って言われたもんで」
「まぁ百聞は一見にしかずと言うだろ、今から行くから適当に着替えとパソコン持っていけ」
もうパソコンというので嫌な予感がするんですが……。
これはあれだろ、合宿という名の缶詰状態にされるんだろ、逃げ出したい……。
「あ、あのぉー……やる気がある時にやるのが面白いと思うんで無理やり書かせるのはどうかと……」
「あー別にお前の作品を仕上げろとは言ってない。 新作の締切は過ぎてるが発売が決まってる訳でもないからな」
「なら何のために合宿を?」
「それは着いてから教える。」
着いてからって……なんか嫌な予感しかしないんだが……。
そんなことを思いつつも時間が無いから早くしろと守山さんに急かされるわけで、あまり乗り気ではないが準備を始める。
クローゼットからごちゃごちゃになっている衣類や下着を取り出し、ボロボロのボストンバッグに無理やり詰め込んだ。
これだけあればいいかきっと洗濯もできるだろうし。
リュックにはパソコンとモバイルバッテリーやUSBメモリー、必要最低限のお金が入った財布、歯磨きセットを入れた。
少し休んでから行こうと思ったが、先に外で待ってるというので、あまり待たせると怒らせてしまいそうだと思い家を出る。
「なんだ、もう終わったのか。早いな」
「あまり遅いと迷惑かなーと……」
「そういうところは気が使えるんだな」
灰色のワゴン車に寄りかかりタバコを吸い終わると、携帯灰皿へとしまう。
「さて、乗れ。荷物はトランクに入れといてくれ」
言われるまま重たい後ろのドアを開けるとびっしりと沢山のバックやらが入っている。
何でこんなにいっぱいなんだよ……って、ん? このキャリーバッグって……まさか……。
無理やり荷物を押詰めるとこれでもかという力でバタンとドアを閉める。
「ほら、早く乗れ」
スライド式のドアを開くとやはりそこには顔見知りの彼ら彼女らが座っていた。
「よっ、祐セーンパイ! センパイも連行されたんすね」
ニコニコしながらそう声をかけてきたのは、同じラノベ作家である小鳥遊。本名、高梨唯斗だ。
俺の一個下の後輩に当たる訳だが、いつもチャラく俺とは属性の違うイケイケなラノベ作家だ。
「んだよ……やっぱお前らいたのか……」
「……居た」
天音黒。本名、黒井ゆりな彼女はいつも一言しか話さない。 彼女が10文字以上話していることは見たことがないと言ってもいいほどだ。
彼女の書く小説は他のラノベとは違く、セリフが殆どなく9割が地の文で書かれている。サスペンス物をよく書き、若きサスペンス女王とも呼ばれているそうな。そんな所まで小説に反映されているのだ。
嫌々乗り込むとまだ1人運転席の横に座っていた。
「ってなんで花澤さんもいんだ?」
「守山さんが『こいつらの手助けをして欲しいんだ』って言うから来たのよ! 悪い!?」
あまり似てもないモノマネをしているのは花澤一葉。
夏実との友達で、同じく俺の小説の読者である。
将来の夢は編集者らしく、そのため守山さんとは仲が良く尊敬している人らしい。
なんで守山さんを尊敬しているのかは俺には理解しがたいが……
「でも花澤さんは作家じゃないよな?」
「そうよ! でも私は守山さんに校正兼見張り役として指名されたの!」
手を組みドヤ顔で答える。
やっぱりか……俺の嫌な予感は的中していたようだ。
急用が出来たと嘘をつき抜け出そうと思ったが、それを言う前に車はエンジンをふかせ走り出した。
せっかくのゴールデンウィークなのに……最悪だ。