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28.いざ、誕生日パーティーへ!

「いかがですか? ミランダ様」

「素敵です…アリアさん。本当に…」


 鏡に写し出された私はまるでお伽噺話に出てくるお姫様のようでした。


 ボールガウンドレスは淡い桃色をベースに細やかな花の模様が施されています。

 ウエストラインを細く魅せるために、腰からはふわりとボリュームたっぷりなチュールやレースが幾重に重ねられていました。

 デコルテは少し大胆に、深いタイプで肩紐がないもの。その代わり、小粒の宝石がいくつも散りばめられたネックレスが首もとを彩り、品のよさを演出しています。


 このネックレスはララお母様からお借りしたものです。”娘時代に両親から贈られたものなの。娘ができたら、贈りたかったものよ。使ってみて”と言われました。娘と呼ばれたことに感動しながら、私は有り難くお借りしました。


「こんな素敵なドレスが着られるなんて…」

「とてもよくお似合いですよ。アルファ坊っちゃんもきっと、見惚れてしまいます」

「そうだといいんですけど…きっと、アルファ様に私が見惚れてしまいます…」

「まぁ、ふふっ…」


 アリアさんには笑われてしまいましたが、燕尾服を着たアルファ様など、ちゃんと見られない気がします。背の高いアルファ様の正装姿…あぁ、直視できるでしょうか…今からドキドキしてきました。


「さぁ、お支度が終わりましたよ。ホールへ行きましょう」

「はい…」


 玄関ホールでは皆様がお揃いでした。


「遅くなりまして、申し訳ありません」

「まぁまぁまぁまぁまぁ! 素敵よ!ミランダさん!」


 ララお母様に真っ先に詰め寄られキラキラとした眼差しをされます。その勢いに押されつつ笑顔を見せます。


「ありがとうございます。ララお母様にお借りしたネックレスも素敵で…自分が自分じゃないみたいです…」

「そんなことないわよ! ミランダさんは可愛いもの! 自信を持って! あ、ちょっと、アルファ! 何、固まってるの? ミランダさんに賛辞の一つでも言いなさい!」


 後ろにいたアルファ様と目が合います。


 あ…


 燕尾服を着たアルファ様。白い蝶ネクタイ、ベスト、シャツ、ポケットのハンカチーフまで白で統一されていました。そのキリッと引き締まった白と黒のカラーがアルファ様のシャープな印象に似合いすぎています。


 あぁ、ダメ…

 やっぱり素敵すぎて直視できない!


 顔が熱くて、目を伏せました。近づいてくる足下を見ながら、ドキドキと高鳴る音を聞いていました。そして、私の少し前で、足が止まります。


「ミランダ…」


 声をかけられて恐る恐る顔を上げます。そこにはいつにもまして無表情のアルファ様がいました。固まっていらっしゃる??


