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毎日、授業が終わってから文化祭の準備に追われている。
松園啓子がある程度の計画を作成してくれていたおかげで、今のところ大きなトラブルも遅れもなく進んでいる。クラスメイトも素直に指示に従い、放課後は準備を手伝ってくれていた。
啓子が休んだ日、芽衣子は彼女の家を訪ねていた。もともと実行委員をしていた啓子から引き継ぎ作業をするためだ。だが、それは実はただの口実でしかなかった。
彼女の様子を見ること。それが一番の目的だった。
案の定、啓子の様子は由美子の状態と同じものだった。そして、やはり彼女にも妖かしによる棘が刺さっていた。
(やっぱり――)
このクラスの中にその原因が存在していると考えるべきだろう。
芽衣子は指示を出しながら、作業を進めるクラスメイトたちを観察した。
多少ふざけて遊んでいる生徒もいるものの、多くはわりと真面目に動いてくれている。そのなかでも一際積極的に働いている靖子の姿があった。彼女の友人である由美子と啓子の二人が体調不良で休んでいる。彼女はどういう気持でいるのだろう。
その時――
「え? 蓮華さんの?」
廊下から聞こえる声に私はハッとした。
すぐにその声の一団が教室へと入ってきた。すぐ近くにある中学校の制服を着た3人の少女の姿が見えた。
その中の一人には見覚えがあった。
芽衣子の妹の千波だった。
「お姉、遊びに来たよ」
千波は教壇に立つ芽衣子を見つけ、無邪気に手を振った。
「千波、どうしたの?」
「見学よ」
「見学? 何の?」
思わず眉をしかめ、声がキツくなる。だが、千波はいっこうに気にする様子もない。
「私も来年は受験生だから。受験する高校を一度見ておくのもいいかと思って」
「だからってこんな突然なんて何考えてるの?」
「まあまあ、いいじゃないの。さっき先生には許可もらったからさ。ねえ、文化祭って何をするの?」
そう言いながら作業をしているクラスメイトたちの手元を覗き込む。
「蓮華さんの妹さんなんですね」
クラスメイトの一人が千波に声をかける。
だが、その声をかけてきたのが靖子だということに、蓮華は少し驚いていた。いかに年下相手だといえ、こんなふうに初めて会った人間に声をかけるような人間に思えなかったからだ。
芽衣子は言葉にならない思いを持って二人の姿を見つめていた。
* * *
芽衣子が家に帰った時、千波はまだ帰ってきてはいなかった。
高校を出たのは千波のほうが少し早かった。おそらく友達と一緒に帰った千波はきっとどこかで遠回りしているのだろう。
芽衣子はリビングのソファに座り、ぼんやりと考えを巡らせていた。
千波が帰ってきたのは、それから20分後のことだった。
玄関のドアが開く音が聞こえ、芽衣子はすぐに部屋を出た。想像した通り、玄関には帰ってきたばかりの千波の姿があった。
「いったいどういうつもり?」
「何が?」
不思議そうな表情をして千波は芽衣子を見つめた。
「恍けるつもり? どうして学校に来たの?」
「見学って言ったでしょ」
「それだけの理由? そんなわけないでしょ。あなたがそんなことでわざわざ私の学校に来るわけがないわ。正直に言って」
「まあね。ちょっと最近のお姉が気になってね」
「私?」
「お姉、まさか気づいていないわけじゃないわよね」
「何が?」
「お姉の周りに妖かしの気がまとわりついているよ。今日、お姉の学校に行ってその理由がわかったわ」
「何がわかったっていうの?」
「新妻靖子さん、あれは妖かしよ」