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23.突然のお誘い

「素敵! 素敵すぎるわ、ミランダ様!」

「ありがとうございます」

「ミランダ。こっちも着てみなさい」

「はい、お母様」

「ミランダにはこっちのピンク色のも似合うと思うわ」

「ありがとう、ロンダ」


 今日は伯爵夫人と、お母様、それにロンダの四人で結婚式に着るウェディングドレスを選びに来ています。素敵なものばかりで、私一人では選びきれません。皆さんが付き添ってくれて本当に有り難いです。有り難いのですが…


「やっぱりこの赤もいいわぁ~!」

「ミランダにはオレンジが似合いますよ?」

「ピンクです!ピンク! この可愛らしさがミランダにぴったりです!」


 もうかれこれ三時間は経っているのですが、いっこうに決まりません。どれもいい!と誉められては、また着替えての繰り返しです。


「お母様、こうなったらミランダには、いいもの全部、着せちゃいましょう」


 ロンダがとんでもないことを言い出します。全部はちょっと…


「ロンダ、全部着せたら結婚式ではなく、ファッションショーになりますよ」

「あら素敵! やりましょう、ファッションショー」


 話がよく分からない方向に進んでおります。目の前で繰り広げられる光景に口を挟めません。どうしましょう…


「お客様…」


 衣装をだしてくださる店員の方が私に声をかけました。


「お客様はどれかお気に召したものはないのですか?」

「あ、えっと…」


 実は気になっているのが一つあります。オレンジ色のドレスでカーネーションの花がさりげなくあしらわれているもの。皆が勧めてくれるものよりは控えめなデザインだけれども、オレンジ色のカーネーションは私にとって特別だから、とても気になっていました。


「ミランダも気になるのがあるの?」

「え? そうね…」

「あ、このドレス? オレンジ色でカーネーションの花があるのね…素敵じゃない!」

「うん…」


 ロンダの声に気づいたお母様と伯爵夫人も「いいわ」「素敵よ」と言ってくれました。


「ミランダが気に入ったのなら、これにすれば?」

「でもせっかく皆さんが選んでくれているのに…」

「あら、それじゃあ、もう一着選んで、パーティーにでも着ていきます?」


 伯爵夫人がにこりと笑って突拍子もないことをおっしゃいます。


「今度、陛下の誕生日パーティーがあるのよ。アルファも私も呼ばれているし、ミランダ様もぜひ一緒に」


 陛下の誕生日パーティー!?

 そんな、畏れ多いところに私が…?

 そんな、そんな…


「でも、パーティーなど…」


 そう言ってはっと気づきます。


 アルファ様も伯爵夫人も呼ばれているってことは、それがきっと普通なんだわ…。

 アルファ様は高位貴族という雰囲気をあまり感じさせないお方だから今までは私が気づかなかっただけ。

 きっと結婚すればそういう場所にも出る機会が増えるはず。その時にアルファ様に恥をかかせないためにも、しっかりしなくては。

 私は顔を上げて伯爵夫人に言います。


「宜しければ、ご一緒させてください。でも、私は礼儀もダンスも未熟ですが…パーティーまでにたくさん練習します!」


 決意だけは伝わるように伯爵夫人の目をまっすぐ見つめて言いました。伯爵夫人はとても嬉しそうに微笑んでいます。


「ミランダ様ならそう言ってくれると思ったわ。及ばずながら、力を貸しますわ。私が礼儀もダンスも教えるというのはどうかしら?」


 思ってもみない提案に私は目を見開きました。伯爵夫人はごくごく普通のことのように続けます。


「カリム男爵夫人のご指導でも充分でしょうけど、結婚する前に少しでもうちのことが分かっていれば、新婚生活もスムーズだと思うの。だから、パーティーが始まるまでの二週間ほど、うちに来ませんか? もちろん、ロンダ様も」

