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34.愛していきます。(完)

 ロンダと一緒に結婚式をした数日後、ロンダとヨーゼフ様の旅立ちの日がやってきました。荷物を抱えたロンダを家族全員で見送ります。


「じゃあ、そろそろ行くわね」

「うん…」


 ロンダは笑顔です。だから、私も笑顔でお見送りです。


「お父様、お母様。行ってきます」

「体に気をつけて。いつでも待ってるから」

「ロンダぁぁぁぁ! きをづけていぐんだよおおお!」

「大丈夫よ。ヨーゼフ…だっているんだし」

「父上、母上。ロンダは俺が守りますから」

「お願いします。ヨーゼフ様」


 お母様は号泣しているお父様をひっぺがします。そして、ロンダが私の前に立ちました。


「ロンダ…あの、これ」


 お守りを差し出します。それをロンダは驚いた顔でそれを見つめました。


「不恰好でごめんなさい。でも、持っててほしかったから」


 ロンダの好きな赤をモチーフにしたお守り。何度も失敗しても、たくさん、たくさん願いを込めて作ったものです。

 ロンダは感慨深げにそれを受けとりました。


「やっぱり、私達って双子なのね…考えることは一緒だわ」


 そう言って、ロンダが差し出したのは同じお守りでした。私の好きなオレンジ色をモチーフにしたお守り。私よりもキレイに仕上がったそれを握りしめると涙腺が緩みそうになりました。


「ありがとう。大切にするわ…」


 にこっと笑ったロンダの顔。大好きな笑顔。笑ってさよならすると決めたから…だから涙を必死にこらえました。


「アルファ様、ミランダをお願いします」

「分かった。ロンダも無事で。よい旅を」

「あれ? 俺は?」

「お前は大丈夫だ。死ぬ寸前になるまでロンダを守りきれ」

「うわっ。それ、長旅に行く友人への言葉なの?」


 ヨーゼフ様の言葉に笑い声が出ます。

 大丈夫。きっと、うまく笑えてる。


「じゃあ、元気で」

「いってらっしゃい」

「うん。いってきます」


 二人が手を振り歩き出します。


 まだダメよ。

 今、泣いたら見られてしまう。

 だから、もうちょっとだけ…


 ぐっと手を握りしめて耐えていると、ロンダが立ち止まりました。振り返ったロンダ。その顔は―――泣いていました。



 駆け足で戻ってきたロンダに抱きつかれます。強く抱きしめられ、言葉を失いました。


「バカミランダ! 泣きたかったら泣きなさい!」


 涙まじりの声に涙が溢れます。

 震える手でロンダを抱きしめ言葉に詰まりました。


「幸せになるのよ。絶対」

「うんっ…うんっ…」

「絶対に戻ってくるから。ミランダに火をはく竜を見せてあげるから!」

「うんっ…待ってる…待ってるから…」


「大好きよ、ミランダ。どこにいてもミランダの幸せを願ってる」


 ぎゅっと、ロンダを抱きしめて言います。ありったけの思いを込めて。


「私も! 大好き! ロンダも幸せになって! 幸せになってね…っ!」


 最後の方は嗚咽になってしまって上手く言えません。ロンダがぎゅっと抱きしめてくれてそのあたたさに、涙が止まりませんでした。



 しばらくして、泣き止んで離れると、泣き腫らしたお互いの顔を見て微笑み合いました。コツンとおでこをくっつけてお別れをします。


「いってくるわね」

「うん。いってらっしゃい」


 今度は笑顔で見送ることができました。見えなくなるまで手を振り、そっと手を下ろすとアルファ様に肩を抱かれます。


「よく頑張ったな」


 優しい顔に微笑み、ロンダ達が行ってしまった方向をみます。アルファ様に頭を預けながら、しばらくの間、二人の行く末を見守るようにその場に佇んでいました。



 ◇◇◇



 その足で一度、家に戻った私はアルファ様にあるお願いをしました。


 それは…


「狭くないか、ミランダ」

「大丈夫です」

「もっとこっちに来なさい」


 私が大事にしているテントの中に初めてアルファ様をご招待しました。元々、それほど大きくないテントなので、アルファ様が入るとぎゅうぎゅうです。でも、いいんです。ぴったりくっつけてとても幸せだから。


「ここがミランダの秘密の場所か」

「はい。ここで本を読んだり、色んなことをしました。ほら、見てください! アルファ様の肖像画だって」


 にこにこしながら、肖像画を見せます。


「今日は本物のアルファ様が来てくれたんですよ。アルファ様」


 肖像画に話しかけると、アルファ様が私をぎゅっと抱きしめておでこにキスをします。


「本物がいるんだから、私に話しかけておくれ」

「まぁ、ふふっ」


 拗ねたアルファ様に笑っているとますますキスをされました。


「私、夢だったんです。このテントにアルファ様をお迎えするの」


 ぎゅっと抱きついて笑顔で言います。

 小さなこのテントが私の夢の城でした。ワクワクもドキドキもこの中で体験してきました。でも、それはリアルではなく、あくまで想像の世界。でも、アルファ様がいればそれらが本物になります。そんな今が幸せで胸がいっぱいになりました。


「だから、夢を叶えてくれてありがとうございます」


 そう言うとアルファ様は優しい顔で言います。


「それはよかった。ミランダの夢が叶えられたなんて私も嬉しい。それに…」


 アルファ様が私の髪をすくように撫でます。


「私の夢ももうすぐ叶う」

「夢ですか?」

「覚えているかな。私が初めて君に送った手紙のことを。あの時、ここで君と見た夕日は本当にキレイだった。君と離れがたくて、星が瞬く頃まで一緒にいたいと思ったものだ」


 その言葉に思い出しました。アルファ様の最初の手紙のことを。


「私の夢を叶えてくれるかい?」


 その言葉にぎゅっとアルファ様に抱きつきました。


「もちろんです! アルファ様!」


 外を見ると、夕日が沈みそうでした。初めてアルファ様と見た夕日。その時とは何もかもが違って見えます。


「アルファ様」

「なんだ?」

「愛してますわ」


 そう言うと、アルファ様の顔が夕日のように赤くになります。


「ずっと、ずっと、愛していきます」


 そう言うとアルファ様から優しいキス。


「私も愛している」


「ずっと、君だけを愛し抜く―――」



 大切な場所で愛している人と抱き合いながら、幸せなキスを何度も何度もしました。


 太陽が落ち、星が瞬く頃になっても、私たちはずっとそこにいました。


 幸せを分かち合いながら。




 happy end


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