「綺麗だ…」


 感嘆の声が聞こえ、ますます頬に熱が集まります。


「ありがとうございます…アルファ様も素敵です…」


 最後の方は消えそうなか細い声で言うと、そのまま俯きます。二人とも黙ってしまいシーンと、静まり返りました。


「ミランダ! 素敵よ! やっぱりピンクも似合うわね!」


 声をかけてくれたのは、真っ赤なドレスで着飾ったロンダでした。私とは違った艶やかな姿に驚いて声を出します。


「まぁ、素敵! ロンダは赤がとても似合うわ!」


 そう言うと、ロンダはニヤリと笑い、芝居がかったように大袈裟に頭を下げます。


「今宵はどうか私と共に、パーティーへ行ってくださいませんか? 可憐なお嬢様」


 手を出したロンダがウィンクをします。それに笑いながら、手を取りました。


「えぇ…ぜひ、お願いします」


 そのまま二人で馬車に乗り込みます。


「もう! アルファったら! ロンダさんみたいにエスコートができないの!?」


 後ろからララお母様の声が聞こえ、私達は顔を見合わせて笑ってしまいました。



 ◇◇◇



 馬車は軽快に走り続けました。四人がけの馬車にはロンダと私が並んで座り、アルファ様は対面に座っています。

 窓の外の夜景を見ながら私達は絶えることのないおしゃべりをし続けました。


 そして、あっという間にパーティー会場である王宮に辿り着きました。


「まぁ…」


 初めて見る王宮は物語に出てくる舞台そのもので、その美しさに息を飲みました。


「ミランダ、手を」

「あ、はい…」


 先に馬車を降りたアルファ様に手を差し出され、手を重ねました。馬車を降りると、アルファ様に「ありがとうございます」と伝えます。


「あ、いたいた~。久しぶり」


 馬車を降りた先にヨーゼフ様がいらっしゃいました。笑顔で近寄って来たヨーゼフ様は私を見ると優雅にお辞儀しました。


「これはこれはミランダ嬢、ご機嫌麗しく。今宵の貴女はどの花も霞んでしまうほどの美しさですね」

「まぁ…ふふっ。ヨーゼフ様も素敵です」


 微笑んでお返事すると、ロンダが馬車から顔を出します。


「あら、ヨーゼフ様、いらっしゃるの?」

「!?」


 ロンダを見るとヨーゼフ様はびっくりした顔をされて、ロンダに近づきます。


「お手をどうぞ、ミス・カリム」

「あ、ありがとうございます…」


 ロンダは頬を染めながら、ヨーゼフ様のエスコートを受けました。出てきた二人を微笑みながら見つめていたのですが、どうもヨーゼフ様の様子がおかしいです。ムッとした表情をされています。


「ちょっと、露出が高すぎない?」

「は?」

「こんなパーティーなんてお見合いの場も兼ねているんだから、危険な狼がいっぱいなんだよ? わかってる?」

「そんな…私みたいな小娘、相手にされませんよ」


 へらへらと笑うロンダにヨーゼフ様はいつになく真剣な表情で言います。


「少なくとも俺は君を小娘だなんて思ってない。俺みたいに不埒な目で見る奴がいるんだから、絶対に俺のそばを離れないこと。いいね?」

「…はい」

「うん。いい子」


 笑顔が戻ったヨーゼフ様に連れられて二人が歩き出します。その後、私達も歩きだしました。


「確かに…不埒な目で見る輩がいるかもな…」

「え…」


 アルファ様を見上げると熱のこもった眼差しを向けられます。


「今日の君を誰にも見せたくはない。閉じ込めておきたいくらいだ…」


 熱い火傷しそうな言葉に目眩がします。その熱を感じたまま、自然に腕を組んで歩き出しました。


「ミランダ、決してそばを離れるな…君がいなくなったら、我を忘れそうだ」

「わかり、ました…」


 組んだ腕が熱くて私はやっとのことで言葉を紡ぎました。



 ◇◇◇



 パーティー会場に入った私はその輝かしさに圧倒されました。多くの人が笑顔で語り合っています。女性は競うように美しく着飾っており、眩しくて目がチカチカしてしまいます。


 一歩、前に進んだとき、近くにいた人々がこちらを見ました。その数が尋常ではなかったので、一瞬だけ怯みます。好奇の目の数々、こちらを見て囁きあう人々。注目され慣れていない私にとっては針のむしろです。


 少し前の私なら逃げ出していたでしょう。でも、私には家庭教師のマチルダ先生の教えがあります!


『ミランダ様。貴女にとって一番の敵は貴女自身の臆する心です。奥ゆかしいのも華ですが、時には背筋を伸ばし堂々とした振る舞いが必要です』


『特に社交界は本音を上手く隠す場所。貴女は次期伯爵夫人になる人です。好奇の目に晒されるでしょう。しかし、臆してはいけません。背筋を伸ばし、足がすくんだら、深呼吸を五回するのですよ』


 一、二、三、四、五…


 深呼吸して顔を上げます。正直、まだ大勢の人の目に晒されるのは怖いです。でも、私は一人ではありません。


「ミランダ、大丈夫か?」


 すぐ隣には、大好きな人がいます。後ろを振り返ってくれる姉も、私を応援してくれる人もいます。だから、大丈夫。


「はい、アルファ様」


 そう笑顔で答えると、アルファ様が目を細めて微笑んでくださいました。足並みを揃えて歩き出します。組んだ腕が少しだけより引き寄せられたような気がしました。



「おや、噂の御仁ではないですか」


 にやりと不敵な笑みを浮かべてやってきたのは銀髪の端正な顔立ちのおじ様でした。どこかで見たことがあるような感じがします。どなたでしょうか…?


