2話゜なかなか思い通りにはいかない
ジリリリと蝉のような耳元でうるさいスマホのアラームがなり、目を覚ました。
「んっ.......ふぁぁ.......」
大きくあくびをして背伸びをする。起きたくもないし、学校に行くのも億劫だが起きなくてはいけないし、行かなくてはいけない。
はぁ.......めんどくせ.......。
そんな気だるいまま俺は渋々起き上がり、残り少ない洗顔クリームで顔を洗い、歯を磨くとダルっと制服を着こなし、開いたままになっていたパソコンに向かい、軽く執筆をする。
これがいつものルーティンだ。朝というものは何故か執筆が捗るもので数千文字はあっという間に突破してしまう。
まぁその分誤字脱字も多いんですけどね.......。
夢中でパソコンに向かってると時間を忘れてしまうようで気がつくと時計は7:50分をさしている。
「やべ!? 遅刻しちまうじゃんか!?」
書いていた小説もあともう少しで終わりそうだ。
いつでもどこでも出来るようにパソコンを持っていこう。
そう思った俺は急いでUSBメモリを取り出し、カバンにパソコンとUSBメモリを入れたことを確認すると、錆びたステンレス製の階段を下り、狭い通路の角に膝をぶつけながらも家を飛び出した。
このまま走っても間に合うか? しかも、さっきぶつけたところまだ痛むし.......。
その時俺の目の前で1台の白い軽自動車が止まる。
「おー! 祐じゃんか!」
「んっ.......って鈴本さん!?」
「俺以外誰なんだよ」
とクスッと笑いながら返してくる。
「いやぁ.......髪の毛染めたんすね」
つい一昨日までは普通の黒髪だったが、赤髪へと変わっている。
それに眼鏡もかけていない。 案外こっちの方がいいかもしれない。
「どうしたんすか? 髪も染めて眼鏡もしないで」
「んー、イメチェンってやつ? 新しい本も出版されるからな」
「よく3冊も出せますね、そこだけ尊敬しますよ」
「だろ.......っておい! そこだけとは失礼な」
二人で談笑してる間にも時間が過ぎていく。
「つーか祐、学校は大丈夫なのか?」
「あっ.......、忘れてたぁ!!」
学校へ行くことをつい忘れてた俺はぺこりと軽く頭を下げ、風を切るように走った。
数百メートル走ったところで俺はゼェゼェと息を切らし手を膝におき、前かがみになる。
やべぇ.......久しぶりに動いたら.......息が.......持たねぇ.......
もう.......動けねぇ.......。
中1の前半で所属した部活をたった1年で辞め、その後部活には入らず、家に帰るなり、アニメを見たり、ラノベを読んでたり、ネトゲをしていたのが今頃になり後悔だ。
するとブーと車のクラクションが鳴った。
後ろを振り向くと、そこには鈴本さんの車が止まっている。
「おーい、大丈夫か?」
車の窓から顔を出し、心配そうにこっちを見ている。
俺は息を切らしながら大丈夫ですと答える。
「ほら、乗ってけよ」
「いいんすか?」
「あぁ、お前の学校の前通るからついでにな」
「ならお言葉に甘えて·····」
その時俺は鈴本さんが神様のように感じた。 これでギリギリ遅刻しない.......。助かった.......。
「じゃあな、これからは遅れんなよ」
「ありがとうございますっ!」
俺は車が見えなくなるまで、深く頭を下げる。
時刻は8時20分、ギリギリで間に合った.......。
なんだろう、なんだか身が軽い。まるで何も背負ってないようだ。
ん? 何も.......背負ってない?
その時俺は気づいた。身が軽いのも何も背負ってないかのように感じた理由も。
「うわぁぁぁ! やっちまったぁぁ!」
そう俺は頭を抑え校門の前で大きく叫びあげた。
周りの目は冷たい。だがそれどころではない。
まて、どこでだ!? 朝起きて執筆、その後カバンに入れてそのまま家を出て.......って最初っから持ってなかったのか!?
最悪だ.......中には教科書とノート、スマホまでもが入っている.......。諦めるか? いやいや、もしも全て忘れましたーエヘッみたいなことを言ってみろ、俺の命がないかもしれん。
やるせない気持ちのまま俺は渋々と家へと戻った。
はぁ.......なんだろうかやはりなかなか思い通りにはいかない.......。