「私も…ですか?」

「もちろん。ダンスパーティーに花はいくつあってもいいものよ。ぜひ、いらして」

「でも…」


 口ごもるロンダに伯爵夫人が耳元で何かを囁いてます。私には聞こえない声で。伯爵夫人が離れると、ロンダはキリッとした表情で夫人を見ました。


「ぜひ、私も行きます!」


 ハッキリとした声でいうロンダに驚きましたが、ロンダが一緒なら心強いです。

 …ってダメね。ついロンダを頼ってしまう。強くなりたいって思ったばかりなのに。


「カリム男爵夫人。お嬢様方をお預かりしますね」

「伯爵夫人の心遣いありがとうございます。娘達を宜しくお願いします」

「任せてください。さぁ! そうなったら、明日にでも迎えにくるわね! いけない。お迎えの準備をしますから、これで失礼しますわ!」


 バタバタと慌ただしく伯爵夫人は帰ってきました。それに呆気にとられていると、ロンダがこっそりと言います。


「お屋敷に行くなんて知ったら、アルファ様、びっくりするんじゃない?」


 そうだわ。アルファ様もお屋敷に当然、帰ってくるのよね…おかえりなさいって出迎えられるかしら…

 そんな事を考えていると、ポッと顔が熱くなります。なんか、結婚したみたいだわ。でも結婚したら…おかえりなさいませ、旦那様よね…

 そこまで考えて首を振りました。想像すると恥ずかしくて、いてもたってもいられなくなるからです。


「喜んでくださるかしら…」

「なに言ってるの! 喜ぶに決まってるわ。せいぜい甘々な所を見せつけてよね。冷やかしてあげるから」


 にやっと笑ったロンダに私は笑ってしまいました。

 こうして、私達二人は伯爵夫人の元へ行くことになったのです。



 ーーーーー



 その夜、私はアルファ様に手紙を書くために机に向かいました。アルファ様は結婚が決まるとますますお忙しいようで、手紙のやりとりは前ほど頻繁ではなくなっていました。

 エミリアちゃんが「死ぬほど仕事をして頂きます」と言っていたので、本当に忙しいのでしょう。体を壊したりしないか、心配です。

 ふぅと大きく息を吐いて便箋にペンを走らせます。


『アルファ様へ


 今日はアルファ様のお母様とお母様とロンダで結婚式の衣装を選んできました。私の好きなオレンジ色のカーネーションがモチーフとなっているものです。


 私にとってオレンジ色のカーネーションは、アルファ様からの初めてのプレゼントで思い出深いものです。大切な思い出の花を身につけてアルファ様の横に立てる日が今から楽しみです。


 そうそう、アルファ様のお母様に国王陛下の誕生日パーティーにお誘い頂きました。私は礼儀もダンスも未熟なので、アルファ様のお母様が教えてくださることになりました。

 明日からアルファ様のお屋敷にロンダと一緒に向かいます。

 次にお会いできるのは、お屋敷ですね。今から楽しみです。お帰りをお待ちしております。


 どうか体にはくれぐれもお気をつけてください。


 ミランダ・カリム』



 ーーーーー



 そして、二日後…

 私は伯爵夫人に連れられて、お屋敷へと向かいました。ここに来たのは二回目です。前はそう、夫人に身代わりのことを話した時。覚悟を決めたその日に立った場所に、今度は違う覚悟で立っている。とても不思議な気分でした。


 広いお屋敷を案内され向かったのは、一つの可愛らしいお部屋でした。


「まぁ…」


 淡いグリーンの壁紙に、天井には愛らしい天使の絵が部屋を見守るように描かれてありました。白い窓枠には細やかな蔦の装飾がされており、四角く大いな窓は外からはお庭の様子がよく見えました。


「可愛らしいお部屋」

「ふふっ。ここはね、アルファが子供の頃使っていた部屋なの。今は使ってないけど、可愛いからそのままにしてあるのよ」

「アルファ様の…」


 子供の頃のアルファ様を想像して胸があたたかくなります。調度品は古いものが多かったのですが、丁寧に使われた形跡があり、使っていた人の性格が伺えました。


「素敵なお部屋を私達が使ってもいいのですか?」

「もちろん!」


 伯爵夫人はにこりと笑って言います。


「あなた方はお客様ではないのですから」


 その一言が身内として見てもらえていることを意味して、胸が熱くなります。


「伯爵夫人、これから宜しくお願いします」

「まぁ、これからはあなたが伯爵夫人になるのよ? ふふっ。私のことは…お母様と呼んで貰えると嬉しいわ。ああ、でもカリム男爵夫人とかぶってしまうわね…」


 なにか閃いたようで、伯爵夫人がパンっと手を叩きます。


「そうだわ。私はララという名前なの。だから、ララお母様と呼んで貰えると嬉しいわ」


 まるでポカポカの太陽のような笑顔で言われました。私はもちろん笑顔でお返事です。


「はい、ララお母様。どうか宜しくお願いします」

「きゃー! 可愛いっ! 女の子ってほんといいわ! ロンダ様も、気軽にララと呼んでくださいね」

「はい、ララ様」

「きゃー! 二人とも可愛いわ! あなたたちが来てくれて本当に嬉しい!」


 ララお母様に二人まとめて抱きしめられ、私達は顔を見合せ微笑みあいました。


 今日は移動で日が暮れてしまったので、パーティーの練習は明日、ということになり、私達は用意された大きめのベッドで枕を並べて眠ることにしました。


「なんか、ミランダとこうして並んで寝るのっていつぶりかしらね?」

「そうね…小さいときもあまりなかったわね」


 よく熱を出してはベッドで過ごしていた幼少期。ごくたまに、体調が良いときや嵐が来て怖いときは、こっそり寝ていったっけ?


「ふふっ。ロンダと寝るときは特別な魔法にかかったみたいでいつもワクワクしたわ」

「私も! なかなか眠れなくて二人でたくさんおしゃべりしたわね。それで起きられなくて、いつもお母様に叱られていたわ!」

「ふふっ、本当に懐かしい…またロンダと眠れるなんて夢みたい」

「そうね…」


 そう言うとお互いに見つめ合いながら黙ってしまいます。ロンダが少し切ない表情で私を見ています。きっと、私も同じような顔をしているはず。

 懐かしさと同時に、この後にくる別れをどうしても考えられずにはいられなかったからです。


「おやすみ、ミランダ」

「おやすみなさい、ロンダ」


 私達は手を握りながら、目を閉じました。



結婚準備編スタートです。

毎日は難しいですが、日をおかずに更新できればと思ってます。


次はアルファ視点です。

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