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12話゜モヤモヤが止まらない

 こじんまりとした部屋に俺と夏実は二人っきりだ。

 夏実は本棚いっぱいに入っているラノベや漫画本を、適当に取り出すと、はいっと俺に手渡す。

 これはアフレコの練習相手になって欲しいという事だ。


「……これは辞めておこうか」

 夏実が手にとったのは表紙こそ普通の異世界物のラノベだが、中身は全く違う別物だ。

 中身が見られたものならついに俺が本物の変態だと思われる。だめだ、絶対に。


 なんでダメなの? 見たいな顔をしている夏実を後目に持っている奪い取ると、俺がハマっている王道系漫画を差し出す。


「これにしよう。有名だし、セリフ俺完璧だぞ?」

「んー、私あまり分からないかもー、面白いのー?」

「あぁ! そりゃあ勿論! だからこれにしよう。な?」

「なんか怪しー」

 ジト目でこちらを見つめる。


「あ、怪しくなんかないさ!」

「ははーん、私分かったかもー!」

「ぶぎゃっ!?」

 めっちゃ変な声と言葉出ちまった.......何語だよこれ。


 中々感の鋭い夏実は、全てを見通しましたよと言わんばかりの顔だ。

 何処ぞの小さな探偵さんのように。


「違うんだ! 最後まで理由を聞いてくれ、これはただの資料用なんだよ! 男女の愛だとか心情をしりたかっただけなんだ! この官.......この小説はエロさよりも心にくるんだ!」


 やけくそになり白状した。別に言い訳ではない。

 犯人の気持ちってこんな感じなのか.......。


「ねぇ、たっちゃん。私まだ何も言ってないんだよ? ただ分かったかもって言っただけだもん」


 あっ.......確かに夏実は分かったかもといっただけで、何についてかは言ってない。完全に俺の早とちりだ。


「つまりその表紙はカモフラージュで、そのいかがわしい本を隠してたって訳だ」

「すまん……」

「なんで謝るのー? まぁ、男の子だから仕方ないことなんだろーねー。あの守山さん? も言ってたしー」


 今俺は完璧に夏実の中で変態へと昇格した。

 ……守山さんが言ってた? どういうことだそれ


「なぁ、守山さんも言ってたって……?」

「えっとー、この間たまたま会った時にー、あいつのパソコンの中やばいから気をつけろーって」

「なっ!?」


 俺は咄嗟にパソコンを取り出し、お気に入りと履歴を消去する。


「本当だったんだねー」

 俺を見る目がどんどん冷たくなっていく。


「あはは.......よし! とりあえず練習するんだろ! な!」

「んー。そーだねー、お相手よろしくー」

「おう! まかせとけ」

 胸をとんと叩き、自信もないのに得意げにする。



「ならたっちゃんはいつも通り男キャラ、私は女キャラね」

「分かった」


 危ねぇ……上手いこと持ってこれてよかった。



「俺はもう行く、お前らはここにいろー」

 いざ始まると俺は案の定クソ棒読みだ。アニメ映画のたった数秒しか出てこない小学生のように。


「まって! このままじゃ危険すぎるわよ! あなたな行くなら私も行くわよ!」

 それに比べ、夏実はもうプロ並みと言ってもいいほどの迫真の演技で、度肝を抜かれる。

 いつものおっとりとした話し方ではなく、キャラそのものである。まるで本当にその世界に入ったかのように。



 休み休み練習し、終わった頃にはすっかり暗くなっていた。

「疲れたねー」

「今回の話は特にな……」

 透明のコップに入った麦茶を飲みながら振り返る。


「それにしてもずっと棒読みだよねー」

「夏実が上手すぎるだけだ。これが普通なんだよ」

「改まって上手いって言われると嬉しいなーえへへ」

 髪の毛をクルクルとしながら、はにかんで笑う。


 その表情にドキッとしてしまい、俺も顔を赤くし、下を向く。

「どーしたのー?」

「いや、なんでもない」

「あっ、もう7時になっちゃうから帰らないと」

 うさぎ柄のリュックを背負うと、グビっと麦茶を飲み干す。


「なら送ってくよ」

「いいよー別に、近いし」

「いいや、送ってく。この辺明かり少ないから」

「ならお言葉にあまえるね」


 靴を履き、家を出る。街灯はあるものの、電気が今にも消えそうになっている。

 夏実の家まではここから歩いて10分ほど。ただ二人並んで歩く。ほとんど会話をかわさず。


 歩く音だけが聞こえ、なにか耐えられなくなり、気になっていたことをさりげなく聞く。

「なぁ、夏実。なんでこんなに俺と仲良くしてくれるんだ? 別にお前は友達だって沢山いるし、練習相手も養成所行けば誰かしらいるだろ、なんで俺なんかと」


「んー、別に理由なんてないよー。確かに友達はいるけど、やっぱりたっちゃんとこうして練習したり、たわいない話をするのが楽しいの。それに私の通ってる養成所は学校に通いながらおっけーな所だけど、土日しか行けないからねー。もっと練習したいもーん」


 俺もこうやってくだらない話して、練習してこうやって一緒に帰ったりする。

 そんな日常が楽しかったりする。


 それからはさっきまでのように、会話をかわさず無言で歩くと、夏実の家に着いた。

 「じゃーな、また明日」

 「ねぇ、たっちゃん」

 「どうした?」

 「たっちゃんはさ、私のことどう思ってるの?」

 一瞬なんでこんな事を聞かれるのかと、ドキッとしたが数分前のことを思い出す。


 「こうして俺と仲良くしてくれるのも嬉しいし、アフレコの練習も実はちょっと楽しい……なんて言うか、仲のいい幼なじみ……なのかなって」

 「……そっかー、私は好きだよ、たっちゃんのこと」

 後ろを振り向き、小さな声で、恥ずかしそうな声で夏実は言うと、家に入っていった。



 しばらく俺は呆然と立つ。ラノベの主人公だった場合は『えっ? なんていった?』みたいなように返すだろうが、俺はハッキリと聞こえた。聞き間違えはない。


 けれど、しばらく経つとどういう意味での好きということなんだろうと思いだす。



 夏実が俺の事を……好き? 異性として? それともただの幼なじみとして……? 

 あぁぁ!!なんかモヤモヤする……、聞こうにもなんて言うか聞き辛い。


 その変なモヤモヤに取り憑かれた俺は帰りも、家に着いてからも眠る時も、ずっとスッキリしないままだった。

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