10話゜疲れと葛藤
周りもすっかり薄暗くなり、焚き火が俺達の心を優しく包み込む。
疲れきった体もあっという間に吹っ飛ぶ…………
「わけねーじゃん!」
「びっくりした! 何よ急に!?」
「突然でけぇ声だすんじゃねぇよ、タバコ落としたじゃねえか、買いに行けないから大切なんだぞ」
「……うるさい」
「いや! 俺一人でやってるじゃんか!」
「働いてもらうって言ったろ」
たしかに俺は溺れた高梨を助けたが自分も溺れてしまい、守山さんに助けて貰って、迷惑かけた分2人働けよと言われ頼まれたことはやった。
だが、元凶となった高梨はぐっすり眠って何もしていないのだ。
高梨に魚釣りを頼み、魚がかかるのを待っている間に寝てしまい、なんど起こしても無反応だった。
結局俺が小ぶりの魚を8匹釣りあげ、魚を焼くためと明かりのために火起こしをし、守山さんが持っていた山菜ときのこが載っている図鑑を手に、食べられる物をビニール袋満タンに詰め、一旦別荘に戻って軽く茹でてまた持ってきた。
疲れてんの俺だけじゃね?
「ていうかその前に、なんでキャンプするんすか?」
「いやぁ、合宿と言えばキャンプだろ」
そんなに当たり前だろって感じに言われてもピンと来ないんだが……
「てか、全く起きてくる気配ないなあいつ。襟元、起こしてこい」
「何回起こしてもダメなんすよ、いきますけど」
ゆっくり立ち上がり俺は川岸から少し離れた所にあるテントに行く。
ファスナーを開くとぐっすり眠っている高梨の体をゆすいながら何度も何度も起きろと声をかける。
本当にこいつ1度寝ると起きねぇな……いつも死んでるんじゃねーかと思うからあまりビビらせるなよ。
しばらく繰り返しているとやっと目をひらく。
「ふぁぁ……あれ? もう夜っすか?」
大きなあくびをして体を伸ばす。
「あぁ、お前が熟睡してる間にご飯の用意も何もかもできた。早く起きろ」
「起きてますよー、後で行きますから」
「そう言ってまた寝るんだろ、お前の分の飯なくなるぞ、それでもいいのか?」
「それは困るっす」
眠さでひらき切って無かった目がシャキッと開き、立ち上がると、みんながいる焚き火の元へ歩いていく。
……びびった。
「うまいっすね! この魚! さすがセンパイが釣った魚っすね!」
「確かに美味しいわね、ちょっと骨が気になるけど」
「はぁ……ここに酒があれば……酒さえあればァァ!!」
「センパイ? 食べないんすか?」
「あっ、すまん、眠くてボーってしてたわ」
1度は川の水で顔を洗って眠気が取れた気もしたが、やはり脳を騙すことは出来なかった。
時間が経つたびに眠気が襲ってくる。
「わりぃ、これだけ食べてもう寝るわ」
「まぁそうだな。あまり無理させて私も悪かった、しっかり休め、明日の昼頃ここを出るからテントたたむ時までには起きてこいよ」
そして俺は会釈をすると高梨が寝ていたテントに入る。
つーか男二人にしては狭いよなこれ……荷物も多いし。
寝ようと思って来たのはいいがなんか、緊張して寝れないな……テントで寝るというか野宿自体初めてだからな。
寝付くことができず、戻ろうかなと思ったがもう横になって動くのもめんどくさい。
パソコンでネットサーフィンや執筆を進めようとも思ったが別荘に置いてきてしまった。
何をする訳でもなくただ、目を開け上を見詰める。
しだいに眠くなり、瞼が落ちる。
目を覚ましたのは21時を過ぎた頃。隣で眠っている高梨の大きないびきで起こされた。
うるさいな
「おい、高梨。いびきうるさいんだが」
もちろん起こしても起きる気配は全くない。
はぁ……寝れねぇ、まだ2時間ぐらいしか寝てないぞ……それっぽっちじゃ疲れ取れねぇ……。
何度ゆさぶっても叩いても声をかけても起きない。
俺はもう諦めた。これ以上は時間の無駄だ、無理矢理でも寝よう。
******
「みな、ゆっくり寝れたか?」
「はいっ! めっちゃ気持ちよく寝れました!」
「ちょっと怖かったけど、守山さんのおかげで!」
「……よく寝た」
「そうか、なら良かった。たまにはこういうのもいいだろ」
「……寝れなかった……あいつの……せいで」
俺は高梨を指さす。
「えっ!? 俺のせいっすか!?」
「お前のいびきがうるさかったんだよ」
「いやいや! 気のせいっすよ!」
手を振り、否定する。
「気のせいじゃねぇ、ほんとだ、昨日の21時ぐらいからずっと起きてたんだよぉぉ!!」
叫ぶとストレスが飛んで行った気がして、少しだるさがなくなった気がした。
「あれだ、何はともあれ合宿は終了だ、各自片付けたら帰るぞ」
「ういっす!」
「分かりました! 私と黒井さんは、部屋の掃除と片付けしてきます」
「わかった。私と高梨でここの後片付けはやっておく」
「俺はどうすれば?」
「襟元はもういい、部屋の片付けしたら出発まで私の車で休んでていい」
優しくそう言うと車の鍵を渡してきた。
「本当にいいんですか?」
「あぁ、体調壊されると色々困るからな、早いとこ荷物まとめて車に行ってろ、ついでに暑いから冷房もつけておいてほしいしな」
「ありがとうございます」
鍵を受け取り俺は、別荘に戻ると洗濯物を取り出す。
「っ……これって……」
それは淡い青の下着だった。
守山さんか花澤さんと黒井さんのどれかのなのか……いかんいかん、何を考えてるんだ俺! あまり変なことを考えるな!
忘れるよう他のことを考える。
よし、大丈夫じゃないか。抑えられるじゃんか俺、このまま早いとこ出て車に戻ろう。そうしよう。
目に入れないよう自分の服だけをまとめると畳まないままバックに詰め込むと、そのまま飛び出した。
車に乗り込み、冷房をつける。
あの下着誰のだろ……だめだ、忘れろ自分! たかが下着で何妄想を膨らませているんだ!
しばらく自分と葛藤していると、みんなが戻ってきた。
「なんだ、寝てなかったのか?」
「あっ、いや、ちょっと寝ました」
「センパイ! 俺が隣に居てあげますから安心して寝てください!」
「逆に寝れないからやめろ」
「ふぁぁ……私も眠くなってきた。守山さん、着いたら起こしてください」
「わかった。それじゃみな! 帰るぞ!」
おー! というノリは起こらず、シーンとしている。
一気に疲れが来たのか誰一人として話すことなく、車の走行音だけがする。
もちろん俺もさすがに深く眠りにつき、自分の家に着くまで目を覚まさなかった。