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由美子の家を出てから、芽衣子は深く息を吐いた。
彼女の体調不良の原因がただの夏バテのようなことでないことは明らかだ。なぜなら、彼女には棘が刺さっていたからだ。それは目に見えるものではない。病院に行ったところで、どんな精密検査を受けたところで、原因がハッキリすることはないだろう。
あれは、妖かしによる仕業に間違いないだろう。
だが、あれは決して彼女の命に影響を与えるようなものではなかった。わずかな小さな棘、注意深く見なければ芽衣子でさえ気づけなかったかもしれない。
(いったい誰が?)
彼女が登校を拒否していることを考えると、彼女は無意識のうちにそれがどこで起きたかを気づいているのかもしれない。とはいえ、それを彼女に聞いたところで何もわかるはずがない。
彼女の棘を抜くのはさほど難しいことではない。だが、今それを抜いたところで、その原因を取り除かない限りまた同じことになる可能性が高い。
なぜ彼女が狙われたのかわからないが、それを知ることが妖かしの正体を確かめる道になるのかもしれない。
クラスメイトの行動に注意しよう、と芽衣子は思いながら帰路についた。
松園啓子が体調不良で学校を休んだのは、それから一週間後だった。
* * *
朝のホームルームの時間、突然、自分の名前を呼ばれたような気がして蓮華はハッとして正面を向いた。
「どうする蓮華?」
上杉が声をかけてくる。
「何がですか?」
「なんだ? 聞いていなかったのか? 文化祭の委員を任せたいという話だ」
「私が?」
「そうだ。松園の代わりにやってもらえないか? クラス委員との掛け持ちってことになると何かと大変だとは思うが。どうだ? 何か問題があるか?」
問題がないはずがない。ただでさえクラス委員として文化祭にはそれなりに仕事があるのだ。これで実行委員の仕事まで背負い込むということは仕事が倍増するということだ。だが、今の段階でヘタな人選をされればむしろ何倍も苦労することになるかもしれない。
すぐに頭のなかで、今後やらなければいけないことを整理する。
そして――
「わかりました。私のほうでやらせてもらいます」
その言葉に上杉は安堵する表情に変わった。
「じゃあ、頼む。藤宮とよく相談して進めてくれ」
「よろしくな」
ニコニコと笑いながら藤宮が手を振っている。その姿を見て、もう一人の実行委員が藤宮だったことを思い出す。
「ではお願いがあります」
「なんだ?」
「委員はやります。しかし、クラス全員がちゃんと参加してもらわないといけません。明日からは放課後、皆さんに残ってもらいます」
一瞬、えーっというクラスメイトの声が聞こえてきたが、それでもハッキリと反対する声はあがらなかった。
新妻靖子の表情がチラリと見えた。
靖子はうっすらと微笑んでいた。
それはとても明るい表情だった。