14話゜青春の始まり
やばい……昨日のことが気になって全く寝れなかった……
夏実が俺の事を好きだと言ったのは考えるまでもなく、友達としてという意味だったんだろう。
なんで俺はこんなにも深く深く考えてたんだろう。まず夏実が俺の事好きになるわけ……ないよな?
うん。そんなはずないに決まっている。夏実と俺は幼稚園の頃からの仲で、今までそんな感情を持ったことだって……あるな。
いやいや、俺が好きだったからって夏実が異性として好きってことは無いよな? きっと、絶対、多分。
そんなことより早く学校に行かないと……
いつものように用意を済ませ、左耳にイヤホンをつける。
流行っているアイドルの歌ややアニソンがごちゃ混ぜになっているプレイリストを聴きながら。
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教室に入るとまだ夏実は来てなかった。いつもは俺より先に来るのになーと思いつつ、昨日の事を聞くべきかどうか悩む。
別に聞くことは無いよな、もしも俺が勝手に自分のことを好きだと解釈していて夏実がそんなつもりじゃなかったら、ただの自意識過剰と思われる。
周りからもだ。
前と違ってすっかり夏実はもうみんなの憧れの相手になっている。学校内でも3本の指に入るほどのマドンナだ。
腰までの長いサラッとした黒髪の生徒会委員長、三浦しずく。肩までぐらいで薄茶色のショートヘアで学年トップクラスの成績である副生徒会長、川原百合花、そしてスタイルも勉強も抜群で声優志望の夏実である。
以上が北南高校を代表するトップ3である。
ちなみに生徒会長さんは若林の幼なじみである。どうでもいいが。
朝のHRが始まるチャイムがなり、先生が起立と言った瞬間、小走りで夏実が教室に入ってきた。
「すみませーん、遅れましたー」
「中川が遅れるの珍しいな。ほら、座れ」
「えへへ、そーですねー」
夏実は多忙ながらも、無遅刻無欠席で1、2年と皆勤賞を貰っていて有名なせいか、みんなも驚いた様子で見ている。
夏実が席に戻る時、チラッと目が合ったがお互いすぐ目をそらす。
なんでだ……なんかすごくドキッとするというか、気まずい。
何百メートルをダッシュした後みたいに心拍数がどんどん上がっていく。
別に俺は夏実の事を異性として好きだとは言えない。ただ幼なじみとして、親友として好きなのだ。
それ以外もそれ以下でもなく。
だというのに、あの恥ずかしそうな顔で「好き」と言われたことに対してちょっと意識をしてしまっている。
逆に意識をしない方がおかしいだろう。
その好きだっていう言葉の本来の意味は分からない。だからといって聞き出す勇気も何も無い。
気まづくなるのは嫌だからな。
結局、授業中もお昼もその事ばかり考えていて、何も集中出来ないまま放課をむかえ、気持ちが落ち着かないままら教科書と筆箱をしまいリュックを背負い帰ろうとした時、夏実が俺の制服の袖を人差し指と親指で添えるように掴む。
「ねぇ……話があるから一緒に帰っていーい?」
耳を赤くし、聞き逃しそうになるほどの音量で囁いた。
「えっ、あっ、……いいよ」
いつもの感じと違うトーンで言われたせいか、返事をちょっと困ってしまった。
階段を下り、校門を抜け、お互いの家が近づくまで何も発さずにいた。
そして夏実の家から10分ほど歩いたところのため池がある公園に入る。
このため池には、フナや鯉といった地魚が多く居るため、土日はよく釣りをしているおじさんをよく見る。
釣ってはリリース、また釣ってはリリースの繰り返しだ。
池の魚は外来種以外持ち帰ったり、食べたりすることは出来ない。
そもそも濁り切って水草が繁茂しているところの魚は食べる気すら起こらない。
それまで沈黙が続いていたが、所々腐敗している木のベンチに腰をかけた時、夏実が口を開く。
「ねぇ……たっちゃん。昨日のことをなんだけどさー」
なんて返事をしたらいいのか分からない俺は、とりあえずあぁ、とうなずく。
「私たっちゃんの事ほんとーに好きなんだよ」
座っていた俺の目の前に立ち、まっすぐ見つめながら夏実は言った。
「それって……異性として……なのか?」
「うん、ずーっと前から好きなのー。でも、言うのが怖かった。けれど昨日、つい言ってしまったからもう伝えるしかないってお昼休みに思ったー」
「そっか……」
未だ俺は返す言葉がわからない。だから素っ気ない返事しか返せない。
「だから改めて言わせてほしーの。私、たっちゃんのことが好きです」
ニッコリと優しい笑顔で、夏実は俺に告白をした。
何か言わないとと、言葉を探すがこんな事は初めてで戸惑う。
「えっと……すまん、こんなの初めてでちょっとどう返事をしたらいいのか困ってしまって……」
「私だって初めて告白したからきんちょーしたもん」
「でね、返事はさー、私たちが卒業する時に聞かせてほしーかな。ほら、今の時期って忙しいじゃん? 進路のことだとか、お互いの今の状況だとかで。それに返事によっては悲しいじゃん?」
「……分かった。答えはもう決まった。卒業式後、その解答を言う」
決断力がない俺でも、答えはすぐに見つかった。
だがこれは卒業式までの約8ヶ月間、心の中にしまっておく。
そして夕焼けの中、俺と夏実は公園にある自動販売機で買った、アイスココアを飲みながらお互いの家に帰る。