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【幕間】それぞれの夜 ロンダ&ヨーゼフ

 ミランダがエミリアちゃんの婚約者に連れ込まれて、アルファ様がミランダを連れ去って、エミリアちゃんは婚約者を尋問するとか言ってその場に残った。


 そして私はというと、ヨーゼフ様とバルコニーに出ている。

 頭を冷やしたかったので丁度よかった。


 勘弁してよ~~

 もう…ハラハラするのは嫌だ。


「はぁ…」


 大きくため息をつくと、ヨーゼフ様は笑いながら言う。


「いやぁ、修羅場だったね~」

「笑い事じゃないですよ…」

「そう? いいじゃない修羅場。嫉妬は恋を深めるスパイスだよ」


 そう言って笑うヨーゼフ様は相変わらずだ。こうして二人っきりで会うことも増えている。それが自然すぎて違和感がなくなっていることも気づいている。

 そして…


「ん? どーしたの?」


 銀色の髪の毛が月明かりでキラキラ輝いている。眼差しは蕩けるぐらい甘い。


 私は気づいている。

 この人は私のことが好きだ。

 そして、私も。


「っ…」


 何でも話せる相手なのに、一つ言えないことがあった。それは、旅立ちのこと。そして、その旅に私はヨーゼフ様と一緒に行きたいということ。


 だから、こんな時だけど、言ってみたいと思う。勇気を出して。


 そう! 勇気をだして!

 出すのよ、ロンダ!


 バルコニーを掴む手が震える。肌寒いというのに冷や汗が出そう。喉はカラカラで言葉が張り付いてしまう。


 あぁ! 私ったらアルファ様やミランダに偉そうなこと言ったくせに!


 いざ自分の番になると緊張で震えて言いたいことも言えない。


「ねぇ、ロンダちゃん」

「は、はいっ!」

「ロンダちゃんは、ミランダちゃんが結婚したらどうするの?」


 ――直球で聞かれた!?


「夢を叶えに行くのかな? それとも…」


 すっとヨーゼフ様の顔が近づく。細められた瞳はやっぱり甘くて、色っぽくてドキドキする。


「俺と愛の逃避行でもする?」


 低く囁かれた言葉。

 それに赤面する。


 それはかつて私が持ちかけた話。

 あの頃の私は幼稚で身勝手な思いから家族を傷つけるところだった。


 でも、今は違う。

 逃げるためのものではなく、純粋にこの人のそばに居たいから、私は「愛の逃避行をしてください」って言うつもりだった。


 この人は本当に…

 なんで先に言うのよ!


 無性に悔しくて睨んでみる。でも、そんなのは火に油を注ぐようなものらしく、ただ甘く微笑まれるのみ。それに腹がたった。


 近づいたヨーゼフ様に顔を近づけて目を瞑る。ヨーゼフ様が教えてくれた親愛のキスのやり方。それをする。


「どっちもです。私、欲張りなんで」


 また睨んで言ってみるが、怒りは長く続かなかった。


 だって、ヨーゼフ様が顔を赤くしていたから。


「急にキスしないでよ…」


 ーとくん


 この人と出会って、その余裕のある笑みばかり見てきて、いつかその仮面を剥ぎ取りたいと思っていた。


 仮面をとっても変わらず笑っているのかな…そう思っていたのに。


「ふふっ…」

「なに? 笑って」

「だって、ヨーゼフ様が可愛いから」


 仮面を外したあなたは、キス一つでうろたえて、ムッとしてしまうような可愛い人だった。


「いい大人に可愛いはないでしょ」

「でも可愛いですよ。照れているヨーゼフ様なんて初めて見ましたし」


 そう言うとさらにムッとされる。

 拗ねちゃってカワイイー!

 なんだろ。この優越感!

 いつも、いじられっぱなしだったから。

 笑いがとまらない。うふふっ。


 調子に乗っていると、ヨーゼフ様が顔を近づけてくる。


「あんまりからかうと、痛い目見るよ」


 その顔はもう拗ねた可愛い顔ではなく、見たことがない悪い男の人だった。


 あれ?


「せっかくキスを教えてたのに、ずれていたよ」


 ちょんちょんと唇を端を指差す。

 ずれていた? え?


 ――はっ。まさか、キスができていなかったってこと!?


