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7.私が狙うのは婚約解消 sideロンダ

過去に話がさかのぼります。

 私は最初からアルファ様と結婚する気など、さらさらなかった。


 私には夢がある。


 それは、いつか妹のミランダが冒険者から聞いた火をはく竜を見に行くこと。そして、竜の姿を絵に描いてミランダに見せること。それが、私の夢。


 昔、ミランダと約束したのよ。


「ねぇ、ミランダ。火をはく竜ってほんとにいるのかしら? 私は信じられないなー」

「ふふっ。そうね。でも、私は信じたいわ。そんな不思議な生き物がいるなんて、信じた方が世界が素敵に見えるもの」


 その時のミランダの顔が、私は忘れられない。キラキラとした瞳で話すミランダは、とてもキレイだった。

 私もあんな風に無垢な瞳をしてみたい。そう思った私は、とっさに言ったのよ。


「私が見に行くわ!」

「え?」

「私が火をはく竜を見つける! そして、絵に描いてあげる! ほら、私、絵が得意だから! 描いたらミランダに見せてあげるわね!」


 ミランダは体が丈夫ではない。竜を見に行くのは、難しいと思った。

 いえ、ミランダのためだけじゃない。田舎で退屈して、どうしようもなかった私に一つの夢ができた。それが、とても嬉しかったの。


「素敵! ロンダが見に行ってくれたら嬉しいわ」

「うん。約束するわ。私、火をはく竜を見つける!」


 幼い頃の約束。ミランダは忘れているかもしれないけど、私はその夢のためにお母様の指導も懸命にうけた。


 だって、冒険するにはお金が必要でしょ? だから、王都に出て、仕事をしてお金が貯まったら、火をはく竜を探しにいくつもりだった。


 私は伯爵夫人になっている暇はないのよ。ふってわいたようなアルファ様との婚約話に焦った。


 どうにか婚約破棄できないか。

 考えているうちに、ミランダとの身代わりを考えついた。


 二人がうまくいけば、ミランダの願いもかなえてあげられるかもしれない。


 ミランダは本を読んでは、「こんな恋をしてみたいわね」と、こぼしていたから、恋をすることに憧れがあると思っていた。


 体のことがあるから、諦めている風だったけど、姉としては妹の幸せを願いたいのよ。


 あれこれ考える時間はなかった。

 身代わりは、賭けだったの。


 私は身代わりをするにあたり、ばあやに協力してもらうことにした。ばあやは私の夢を知っている。お母様には内緒というので前に話したことがあった。


「お願い、ばあや! 協力して!」

「しかし、奥様がなんというか……」

「お母様には内緒で。絶対、反対されるに決まっているから!」

「しかし……」

「伯爵のご子息に会う明日だけでいいの! 私は熱を出すふりをするから、ミランダに代わりをするようにして!」


 ばあやは困った顔をして、なかなか頷いてくれなかった。


「ミランダの恋をしたいって願いを叶えてあげたいの。私にも夢がある。その夢のために、今は結婚できない。だからお願い!」

「もし、ご子息とミランダ様がうまくいかなかったらどうなさいますか?」

「その時は私からお母様と、お父様にお話をする。結婚できないって、説得する! だから、お願い! 明日、明日だけでいいから!」


 なんとかばあやを説得して、ミランダを身代わりに仕立てた。



 ベッドで寝ている間、私は傲慢にも、ずっとずっと祈っていた。



 どうか、どうか、二人がうまくいきますように。

 神様、お願いします。

 お願いします。


 どうか、どうか。



 アルファ様と会った後のミランダを見て、私は神に感謝した。


 だって、頬を染めて嬉しそうにアルファ様のことを語るミランダを見れたのだから。


 嬉しかった。

 幸せになってもらいたいと思った。


 だから、なんとしてでもアルファ様にはミランダを好きになってもらう!


 ええ、なんとしてでも!


 手紙を書くように助言し、筆跡を理由にその後もミランダに手紙を書かせ続けた。


 でもね。私があれこれしなくてもよかったみたい。


 アルファ様の返事を見て思ったの。

 そして、実際にアルファ様を見て確信した。


 この方はミランダを思ってる。

 強く、強く思ってる。


 だって、目が違うもの。

 ミランダを見る目が、それはそれは、愛しそうだもの。


 誠実そうな人だし、なによりミランダも好きになっている。


 ミランダは私を思って、好きとはハッキリ言わないけど、バレバレよ。あの子、嘘がつけないのよね。双子だもの、それくらい分かるわよ。


 二人をくっつけることはうまくいった。

 あとは、私とアルファ様の婚約破棄だけ。


 婚約破棄させつつ、ミランダと婚約するにはどうしたらいいのだろう。


 実は身代わりでしたー!って正直に言ってみる?


