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芽衣子は考える。
自分という人間が変化した原因を考えてみると、その一つはおそらく音無雅緋の存在なのだろう。彼女のような絶対的な自信を持った言動というものが、実は自分にとって少し羨ましいと思うところがある。だが、その半面、それを否定したいという思いが常につきまとう。
きっと彼女の存在が、自分の生き方を考え直すきっかけになったのだろう。
それが今回、新妻靖子への対応に迷った原因だった。
新妻靖子の中に存在していた妖かしを芽衣子は特殊な呪符を用いて封印した。
浄化出来なかったわけではない。むしろ浄化するほうが芽衣子にとっては簡単な処理方法だったのかもしれない。だが、そうはしなかった。ただ、その力を封印した。
封印することで彼女の妖かしの力が暴走することを防げればそれで良かった。
彼女にとってあの妖かしは必要なものなのだ。特に、あの妖かしは彼女を守っているものだ。
実は彼女について、両親に頼んで事前に調べてもらっていた。そして、彼女が、彼女の家が複雑な事情を抱えていることを知った。
彼女の両親は子供に恵まれることは出来ず、最終的に『代理母』という医療処置にすがることになった。そして、その代理母を務めたのが祖母であった。だが、その医療行為はこの国では問題視されているために秘密裏に行われ、産まれた子供は施設を経由させて引き取ることになったのだ。その事情を知るのは両親と病院関係者のわずかな人数しかいない。
きっと靖子本人も知らないはずだ。
彼女があの妖かしを内に宿したのは、そういう家庭環境が原因になっているのかもしれない。
そして、友人たちを襲ったのは――
(ただ、そこに彼女たちがいたから)
朝顔が支柱にすがって成長しようとするように、彼女たちにすがっただけなのかもしれない。
だが、彼女の心の中までは理解することは難しい。そして、本当にそこまで理解すべきかどうかもわからない。
彼女の事情を知ったからといっても、彼女の中の『妖かし』を認めてあげるわけにはいかないのだ。あの妖かしは人の血を吸っている。かつて人であった頃、人を殺めている。それもまた調査によってわかっていた。だからこそ、浄化こそしなかったが、封印する必要があった。
彼女が大人になった時、両親は全てを打ち明けることになるかもしれない。その時まで、まだ彼女を守る妖かしは必要なのだろう。
今回のことは私自身、意外な結末となった。千波の言い分ではないが、以前の自分ならばこんな結果にはしなかっただろう。
(私は私)
音無雅緋のようにはなれないし、なりたいとも思わない。
さあ、帰って千波と話をしよう。
かつて自らが浄化した妖かしの話を。
了