 自分の醜態に冷や汗がまた出てくる。


「物覚えの悪い生徒(ロンダ)には、お勉強(おしおき)が必要だよね?」


 ね?と念を押されパクパクと口を開く。

 まずい、と思った時には遅かった。


「まずは親愛のキスからね」


 ヨーゼフ様が私の頬を両手で持ち上げる。熱のこもった瞳に釘付けになった。


「ひゃぁ!?」


 おでこにキスされて色気のない声が出た。続いて頬に唇の感触。ぎゅっと目をつぶって次のキスを待つ。


 あ、私…嫌じゃないんだ。

 期待しちゃっている…


 力を抜くと、ちゅっと唇に軽い感触。

 おしまい?と思ってゆっくりと目を開く。


 ードキンっ!


 熱っぽい眼差しのまま見つめられている。その瞳は野性的で、食べられちゃいそうな気がした。


「目を瞑って、ロンダ」


 掠れた声で囁かれ反射的に目を瞑った――


「っ!」


 初めての情欲(おとな)のキス。それはびっくりするくらいエロティックで、私は翻弄されるばかりだった。



 ◇◇◇



「大丈夫?」


 キスで腰砕けになった私はヨーゼフ様に支えられていた。ヨーゼフ様は余裕の笑みのままご機嫌でいる。


 だ、大丈夫じゃないわよ!?

 腰に力が入らないわよ!

 キスってあんなにすごいものなの!?


 思い出してまた頬に熱が集まる。


「ねぇ、ロンダ」

「…なんですか?」


「結婚しようか?」

「―――は?」


 不意のプロポーズ。

 前触れも何もなく息を吐くようにされたプロポーズ。


「だってさ、愛の逃避行するにしても、君の親御さんが心配するだろうし。それだったら、結婚した方が色々、都合がよくない?」


 都合って…そんなムードのない。


 別におとぎ話のお姫様みたいに跪いてくださいなんて言いませんけど、もうちょっとこう…


「ん? いや? 結婚するの?」


 ずるい。

 そんな幸せそうな顔をされたら、ノーなんて言えない。


「結婚…してもいいですよ」


 ちょっと可愛くない返しだったけど、これが今の私の精一杯。


「よかった~」


 ぎゅっと嬉しそうに抱きつかれて、わたしまで幸せな気持ちになる。


「やっと…遠慮なく触れられる…」

「え?」


 かぷっ


「っ~~~!?」


 耳、耳噛まれっ!


「ははっ。覚悟しておいた方がいいよ。俺の愛は深いから」


 耳元で囁かれた言葉にゾクゾクしていると、ペロッと耳を舐められた。それに飛び上がりそうになる。でも、ぎゅっと後ろから捕まれているから、動くに動けず、私はただぶるっと震えただけだった。


「そうだ。どうせ結婚するなら、アルファ君たちと合同にしよっか?」

「へ?」

「だって、その方がみんな集まっているし、いっぺんに済むし都合がいいよね」


 また都合…

 人の結婚をなんだと!


「ミランダちゃんと一緒に結婚できるなんて、ロンダも嬉しいんじゃないの?」

「それはっ…嬉しいですけど…合同の結婚式なんて聞いたことがありませんよ?」

「ふーん。そっか…こっちの世界では当たり前じゃないのか」


 ―――こっちの世界?


 ヨーゼフ様の呟いた言葉に違和感を覚えた。見上げるとクスリと笑われる。


「君だけに教えてあげるよ。俺の秘密」


 ヨーゼフ様が口元に弧を描く。月夜に照らされたそれは妖艶だった。


「ま、とりあえず結婚式は近日中にするとして、ご両親に挨拶もしなくちゃだし…あ、俺の方はいーから。今日、父上には会えたし」

「で、でも、ヨーゼフ様のお母様にもご挨拶しなければ」


 そう言うと、長い指が私の唇を塞ぐ。


「様づけは前から嫌だったんだ。だから、呼び捨てにして。じゃないと、キスするよ。勿論、情欲(おとな)の方ね」

「それは、無理ですよ! ヨーゼフ様!」


「はい。ダメ~」


 唇を塞がれ深まる口づけ。息苦しいのにトロトロになるようなキスに力が抜けていく。


 ヨーゼフ様はぺろっと私の唇を舐めると、不敵な笑みを浮かべた。


「こっちのお勉強は順調だね。だから、様付けも早くやめよーね」

「いきなりは無理ですって!」

「なんで? ほら言ってみてよ」

「は?…それは…」

「早く早く」


 急かされて口を紡ぐ。完全に遊ばれているのはわかっていた。でも、これ以上は弄ばれないんだから!


 私は意を決して口を開く。



「ヨーゼフ……………様」


「はい。ダメ~」


「んっ!」



 結局、呼び捨てにするのは難しく夜な夜なヨーゼフ………様のお勉強は続いた。



ヨーゼフについてはあとがきでもう少し詳しく設定を書きます。

次はミランダ&アルファです。

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