17話゜驚きと夏祭り大盛り上げ大作戦!
夏休み初日。本当ならばアニメと原作を見比べたりしているはずなのだが、何故か目の前には守山さんが軍を率いている武士のように居座っている。
まぁ、部屋に入れたのは俺なんだけど。
なにせずっとドアの前で、「でてこーい」だとか「反応無いなら無理やり入るぞ」と言われ続ければ入れない訳にはいかない。
それよりもこの光景、2ヶ月前にもあったような気がするのは俺の気のせいだろうか? いや、気のせいじゃない。絶対あった。
「えーと、今回はなんの用でしょうかね?」
薄々返ってくる答えは何となく察しはついている。
「今回の用はとある夏祭りの手伝いだ」
答えを聞いて驚いた。守山さんが来る時は作家としての仕事しか用意しない。
それなのに夏祭り? 一体どういう事なのか俺は問う。
「なんで夏祭りなんです? なんて言うか、らしくないような」
「実はだな、私の故郷で毎年やってる夏祭りなんだが、年々来場者が減ってるらしくてな。このままじゃ祭りを開かなくなってしまうんだ」
「無理に開催しなくていいんじゃないんですか?」
「いや、そうはいかない。40年以上続く祭りだ、そう簡単に終わらせるわけにはいかない。それに今年は特にだ」
なにかワケあり雰囲気をにおわせる。守山さんがどうしてもと言うならば、受け入れるしかない。
祭りは嫌いじゃないし、美味いものを食べられるのなら賛成だ。
俺は少し考えた後、分かりましたと返事をする。
「ありがとな、流石は売れっ子作家だ」
「いや、それは関係ないかと」
「よしっ! 早速だが行くぞ!」
やっぱり今行くんですね……知ってはいたけど、準備してないんだこっちは!
「ちょっと待ってください。なんの準備もしてないんですから」
「別に何も持っていかなくていいぞ? 貴重品さえあれば」
「着替えとかどうするんですか」
「安心しろ、それは私がみんなの分用意してある!」
自信満々に私はできる女だ的なオーラを醸し出す。
ん? それよりみんなの分? まてまて、嫌な予感しかしないのだが?
「よし、みんな揃ったことだ。さぁ! 出発だ!」
守山さんの運転する車の中には、俺と守山さんの他に、顔なじみの人が乗っている。
高梨と鈴本さんだ。どうやら今回は黒井さんと花澤さんは居ないらしい。
その代わり鈴本さんは居るが。
それともう1人、見たことの無い人が助手席に座り、話をしている。
席に座る前、車の窓からちょこっとだけ見えた顔はハーフのような顔立ち、黒の長い髪がすらーっとしてとてもキレイだった。
高梨と鈴本さんとくだらない話をしていたら、すっかり誰なのか聞くのを忘れていたので、高梨が眠り、鈴本さんが自分の本を真剣に黙読している間に質問する。
「えっと、守山さん? 隣の人は……?」
「あー、佑には言ってなかったか。紹介する。私の妹だ」
俺は驚いた。守山さんに妹が居たのかという驚きよりも、何もかも似て似つかない。
彼女は第一印象でもおしとやかで育ちのいい子と言うのがすぐ分かる。
守山さんは見た目は悪くないものの、性格がなんて言うか怖い。それが顔にも出るから余計。
「何聞いといてアホづらしてんだ、何か言いたいことでもあるのか?」
運転中に目を後ろにやり、こちらを睨んでくる。
「ちょっ!? 前! まえぇ!」
突然後ろを振り向く守山さんにびびった俺は、シートベルトをしているにも関わらず立ち上がろうとしてしまう。
体を勢いよく戻され、尻が痛い。
「安心しろ、私は運転に自信がある」
どこかその自信が出てるんだ。
「いやいや! 自信があったとしても、かなり複雑な道で怖いですから!」
くねくねとした山道で標高がそれなりに高く、下を流れる川がどんどん小さくなる。
「私の実家の道だぞ? んなもん腐るぐらい通ってる」
だから安心しろと言いたいのだろう。安心できない。
それから15分程、ドキドキハラハラしていた。
そして着いた場所は山の上にひっそりと佇む立派なお寺。木製の建物で、古きよき日本を感じられる。そんなお寺だ。
ここに来た理由はきっとここでお祭りを開いているからだろう。そう思っていた。
「てことで、ここが私たちの実家だ」
『……へ?』
しばらくの沈黙の後、俺と鈴本さんは顔を合わせ、同じ反応をする。
「言ってなかったが私はお寺の娘だ」
俺は勝手な偏見でお寺の娘というものは、気品のあるおしとやかな人しかいないと思っていた。
それで守山さんの実家がここだとしり、驚きが隠せない。
真面目ではあるが、サバサバとしててせっかち。そして意外と適当な面がある。
そんな守山さんが……
「なんでそんなに驚く必要あんだ?」
「いやぁ……なんて言うか、想像と違うというか」
「それはよく言われる。私はそんなつもりないけどな」
無自覚かよ……
「おっと、そういえば妹を紹介してなかったな」
「そうでしたね」
「私の妹の守山楓だ」
守山さんが紹介をすると、彼女はぺこりと深く頭を下げる。
あまりにも深く下げるため、こちらも負けじと自己紹介をし、挨拶をすませる。
「じゃー、部屋に案内する。その前に忠告だ。妹に手を出すなよ?」
「俺はそんなことしませんよ、鈴本さんと違って」
「そうだな……っておい! 俺もしないから安心してくれ」
バシッと胸を叩かれた。ちょっと痛かったぞ、おい。
「ここが襟元と鈴本の部屋だ。あまり汚さなければ好きに使ってくれ」
案内されたのは10畳ほどの旅館の様な和室。使っていない部屋らしく、ちょっと埃の匂いがするが、換気をすれば大丈夫な具合だ。
「本当にこの部屋いいんですか?」
「あぁ、その代わり祭りの手伝いは頑張ってもらう」
「衣食住用意してもらってるなら安いもんです」
「そうだな、逆に有難いぐらいだ」
「それじゃぁ、早速働いてもらう。夏祭り大盛り上げ大作戦だっ!」
ここは拍手でもする所か?
訳の分からないまま俺と鈴本さんは拍手をする。
ところで何か忘れてるような気が……まぁいい
と、いうわけで俺達の夏祭り大盛り上げ大作戦とやらものが始まったのである。
お久しぶりです。今回から休むことの出来ない夏休みパート突入です!
更新頻度は今後少しづつ上げていくつもりなので、ぜひよろしくお願いします。