 それもありかもしれないけど、お母様が許しそうにない。お母様は体裁を気にする方。嘘をついていた家と伯爵様との縁を結ぶなんてとんでもない! とか言いそう…。


 じゃあ、お父様に頼む?


 うーん、いまいち、頼りない。


 お父様って、ただのお人好しだから。


 もっと、こう、伯爵様に納得してもらいつつ、お母様もそれしか選択肢がないような、そんな方法はないものかしら。


 いい方法が見つからないまま、私はあの笑顔がうさんくさい男に出会ったのだった。


 そう、アルファ様の仕事仲間のヨーゼフ様だ。



 *



 ミランダがアルファ様と出ていた後、ヨーゼフ様が私に話しかけてきた。


「ミランダちゃんは、お姉さん思いだね~」

「そう見えますか?」

「見える見える。あの鞄、何か入ってたんじゃない? 例えば、アルファ君への贈り物とか」


 するどいわね。まぁ、アルファ様の仕事仲間で、かなり親しそうだし、言っても問題ないか。


「そうですよ。アルファ様への贈り物です。お花を頂いたお礼に今日、買ったものです」


 朝から考えに考え抜いた贈り物だ。

 アルファ様ならどんなものでも喜びそうだと思ったけど、ミランダは懸命に選んでいた。

 あまり豪華なものでもなく、普段、さりげなく使えそうなもの。それでいて、ミランダの思いも込められているもの。アルファ様ならきっと喜ぶだろう。

 うまくいく二人を想像して、自然と頬が緩んだ。


「ミランダちゃんは、お姉さんが好きなんだね~」


 にこにこと変わらない笑顔でヨーゼフ様は言う。なんかトゲのあるように聞こえてムッとした。


「お姉さまには幸せになってもらいたいので」

「そっか~。アルファ君はいい奴だから、きっとお姉さんを大事にすると思うよ」

「……なんだか、さっきから、トゲのある言い方をしていません?」

「え? 俺が? まっさかぁ」


 にこにこと変わらない笑顔でヨーゼフ様は続ける。


「俺ね。アルファ君から色々、君たちのことは聞いているんだ。病弱な妹さんがいるってことも、知っているよ」


 ヨーゼフ様の琥珀の瞳が、すっと細くなった。


「でも、なぜだろうね? 俺には病弱な妹が、 ()()()()()()()()()()()の方に見えるんだ」

「どうしてですか?」

「君の瞳は生命力に溢れている。そして、頭の回転も早い。俺が君たちの親だったら、君を婚約者にするなって思っただけ」


 私は冷や汗がとまりませんでした。

 まずい、まずいわ……

 完全に読まれてしまっている。

 ここまできて、私の計画をじゃまされるわけにはいかないのよ。この底が知れないヨーゼフ様の真意を確かめないと。


「もし、そうならどうしますの? アルファ様に言いますか?」

「え? そんなことしないよ」


 意外な答えが返ってきた。驚いてヨーゼフ様を見つめると、ヨーゼフ様も私を見て驚いていた。


「アルファ君にも隠したいことなんでしょ? 俺は君を気に入っているし、なんなら協力したいとも思ってる。もちろん、アルファ君には内緒でね」

「なんでですか? 会ったばかりですのに……」


 なんでそこまでしてくれるの?

 うさんくさいことこの上ないわ。


「なぜねぇ、君を好きになっちゃったからって言ったら信じてくれる?」

「絶対、信じません」


 ハッキリ告げると、ヨーゼフ様は笑いだす。


「いいね~、いいよ。ますます君のことが気に入った」

「それはどうも。その好意は今すぐ捨ててください。持っていても無駄ですので」


 またハッキリ言うと、ヨーゼフ様は大声で笑い出した。なんなの? なにが、そんなに面白いの? 私はちっとも笑えないわよ。


「あー、笑った。ますます君に惚れたよ。君のためなら、いくらでも協力するし、愛の逃避行だってできるよ」


 うさんくさくて、顔がひきつった。

 出会ってすぐ好きだ、なんていう男は大抵、ロクな男ではない。


「逃避行は遠慮しますけど、協力してくださるならしてください。あの二人をうまくいかせたいの」

「いいよ。それは、喜んで協力しよう」


 にこりと笑っていたヨーゼフ様が、おもむろに近づいてくる。そっと私の耳に囁き出した。


「他にしてほしいことがあれば言ってね。ハートYに会いたいと、ここの店主に言えばいいから」

「え?それは、どういう……っ!」


 私は最後まで言えなかった。不意に耳に小さな痛みを感じたから。驚いて、耳をおさえ、ヨーゼフ様を睨む。


 か、噛んだ!? 今、耳、噛んだ!?


