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放課後、芽衣子は三井由美子の家へと向かった。
クラス委員として、由美子のために休んでいる間に行った授業のプリントを持っていくよう担任の上杉に頼まれたからだ。それはもちろんクラス委員として頼まれたということもあるが、それとは別に芽衣子にはもう一つ目的があった。
三井由美子は活発な生徒だった。
クラスのリーダーとまではいかないが、それでも一つのグループをまとめるだけの人望があり、積極的な人材だった。1年の時も同じクラスだったが、少しくらい体調が悪かったとしてもほとんど学校を休むようなことはなかったと記憶している。
その由美子が一週間も休んでいる。
それは見逃してはいけない異変のように感じていた。
訪れた芽衣子を出迎えたのは由美子自身だった。両親は共働きで、家には由美子だけが残っているらしかった。由美子は意外に元気そうな表情をしていた。パジャマは着ていたが、ずっと寝込んでいたというわけではなさそうだ。
芽衣子は由美子の部屋に案内された。
「体は大丈夫?」
「うん、わりとね」
「熱は?」
と訊きながら、芽衣子は由美子の額に手を当てた。由美子は一瞬、少し驚いたような顔をしたが、それでも少し体を竦めただけで身動きせずに芽衣子に従った。
「少し驚いたわ」
目を逸しながら由美子は言った。
「何が?」
「蓮華さんってもっと冷たい人だと思っていたから」
「そお? 熱はないみたいね」
そう言って、芽衣子は由美子の額から手を離した。
「具体的にどこが悪いっていうわけではないの」
「病院へは行ったの?」
「一応ね。でも、よくわからないの」
「わからない?」
「いろいろ検査はしたんだけど、どこも悪いところもないって。ただの夏バテじゃないかって」
「じゃあ、学校へは?」
「……それは……」
由美子は言いづらそうに口ずさんだ。
「無理なの?」
「学校へ行くってことが苦痛なの。こんなこと言うと、ただのサボりって思われてしまうかもしれないけど、でも、そういうのとは違うのよ。学校は嫌いじゃない。むしろ好き。でも、学校に行こうとすると体が拒否するように重く感じるの。どうしてなのかわからない」
「学校で何かあったの?」
その問いかけに由美子は首を振った。
「いえ、何も……なかったと思う。ただ、最近になって学校にいるとすごく体がだるくて……重く感じるようになった」
「体が?」
「何かにのしかかられてるような……ごめんなさい、うまく言えなくて」
「大丈夫よ。気にしないで。文化祭までに登校出来るようになるといいわね」
「文化祭……そっか」
「実行委員は藤宮君と松園さんに決まったわよ」
「うん、さっき啓子からメールがきたわ。でも、彼女ならうまくやれるわよ」
由美子は少し寂しそうに言った。由美子が休んでいなければ、きっと彼女が藤宮から指名されていたかもしれない。
「松園さんとは仲が良かったわね」
「うん、中学の時からの付き合いだから」
「そう。新妻さんとも?」
「え?」
芽衣子の口からその名前が出たことに由美子は少し驚いたような表情をした。
「新妻靖子さん、あなたたちは彼女とも仲良かったんじゃないの? いつも一緒にいるみたいだけど。違った?」
「そうね。確かに……うん、友達だね」
そう言いながらも、由美子はさほど心から思っているようには感じなかった。
「それじゃ、私はそろそろ行くわ」
「ありがとう」
「少しゆっくり休んだほうがいいわ。きっと良くなるわ」
芽衣子は慰めるように言った。
だが、それがただの体調不良ではないことを芽衣子は気づいていた。