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21.どうか結婚してください sideアルファ

 時々…いや、かなりの確率でミランダは私の想像をはるかに越える行動や言葉を言うことがある。それが私を思ってのことだということは充分、理解できた。それに振り回れされつつも、ミランダがしてくれることは、私にとってどれも喜びだった。


 だが、「結婚してくださいませんか?」の言葉はいくら私でも思ってもみないことだった。


 嫌というわけではない。それは決してない。ただ、私達は正式に婚約してから、二ヶ月経ってない。母上も男爵夫人も早くとは言っていたし、結婚するのに障害はないだろう。だけど、結婚とは、婚約とは違ってそうそうに破棄できないものだ。ミランダと離縁するかもしれないとかそうことではなく、それは決してないのだが…


 ダメだ。衝撃的な言葉に混乱している。


 ミランダを見つめると、頬を赤く染め、私を見つめている。困った。そんな顔をしないでくれ。


「ミランダ…結婚というものが分かっているのか」

「分かってますわ」

「いいや、君は分かってない」


 ミランダを掴む肩に力がこもる。


「結婚すれば、私の領地に行かなければならない。君は大切な両親や姉と別れることになる。私の領地と君の家は遠く離れている。一度、離れてしまえば、そう簡単には帰ってこれなくなる」


「それに、私は結婚したら爵位を継ぐ、今よりも仕事しなければならず、屋敷に戻れない日々もきっと多い。きっと、寂しい思いをさせる。その時、そばに君を支える家族はいないんだ。むこうで友人もできるだろうが、君の姉ほど心打ち解ける者がいるかどうか分からないんだぞ!」


 強めた語気にミランダがビクリと震えた。悲しそうに目を伏せる。それに心が痛む。


「ミランダ…私は結婚したくないわけじゃない。ただ、君が心配なだけだ」


 そっとミランダを抱き寄せる。優しく包み込むように。


「君に寂しい思いをさせているのは、本当にすまないと思ってる…だけど、結婚してさらに寂しくさせるのではないかと、心配だ。君はまだ若い。やりたいこともあるだろう。なにも急ぐことはないんだ。君が望むなら私はこのままでも…」


「アルファ様…」


 静かにミランダが離れていく。そして強い意思のこもった目で私を見据えた。



「アルファ様は私と結婚したくないんですか?」



 その一言に言葉を失う。ミランダはさらに冷静な声で告げた。


「アルファ様が私を思ってくださっているのは分かります。それは嬉しいです。でも、私はそんなものは取っ払って、アルファ様自身に問いかけているのです」



「アルファ様、私と結婚してくださいませんか?」



 笑ってミランダはそう言った。

 いつからだ。いつから、君はこんなに強く美しい顔をするようになった?

 私が気づかなかっただけなのだろうか。

 君は私が思っているよりも、ずっと強いのかもしれないな…


 もう、色々考えて込むのはやめよう。私はただ、純粋に君と結ばれたい。


「結婚したい」


 そう言い、彼女に膝まずいた。見下ろすような態度ではなく、彼女を見上げ、その愛を乞うような態度をとる。

 私の行動にミランダは驚いたのか、目を開いている。それに笑って、彼女の手をとった。


「ミランダ・カリム嬢。どうか、私と結婚してください」


 その言葉に彼女は花のように笑った。


「はい! 喜んで!」


 そして、私の首に抱きついてきた。それに驚きつつも、彼女を支えるように背中に手を回す。


「愛しております、アルファ様」


 その言葉にミランダを抱きしめる手が強まった。


「あぁ、私もだ」


 その言葉にミランダも私を抱きしめる手を強めた。



 ーーーー


 その後、私達は他愛ない話をして、町を歩いた。時折、隠れてキスをして、微笑み合った。ミランダと結婚できるとあって、私は完全に浮かれていたのだ。幸せだった。手が届くところにミランダがいて、彼女が微笑んでくれる。それだけで、何も欲しくはないほど、私は満たされていた。


 遅くなるといけないので、馬車で彼女を送る。馬車はエミリアが用意してくれたらしい。まったく、彼女はこういう所はぬかりはない。そして、町までではなく、彼女の家まで送ることにした。


 彼女の家に着くと待女がいた。二人は抱き合って、ミランダは泣いていた。ごめんなさいと。私からも謝った。彼女を帰せなかったのは、私のせいだと深く詫びた。待女は微笑んで、許してくれた。


「アルファ様が紳士的に接してくださると信じておりましたから。なんの心配もしておりませんよ」


 その言葉にチクリと心が痛んだ。決して私は紳士的な態度ではなかったから。


「ねぇ、ばあや! 私、アルファ様と結婚のお約束をしたのよ!」

「けっこん、ですか?」

「はい。ミランダに正式にプロポーズしました。まだご両親にはご報告できていませんが、私の両親に話した後、正式にご報告をさせて頂きます。あなたはミランダの祖母のような方だと伺っております。だから、まずはあなたにご報告をと思いまして」

