9話゜これで借りはチャラだ
色々あって既にもう疲れたが、川に着くと花澤さんと守山さん、黒井さんが居た。
「やっときたか、おせぇぞ」
少し守山さんがいつも以上にピリピリしているのはきっとあの事だろう。
黒井さんは相変わらず何も言わずこちらをじっと見ている。
あまり変な事を言わないよう気をつけよ……
「あの、裏山にいるってきいたんですが……なんでここに?」
「最初は裏山に居たさ、けど効率重視で分かれてただけだ」
「そもそも何をする為に?」
「食料調達だ。山では山菜、川では魚釣りをしてる」
だから汚れてもいい服で来るようにと言われたのか……
俺あまり山菜好きじゃないんだよな……変な苦味あるし、なんか怖いし。キノコとか特に。
「で、俺は何をすれば?」
「私のカバンを捕まえて落としたでかい鳥をとっ捕まえてこい……まぁ冗談だがな」
怖ぇ……目がやばいって……冗談に聞こえないからこれ。
「それじゃ俺は……なにを……」
「お前と高梨は山菜採りだ。こっちは気長に魚がかかるのを待ってる」
この川だと手で捕まえた方が早い気がするけどな……まぁいいか。
「って高梨はどこだよ!?」
さっきまでいたはずの高梨の姿が見つからず、つい声を荒げて変なリアクションをとってしまった。
辺りを見渡すと川に何か変な影が見え、2度見した。
そこには海パン姿の高梨が居たからだ。
「おい! 何してんだー!」
「魚取りっすよー! 水キレイだし気持ちいいすよ!」
俺にはただ遊んでいるようにしか見えないんだが……ていうか意外と筋肉質なんだな……。
高梨と自分の腹筋を見比べていると、どんどん切ない気持ちになってくる。
俺も少し筋肉つけようかな……
ちょっと自分のお腹に目を逸らしたほんの一瞬、目の前で遊んでいたはずの高梨の姿がなくなった。
てっきりあがってきたのかと思い川岸を確認するが守山さん、花澤さん、黒井さんの3人しかおらず、木材と葉っぱをかき集めている。
「あれ? 高梨?」
何か嫌な予感がよぎった俺は下流の方を見ると、高梨が溺れてバタバタしている。
「おい! 大丈夫か!?」
大声で叫ぶと俺はスマホを大きな岩に置くと、準備運動もしないまま川に飛び込んだ。
途中までは腰までだった水位がどんどんと深くなっていく。
あまり泳げないが必死に泳いだ。水しぶきを高く上げて。
「……ぶはぁ……はぁ……高梨! そこの岩につかまれぇぇ!」
息継ぎも上手くできず、息が上がりながら精一杯の声で叫んだ。
すると、他のみんなもやっと気がつき、大丈夫かと走ってくる。
「ちょっ、祐!? 高梨くん!? 大丈夫なの!?」
「何やってんだお前ら!」
「……危険」
やばい……息が……続かねぇ……そして遠い……早く行かねぇとまた流されるじゃねぇか。
つかまっていた高梨だったが、強い流れと疲れに逆らえず、手が離れそうになる。
「しっかりつかまってろよバカヤロぉぉ!」
一気にラストスパートをかけ高梨の手をガシッとつかんだ。
「ぜってぇ離すなよ」
「はいっ!」
脚に力を込めて踏ん張った。
くそやろぉぉぉ!!
だが、思いっきり力を込めたせいか足をつってしまった。
やべっ…………
「ちょっ!? センパイ!?」
「っ……やばいかも」
その時、守山さんが飛び込んできた。
「何やってんだよお前ら! 私に掴まれ!」
「ぶはぁ……あっ……あり……」
「あまり話すな! 空気が持たなくなるぞ」
左手で俺と高梨の2人をがっちり掴むと、右手で水をかき、川岸へ引き上げた。
『はぁ……はぁ……』
2人してしばらく息を荒くしていた。
5分程たつと、楽になってきて話せるようになってきた。
「その……ありがとうございます!」
俺は深く土下座をして謝った。
「あのなぁ、助けに行って溺れたら元もこうもないだろ……そして高梨、お前もちゃんと謝れ」
「すみませんでした……」
「謝るのは私にじゃない。襟元に謝れ」
「あっ……センパイ……すみませんでしたっ!」
「ちょ、俺はただ当たり前のことしただけだ、別に謝らなくていいから顔上げろよ」
そう言っても高梨は深々とおじぎを続ける。
無理やり顔を上げさせると涙でくしゃくしゃしている。
「センパイ、しずかさん、迷惑かけて本当にすみません!」
「俺はもう大丈夫だから、最終的に助けてくれたのは守山さんだ」
「まぁ私は2人が無事で何よりだ。それ以上謝らなくていい。だがその代わり後で沢山働いてもらうからな」
ニコッと笑い、びしょ濡れの服を交換するというと木影に行った。
「高梨、これで借りはチャラだからな」
「……まぁ……こればかりはいいっすよ」
「大丈夫みたいね、本当に無理するんだから! もしも守山さんが居なかったらどうしてたつもりなのさ! 私泳げないし、その……いやらしい目で見られそうだし」
「俺をなんだと思ってるんだ、少なくとも……いや、なんでもない」
「なによ! 気になるじゃない!」
「センパイは小さいの……」
咄嗟に高梨の口を抑える。
「んん! ぶはぁ……何するんすか!」
「お前が余計なこと言おうとするからだ!」
「何を言おうとしてたのさ」
「いやぁ? なんでもないよ?」
何事も無かったかのように話を誤魔化すと守山さんが新しい服に着替え戻ってきた。
「うっし、再開するぞ。高梨! 襟元! 迷惑かけた分働け! おっとその前に着替えてこいよ」
仕方ないことなので俺と高梨はゆっくり別荘に戻り、びしょ濡れの服を洗濯機に詰め込み着替えるとまたゆっくりと川に向かった。