「ごちそうさま。あ、これは先払いね。見返りもなく何かをするほど、俺は慈悲深い男じゃないから」


 あっけらかんと言われてしまい、わなわなと怒りに震える。ひっぱたいてやろうかしら! 私の耳を噛んだ罪は重いのよ!


 そう思って、手を振り上げたその時。


「あれ? お姉さんが帰ってきたよ? アルファ君はいないみたいだけど」

「え?」


 振り返ると、顔が真っ青なミランダが、ふらふらと近づいてきた。それに驚いて立ち上がり、ふらつくミランダを支える。


 どうしたの?

 さっきまで、あんなに幸せそうだったのに。


「どうしよう……」

「え?」

「アルファ様が……アルファ様が……婚約式をしたいって……」


 え?

 えええっ?!


 くっつけばよいと思ってはいたけど、話が飛びすぎだ。 なに? 二人は知らない間に、教会で将来を誓い合う仲にでもなったの?


 すっかりパニックになった私は、アルファ様への挨拶もそこそこに、逃げるように帰ってしまった。



 そこからが、修羅場だったわ……



 *


 婚約式は家族を交えて行うもの。隠しきれないと判断した私はことの詳細を両親とばあやに話した。

 話を聞き終えたお母様は顔色を無くして遠い目になり、お父様はのほほんとしている。


「婚約式? いいんじゃないの?」


 お父様の反応に、お母様の額に青筋が立った。


「なにバカなことを言ってるんですか!アルファ様は、ミランダのことをロンダと思い込んで、婚約式を申し込んでいるのですよ! 伯爵様に嘘をついて婚約式を行うなどできるはずがありません。それに、名前はどうするんですか! ミランダに偽りの名前で生涯いろっていうんですか!」

「それは、可哀想だな~」

「可哀想とか、それ以前の問題です!!」


 お母様の怒号が飛び、お父様は相変わらず。ミランダは、倒れそうなくらい青ざめている。


「あぁ、身代わりなんてさせるんじゃなかった……こうなったら、伯爵様に全てお話をして、婚約の破棄をしてもらうしかありません」


 お母様が額に手をあてて方針を打ち出す。


 それは困る!

  私の婚約破棄はいいけど、ミランダまでされたら困る!私が何か言おうと声を出した時、先にばあやが話し出した。


「奥様、それは時期尚早です。せっかくミランダお嬢様とアルファ様が仲むつまじくされていますし、破談にするのはもったいのうございます」

「しかしマリア……こうなってしまってはもう……」

「今は気が動転されて考えられないだけです。少しお休みになりましょう。ほら、ミランダお嬢様も、今にも倒れそうです」

「ミランダ……」


 ミランダが顔を両手でおおい、はらはらと涙を流した。


「お母様……申し訳ありません……私、私……」

「あぁ、ごめんなさい。あなたは悪くないわ。あなたは悪くない。悪いのは私よ。身代わりなんてさせた私よ……」

「お母様……」


 涙を流すミランダをお母様が抱きしめる。私は鉛でも飲んだかのように、胸が重たくなった。


 部屋に戻った後もミランダは泣きじゃくっていた。


「ロンダ、ロンダ……ごめんなさい」

「ミランダ……」

「アルファ様との婚約を私がダメにしてしまったわ。せっかく……アルファ様という素敵な方と出会えたのに…… ごめんなさい、ごめんなさい……」

「ミランダ……」


 泣きじゃくるミランダを抱きしめて、私は茫然としていた。


 なんで、こうなっちゃったんだろう。

 私が身代わりなんてさせたから?


 私が、みんなを悲しませたの?


 私が……



 …………。




 まだよ。

 まだ、望みはあるわ。


 少なくともアルファ様はミランダを婚約者にしたがっている。ミランダだって、婚約者になりたいって思ってるはずだわ。


 それなら。


「ミランダ。ミランダ」


 泣きじゃくるミランダに声をかける。


「大丈夫。きっと、なにもかもがうまくいく。大丈夫だから」

「ロン、ダ……?」


 精一杯、笑いかける。私の可愛い妹。私が絶対に幸せにしてあげる。


 たとえ、離れることになったって。


 私が幸せにしてあげるんだから!



 そして私は二度目の賭けにでた。



 *


「ハートのYと話がしたいの。会わせてもらえる?」


 あの店に出向き伝言をいう。

 再び来たとき、彼と会う時間を言われた。



 そして、私は再びあのうさんくさい男に会った。



「君からのお誘いなんて嬉しいな」


 相変わらず彼は緊張のない笑顔で私を見つめていた。私は少し深呼吸して、その男を見つめた。


「私と駆け落ちして」


 男は不敵に笑った。




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