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32.それぞれの夜 ミランダ&アルファ

 アルファ様が落ち着いたところで、私は心配をおかけしたことを謝りました。そしてエミリアちゃんとバロック様のことをお話ししています。

 お話ししてはいるのですが…


「それで、バロック様はエミリアちゃんが好きで逃げてしまったというわけです」


 ちゅっ


「っ…バロック様が少し前までの私に似てると思って見過ごせなくて…」


 ちゅっ


「っ…それにエミリアちゃんも悲しそうな顔をっ…してたので…」


 ちゅっ


「っ…ほっとけなくて…」


 ちゅっ


「っ! もぉ、アルファ様! 聞いてますか?」

「聞いてる。要はウォルフォード卿の心の狭さがエミリアを傷つけ、ミランダはそれに巻き込まれたのだろう」


 真面目な顔で言われて怒るに怒れません。それに大体、合ってるのでますます怒れません。


 ゆっくり夫婦になっていきましょうと言ってからアルファ様の様子が変です。

 いつも優しいのですが…なんていうか…その…甘いのです。遠慮がなくて、ひたすら甘いのです。

 今も、後ろから抱きしめられて顔中をキスされながらお話ししています。


「お話しするときは…キスはその…」


 キス禁止なんて言ったことがあるため、強くは言えずに口をつぐみます。

 アルファ様はふっと笑うと、おでこにキスをします。


「すまない。ミランダの口から他の男の名前が出るのが嫌で自分を誤魔化していた。許してくれ」


 目が細くなって、眉は下がりっぱなし。そんな幸せそうな顔をされたら、これ以上何も言えません。

 それに、心配をかけたのは事実です。

 アルファ様の髪はまだ汗が残りしっとりとしていました。後ろから覗き込むようにその髪に触れます。


「ごめんなさい…心配をかけて…」


 きっと色々な場所を走ってくれたのでしょう。それにきゅんと胸が痛みました。


「んっ…んぅ―――!」


 飲み込まれるようなキスをされ、仰け反って首がつりそうになります。ぷはっと、唇が離れるとアルファ様は真剣な顔で言います。


「正気を失った。ミランダがいなくなるとこんなにも我を失うのかと、実感した」


 ぎゅっと、存在を確かめるように抱きしめられます。それにすり寄りながら、ポツリと言います。


「ごめんなさい。アルファ様のそばを離れません」


 そう言うと頭を撫でられます。大きな手で撫でられるのが好き。大きな体に抱きしめられていると、安心します。

 安心して…眠たく…


 ――はっ。いけない。眠るところでした。


「そろそろ戻りましょうか?」


 寝てはいけないと思い、アルファ様から離れようとします。しかし、また強い力で引き寄せられます。


「断る」

「へ?」


 断る? え??

 不思議そうに見上げると、また頬にキス。


「戻ったら二人っきりでなんていられない。屋敷に戻ってもそうだ。だから、まだこのままで…」


 そう言ってまたキス。

 甘い、甘い、砂糖菓子のような時間。ふわふわして、心地よくて溶けてなくなったらどうしようと、心配になります。


「アルファ様…これ以上、キスしたらっ」


 ぐいとアルファ様を押しのけます。頬が熱い。いいえ、体が火照って熱い。


「どうにかなってしまいます…」


 恥ずかしくてちょっと涙目で言いました。すると、アルファ様はあの意地悪な顔になります。


「大丈夫だ。どうにかなるミランダも可愛い」


 そう言われて、何が大丈夫なんでしょう?と思いましたが、甘い大好きな人の口づけを拒否できるわけもなく…私はそっと目を瞑りました。くすっと笑う声がして、唇が重なります。



 あなたがくれるキスは甘いお菓子。でもお腹はいっぱいにならなくて、もっと欲しくなる不思議なお菓子。

 幸せという名の隠し味をたっぷり注いで食べたら、そのうち私自身がお菓子になってしまうかもしれない。


 甘い甘いお菓子になったら、アルファ様は食べてくれるかしら? アルファ様は甘党だったけ? そんなことを考えながら、甘い一時は過ぎていきました。



 ◇◇◇



 あまりにもキスをしたせいでしょうか? 唇と舌がジンジンして、足元がフラついてしまいます。アルファ様はなぜかとてもご機嫌で私を支えてもらいながら会場へ向かいました。


 すでにロンダ、ヨーゼフ様。そしてエミリアちゃんにバロック様の姿が見えました。エミリアちゃんが微笑んでいるので、ホッとして四人の元に向かいます。


「あ、アルファ君……って、なにその顔…キラキラして眩しいんだけど」

「そうか?」

「いや…妙にすっきりした顔してるよ? …まぁ、ミランダちゃんを見れば何があったかは分かるけど」


 そんなに顔に出てるでしょうか…

 やだ。恥ずかしい…


「閣下! この度は申し訳ありませんでした!」


 折り目正しくエミリアちゃんがお辞儀をします。


「エミリア?」

「閣下のことを破廉恥だ。破廉恥だと暴言を吐いたことをお詫び致します」

「…話が見えないぞ、エミリア…」

「いえ、分からなくて結構です。閣下がベタベタベタベタとミランダちゃんに触れる理由がよく分かりましたので。これからはどうぞご遠慮なくイチャイチャしてください。私は空気となっていますから!」