「まぁ、まぁ…」


 侍女は驚きと喜びで泣いていた。


「私が最初に知れるなんてもったいないです。ミランダお嬢様。本当に本当におめでとうございます」

「ありがとう、ばあや!」


 二人は涙を流して抱き合っていた。


「では、近いうちに必ずまた会おう」

「はい、アルファ様」

「挨拶の日が決まったら、また連絡する」

「お待ちしておりますわ」

「じゃあ、また」

「ええ…」


 ミランダの頬にキスをして、馬車を出した。ミランダは私が遠く見えなくなるまで手を振っていた。



 ーーーーー



 私はその足で自分の領地に向かった。父上はいないかもしれないが、母上だけにでも報告せねば…まぁ、母上なら何の問題もないか。きっと…


「ほんとに! ほんとのほんとのほんとに! ミランダ様と結婚するのね!!」


 やはり、物凄い勢いで詰め寄ってこられた。


「はい。ミランダに正式にプロポーズしました」

「ふふっふふふふふふっ」


 母上、その顔は不気味すぎます。


「やっぱりね! 半年後には結婚してると思ったのよ! あら? でもこのままだと、半年よりも短くなるかしら?」


 言葉も出ない。私だって、もう少し後だと思っていた。


「ふふっ。私は分かっていたわよ。あなた達がすぐ結婚するだろうって。だって、あなたはミランダ様にベタ惚れだったし、我慢できないだろうなって思っていたの。ふふふっ」


 まさかミランダに押しきられる形でプロポーズしたとは言えないな。


「さぁ、これから忙しくなるわよ! ミランダ様の花嫁衣装も選ばなくてはいけないし、狐狩りもしなくてはいけないしね」

「狐狩りですか?」


 母上に狩猟の趣味などあっただろうか。

 思い出したていると、母上は姿勢を正して告げる。


「あなたには伝えてなかったけど、あなたの縁談は実際にしたよりも多くの縁談があったのよ」

「は?」

「当然よ。伯爵夫人なんて地位、欲しい人はいくらでもいたのよ。お金はあるし、あなたは忙しい。世継ぎさえ産んでしまえば、後は、愛人を囲みたい放題ですものね」


 母上がにっこりと笑った。


「そんな女狐達は私がそうそうに追い払ったわ。可愛い息子が喰い者にされるところなど見たくはありませんから」

「しかし、ミランダ…いえ、ロンダ嬢との婚約は母上がカリム男爵に泣きついたと聞きましたが…」

「ええ、泣きつきました。まだ婚約など早いと言ってらしたからね。泣き落としましたよ。三時間かけて」

「…………」

「あそこの家のお母様は、私の親しい友人の妹の家庭教師をしていらしたんです。友人の話ではとても立派な方だと。その方が育てた娘ならきっと安心だわと思ったのよ」


 にこりと笑う母に何か黒いものが見えた気がした。


「無事、婚約をすませた所でまた狐達が騒ぎ出したのです。何度、お茶会に招かれたことか。話の内容はもちろん、ミランダ様のことよ。まぁ、にこやかにミランダ様がいかに可愛く、健気で、素晴らしいか、もう結構ですと言われるまで話してきたけど」


 ふふっと笑う母上に唖然とした。


「アルファ」

「はい」

「社交界ではあなた達の話でもちきりよ。結婚するとなれば尚更ね。暇な貴族達が色々と騒ぎ出すかもしれないわ。だからね、アルファ」


「あなたは誰にも文句を言われないように今まで以上に仕事をキッチリしなさい。あなたが怠慢な仕事をすれば、それはミランダ様の評価につながるわ。いい? あんな嫁がきたからアルファ・アールズバークはダメなんだと言われないようにして頂戴」


 その言葉に身が引き締まる思いがした。


「そのようなことは言わせません、絶対に」


 その言葉に満足そうに母上は微笑んだ。


「狐からは私が表に立つわ。ミランダ様は私が守ります」

「母上…」

「腕がなるわぁ! 私、大好きなのよ、狐狩り! 意地悪そうな狐が尻尾巻いて逃げるところなんて、さいっこうよ!!」


 母上の見たことのない恍惚とした笑顔に私は若干、引いていた。


 ともあれ、私は母上の報告を終え、カリム男爵夫妻への挨拶する日取りを決め始めた。父上にもご報告しなければな。


 そう思って、自室へと向かった。



 ーーーーー


「はぁ…」


 着ているものを寛げ、椅子に座り込む。ふと、見渡すと当然のように誰もいない。それに笑ってしまった。


 無意識のうちにミランダを探している自分がいる。彼女はもういないというのに体が探してしまうのだ。彼女のぬくもりを求めて…。手のひらをグッと握りしめる。そして大きく息を吐いた。


 結婚か…


 ………。


 今更ながら顔が喜びでにやけてしまう。「妻のミランダです」と自慢げに紹介できるのが、たまらなく嬉しい。子供か私は。


 ミランダとのめくるめく結婚生活の想像が止まらず、やはり、今夜も睡眠不足になるのだった。


プロポーズは交互に書いていって、タイミングがきた人物にしようと思ってました。なので、ミランダからになったのはミランダの強い意思があったからだな、と思っています。

次は久しぶりにロンダとヨーゼフが出てきます。

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