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【小話】天使の昼寝 sideアルファ

テントのくだりを修正しました。

 ミランダの思いや不安を話した後、体を温めるためにお茶を飲むことなった。本当にミランダがお茶を淹れてくれたから驚いた。懸命に思い出しながら、少し難しそうな表情でお茶を淹れる姿は可愛らしく、それだけで胸がいっぱいになった。


 幸せな空気に包まれたまま、ミランダと色々な話をした。子供の頃、家出を繰り返していたなど、今のミランダからは想像できない話だ。そんなお転婆な時代のミランダもさぞ可愛かったんだろうなと想像してしまう。


「テントが私の秘密の場所です。おしゃべりの練習もそこで…」


そこまで言うと、ミランダはしまったという顔をした。


「おしゃべりの練習?」


問いかけるとミランダが話し辛そうに口ごもる。一呼吸おいて、観念したのかミランダが口を開いた。


「その、お話が上手になりたくて練習していました。…アルファ様にはあまりしないでと言われましたが、やはり上手になりたくて…ごめんなさい…」

「………」

「あ! でも、ちゃんと誰にも見られない所でしましたよ? それにテントの中でアルファ様の肖像画に話しかけていると、寂しい気持ちも薄れていって嬉しかったんです」

「………」

「…その、許してくださいますか?」

「………」

「………」

「…いや、謝る必要はない」

「よかった~」


 ふふっと弾みそうな笑顔で言われて私は思考が停止した。


 なんだ?

 なんだ、この可愛さは。

 こんな可愛い人がいるのか?

 いや、いないだろう。

 じゃあ、ミランダは人ではないのか?

 人ではないとしたら、なんだ?


 ――――天使か!


 いや、それなら色々と辻褄が合うのではないか? 可愛すぎるのも納得がいく。

 …だが、天使ならばそのうち羽で飛んでいってしまうかもしれない。それは困る。非常に困る。私は飛べない。飛ぶことは練習ではどうにもならない…よわった。


「アルファ様?」

「…すまない。あまりにミランダが可愛くて天使かと思ってしまった」

「天使ですか?」


 ――しまった。変な奴だと思われた。


 いきなり、天使だと言われたら戸惑うに決まっている。どうしたものか…

 言い訳を考えていると、ミランダが変わらない笑顔で言う。


「ふふっ。本当に天使だったら、素敵ですね」


 馬鹿にすることもなく、変な眼差しを向けることもなく、ただミランダは微笑んでいた。


「天使だったら、アルファ様のお仕事先にでも飛んでいけますね」


 窓から降り注ぐ太陽の光がキラキラと粒子を交えてミランダを照らしている。その姿がミランダに羽が生えたようで、本当に天使に見えた。


「本当に天使だったら困る。愛想を尽かされた時に飛んでいってしまう」

「まぁ、私がアルファ様に愛想を尽かすのですか? あり得ませんわ」


 ミランダが頬を膨らませる。そして、視線を外された。


「こんなに好きですのに…」


 伏し目がちにされた顔は赤く染まっていた。それが艶っぽくてドキリとする。言われた言葉もあってか、心臓は早くなるばかりだ。


 ――あぁ、本当に君って人は…


 どこまで私を惚れさせる気なんだろう。

 ミランダへの思いを上手く言葉にできない。

 好き、愛してる…

 そんな言葉では伝えきれないほど溢れている。その気持ちが伝えられないことが、もどかしくて、ついキスをせがんでしまう。


「ミランダ…キスをしてもいいか?」

「え…」

「言葉で表せない君への思いを伝えたい。ダメだろうか?」


 我ながらズルい言い方だ。彼女が断らないことを見越して言っている。だが、どうか許してほしい。こんなにも君のことが愛しくてたまらないのだから。


「お茶…冷めてしまいますわ…」


 明確な拒否はされなかった。ミランダの手がティーカップから外される。


「冷めてもいい。君が淹れてくれたものだ。冷めても美味しい」


 絡まる視線。ミランダはいつもキスをする時、数秒だけ私を見つめる。恥ずかしさを堪えて、そっと目を伏せられた。それが合図。彼女に見られないように笑って、その愛らしい唇へキスをした。