「……とりあえず、落ち着いてくれ」


 アルファ様とエミリアちゃんがワイワイ話しているところへバロック様が近づきます。


「ミランダ…その悪かったな。色々」

「いえ。勇気は出せましたか?」

「あぁ…」

「ふふっ。よかったです」


 少しだけ照れくさそうなバロック様の顔。それだけでよかった~と思います。


「アールズバーク卿」


 バロック様がアルファ様に向かって話しかけます。一瞬だけ氷のような眼差しをアルファ様がされました。


「この度は貴殿の大切な人にご迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


 またも折り目正しくバロック様が謝られました。


「いや、過ぎたことだ。気にしないでほしい。それに…」


 ぐいっとアルファ様に引き寄せられます。


「貴殿のおかげで妻となるミランダとの仲も深まった。礼を言う」


 それを聞いてバロック様が赤くなって「そ、それはよかったですね…」と顔をひきつらせながら言いました。


「はいはーい。俺らからご報告があります」


 空気を変える明るい声がしました。ヨーゼフ様がロンダの肩を抱き、ハツラツとした声で言います。


「俺たち結婚することになりました」


「………」

「なんとっ…」


「え?……ええええ!?」


 突然のご報告に驚いて思考が停止してしまいます。


 ロンダがヨーゼフ様と結婚!?

 え? うそ! どうしよう! 嬉しい!


「おめでとう! ロンダ!」


 ロンダに抱きつきます。

 よかった! ロンダとヨーゼフ様がうまくいけばいいって思ってたから、とても嬉しい! 今日は最高の日だわ!


「本当に嬉しい…おめでとう」

「ミランダ…ありがとう」


 ロンダがそっと抱きしめてくれます。

 やだ…嬉しくて涙でそう。


「ミランダちゃん」


 ヨーゼフ様が近づいてきます。


「安心して。ロンダの旅立ちに俺も付いていくから」


 その言葉にぱっと、ロンダを見ます。ロンダははにかみながら、こくりと頷きました。


 あぁ、神様!

 こんなことって本当にあるのね。

 よかった。本当に。

 どうしよう、涙が…


「もう泣かないの…」

「だって、だって…嬉しくて…」


 ハンカチでロンダが涙を拭ってくれます。すると、ヨーゼフ様がにっこりと微笑んで言いました。


「近々、ご両親に挨拶に行くからね」

「はい…お待ちしてます」

「それと、俺のことはお兄様って呼んでね」


 にこっと言われて涙が引っ込みました。


「俺、妹いないからお兄様って呼ばれたかったんだ~。だから、ね?」

「はい…分かりました。えっと…ヨーゼフお兄様?」

「くぅ! いい! ちょっと愛で心が暴走しそう!」

「おい、ヨーゼフ…」

「あ、アルファ君もお兄様って呼んでもいーよ」

「………絶対に言わない」


 誕生日パーティーは、ロンダの結婚報告でしめられてました。



 色々なことがあった一日でした。


 みんな幸せな笑顔でしめられた一日。

 夢のように幸せで眠るのがもったいないくらいです。


 でも、朝日が空に昇る頃まで続いた誕生日パーティーに私の体力も限界でした。


 馬車に揺られていると、自然と瞼が落ちてしまいます。


 寝りたくないな…

 だって、幸せなんだもの…


 そう思ってもうっつら、うっつら揺れていきます。


 ふと頭をひかれ、肩に乗せられました。がっしりとした肩幅。きっとこれはアルファ様だわ。そう思うと、ますます安心して、私は瞼を閉じました。




 ◇◇◇おまけ(ロンダ視点)



「あら? ミランダ寝ちゃったんですか?」

「そうみたいだな。疲れたんだろう…」


 そう言ってアルファ様が愛しそうにミランダを見つめる。その瞳が…甘い!

 甘すぎるわよ! なに? 私に灰になれとでもいうんですか!?


 はぁ…なんか、もうご馳走様って感じよ。


「ロンダ嬢」

「はい」

「まだ言っていなかった。結婚、おめでとう」


 突然の祝福に少しだけ驚いた。こんなに穏やかな瞳で言われると思わなかったからちょっと、恥ずかしい。


「ありがとうございます」

「ヨーゼフは………たぶん、いい奴だ」


 その褒めようとして、褒める所があまりなくてひとまず言葉を濁すのがアルファ様っぽい。この方はヨーゼフ……のことをよく分かっている。


「ふふっ。そうですね。たぶんいい人です」


 そう微笑むとアルファ様は何か考えてから、キリッとした表情になる。


「君のことは姉上と呼んだ方がいいのか?」

「は?」

「いや、ミランダの姉だ。ヨーゼフのことは兄と呼ぶのは抵抗があるが、君に対しては抵抗がない」


 ……そうだった。

 この人、ドがつくほど真面目だった…


「そんな姉なんて、私達は双子ですよ? でも、そうですね…呼び捨てにしてもらった方がいいです。ミランダみたいに」

「しかし…」

「アルファ様。あなたはミランダの夫になる人です。だから、家族になる人には呼び捨てにされたいんです」


 そう言うと、アルファ様は少しだけ考えて「わかった」と言ってくれました。


「家族か…」

「?」

「いや…家族が増えるというのはいいものだな」


 穏やかな表情で言われて、胸がいっぱいになる。


「ええ、本当に…」


 ふふっと笑った時に、ミランダが身動ぎする。


「…幸せですわ。アルファ様…」


 起きた?と思ったけど、ミランダは目を開けない。その代わり、ふわふわの笑顔で寝言を言う。


「おめでとう…ロンダ…」


 夢の中まで祝福してる。

 もう、この子ったら。


 ふわふわの寝顔を見ながら、私達は顔を見合わせて笑ってしまった。


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