「からかわないで下さい。ミューゼル子爵」


 ミューゼル子爵…え!? ヨーゼフ様のお父様!? どうりで見たことがあると思いました。


「こちらが噂のお嬢さんかな?」

「初めまして。ミランダ・カリムと申します」

「初めまして…ふむ。噂にたがわず美しいお嬢さんだ。アルファ君が骨抜きになるのも無理はない」

「そんな…」

「はっはっは。愚息が大変お世話になっているようで、迷惑をかけてないかい?」

「いえ、とんでもないです! ヨーゼフ様は色々なことを教えてくださいます。私の先生です!」


 つい力を込めて言ってしまいました。ヨーゼフ様のお父様がキョトンとされています。わわわ、ちょっと言い過ぎてしまったかしら…


「はっはっはっ! 美しいだけではなく面白いお嬢さんだ。あの愚息が先生とは…いや、いいお嬢さんを見つけましたな」

「はい。自分でもそう思います」


 アルファ様が優しい眼差しで私を見ながらそう言うと、ヨーゼフ様のお父様は豪快に笑いました。


「ところでうちの愚息を知らないかい? 会わせたいお嬢さんがいると聞いていたのだが…」

「俺ならここに居るよ」


 人混みをかきわけながらヨーゼフ様とロンダがやってきます。


「ロンダ、これがうちの放蕩オヤジ」

「え!? お父様ですか? は、初めまして、ロンダ・カリムです」

「おや? 君たちは双子なのかい?」

「「はい。そうです」」


 思わず重なった私達の声。それに驚きながらロンダと顔を見合わせます。


「はっはっはっ。いや、実に素敵なお嬢さん方だ。それにしても、ヨーゼフ。放蕩オヤジはないだろう?」

「何言っての。兄上にさっさと爵位を継がせて自分は世界中を回る気でしょ?」

「それはその通りだが、まだ継がせてはないぞ?」

「今、領主の仕事をほとんど押し付けられているって兄上がぼやいてたよ」

「はっはっはっ。経験させてやっているだけだ」


 実に豪快なお父様です。それに世界中を回りたいというのは、もしかして…


「ミューゼル子爵。申し訳ありませんが、陛下に挨拶してきたいので、私達は失礼します」

「あぁ、そうか。ではな」

「失礼します」


 アルファ様に続いてお辞儀をした後、歩き出します。少しだけ後ろを振り返ると、ロンダがヨーゼフ様のお父様と楽しげに話している姿が見えました。それにホッと胸を撫で下ろします。


 よかった…ロンダもヨーゼフ様とうまくいけばいいな…


 アルファ様と人混みを避けながら前に進みます。


「ミランダ、今から陛下に会うが、たぶん悪い人ではないから、安心していい」

「アルファ様が子供の頃からのお知り合いだと、ララお母様からお聞きしています」


 そう言うとアルファ様は珍しくうんざりした顔をしました。


「あぁ…父上と旧知の仲でな…色々されたよ。本当に…」


 …アルファ様が遠い目をされている。どんな方なのかしら? 豪快な方だと聞いてはいるけど。


 そうこう考えているうちに陛下の近くにやってきました。誰かと談笑していましたが、こちらに気づいて声をかけてくださいます。


「よぉ、アルファ。来たか」


 豪快な方と言われる陛下。その方の見た目は火をはく竜をも倒しそうなくらいがっしりとしていました。


ワイワイしているパーティーシーン始まりました。

たくさんキャラが出てきますが、お楽しみ頂ければ嬉しいです。


次の更新はあさってになります。


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