 幸せで目眩がしそうだ。

 この一瞬が永遠に続けばいい。

 そんな愚かなことを考えてしまう。


 熱く淹れられたお茶が冷めきってしまうまで、私はミランダへの口づけを止めなかった。



 ◇◇◇



 冷めたお茶を飲み干して片付けていると、ドアがノックされる。


「失礼します…」


 ものすごく中を伺うようにロンダが顔を出した。


「ミランダ…家庭教師のマチルダ先生がいらっしゃったわよ」

「いけないっ…アルファ様、マチルダ先生がいらしたので、勉強してきますね」

「あぁ、待ってる」


 ミランダは微笑み頷いた。歩き出したミランダにロンダ嬢が言う。


「お邪魔にならなくって本当、よかった~」


 心底ホッとした声にドキリとした。彼女を見ると、視線が合った。ニヤリと笑われ行ってしまう。

 扉が閉まると、私は大きく息を吐き出した。


「はぁ…」


 ロンダ嬢の言いたいことは分かっている。昨日の私の態度は反省すべきだ。いくら呑まされたとはいえ、酒の力は恐ろしい。


 もし、ロンダ嬢がこなかったら…

 私は部屋でミランダに何をした?


 あまり考えたくはないがミランダを酷く傷つけたかもしれない。だから、ロンダ嬢が来てくれて本当に助かった。

 本当に酒は恐ろしい。ただでさえ、ミランダがそばに居るだけで崩れる理性なのに、酒が入るとその僅かな理性すら崩れさる。


 ミランダがここにいるうちは酒を呑まないようにしよう。


 そう決意して、椅子に座った。


「はぁ…」


 昼間の日差しが暖かくて気持ちがいい。昨晩はあまり眠れなかった。こうしていると、つい瞼が下がりそうだ。ウトウトしてしまうのが嫌で、本を読み出す。頭に入れようと文字を追うが頭の中はミランダのことでいっぱいだ。


 ミランダが、泣いて打ち明けてくれた言葉が脳裏に過る。


 ――アルファ様のキスが嬉しくて…

 ――どこまでも溺れそうで…


 あの告白が震えるほど嬉しかったなど、ミランダには伝わってないだろう。最愛の姉との別れがあっても、私との結婚を選んでくれた。

 それがどれだけ嬉しかったか…

 幸せにしたい。

 私の持てる全てを持って。

 そう、強く思ったのだ。



 木漏れ日が本に葉の影を落としていく。しかし、私はそれに気づかなかった。視界はぼやけ、そのまま黒に染まる。


 眠ってはダメだと、思っているのに、睡魔に抗えず、私は瞼を閉じていた。



 ◇◇◇



「んっ…」


 太陽がオレンジ色に染まる頃、私は目を覚ました。ぼやけた視界に何かがうつっている。膝にあたたかく柔らかい感触。


「っ!」


 その姿を見て飛び起きそうになるのを必死で堪えた。背もたれから背中を離すと、肩に掛かっていたものが落ちる。

 その音で膝にもたれかかっていた人物が身じろぎした。


「んっ…」


 ドキドキと高鳴る心臓のまま、その人の姿を見つめる。よく寝ていた。


「はぁ…」


 安心なのか心を静めたいのか、それともどちらもなのか、よくわからないため息が出た。


 なぜ、ミランダが私の膝で寝てる…


 状況から察するに、家庭教師の勉強を終えたミランダが部屋に来て、寝ている私の肩と膝にブランケットを掛けてくれたのだろう。そして、考えると恥ずかしいが、私の寝顔を間近で見ていたのではないだろうか。そして見ているうちに寝てしまったと。たぶん、そういうことだろう。

 ミランダは泣き腫らした目をしていた。昨日のことでよく眠れなかったんだろう。


 しかし…どうする、この状況。


 動くに動けない。このままだと彼女が風邪をひいてしまう。ベッドに運ぶべきだろう。


「………」


 寝息を立てて眠るミランダは年相応のあどけなさがあった。その寝顔に心臓は高鳴っていく。

 ずっと見ていられるが、このままではやはりダメだ。ミランダを起こさないように慎重に体を動かす。どうにか彼女を抱きかかえ、ベッドに運んだ。

 よほど熟睡しているらしく、ミランダは起きずにそのまま眠り続ける。

 ベッドに(ひじ)を立ててそれを見つめ続けた。


 ――可愛い。ずっと見ていられる。


 端から見たら恐らく自分は変な奴だ。それでもいい。この天使の寝顔を見ていられるなら。


 起こしたくないのに、触りたくて仕方ない。少しだけ、指の関節で頬に触れた。柔らかい…

 あぁ、ダメだ。

 キスしたい…


 あんまりキスばかりしていると、そのうち「キスしたいだけなんですか?」と怒られてしまうかもしれない。それは嫌だ。絶対に。

 でも、キスしたい…


 結局、堪え性のない私はミランダのおでこに触れるだけの軽いキスをした。


 その後、起きてトロンとしたミランダの唇にもおはようのキスをしたのだった。



次回から誕生日パーティーシーンに入ります。

主要キャラ全員集合です。

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