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20.結婚してくださいますか?

 アルファ様との少し恥ずかしい食事を終えた後、並んで町を歩き出しました。手を繋いで。

 私とアルファ様では歩幅にどうしても差がでてきてしまいます。アルファ様はそれでもゆっくり歩いてくださいましたが、どうしても私が小走りになってしまいます。


『手を繋ごう。そうすれば、二人の速度がわかる』


 そう言ってくださって、手を繋ぎました。アルファ様の手はやっぱり大きくて、私の手なんかすっぽり包み込まれてしまいます。少しゴツゴツした手は温かくて、それだけで幸せな気持ちになりました。


 手を繋ぎながら私達はお話をし始めます。今の話題は好きなものです。


「ミランダは冒険の話が好きなのか?」

「はい! 昔、冒険者のおじ様にお会いしたことがありまして、火をはく竜の話をしてもらいました。それからすっかり、夢中になってしまったのです」

「火をはく竜…確か、前にロンダ嬢が言っていたような…」

「はい。ロンダは私の代わりにいつか見に行ってくれるって言ってくれています」

「そうか…」


 アルファ様が目を細めて聞いてくださいます。それが嬉しくて、私はついつい余計なことまで、しゃべってしまったのです。


「冒険者のおじ様からは、テントも貰ったんですよ。その中が私、大好きで。宝物も置いているんです。お気に入りの本とか、アルファ様の肖像画とか」

「私の…?」


 はっ。しまった! 私ったら何を話しているの!? テントの中で、アルファ様の肖像画を見て笑ってるなんて…変な子に思われてしまうじゃない!


 どうしよう、どうしようと、ぐるぐる考え込んでいると、アルファ様が呟くように言いました。


「宝物なのか…?」

「え?」


 見上げると少し照れた顔のアルファ様が見えました。それに私も照れてきます。


「宝物です。だって、アルファ様の肖像画ですから」


 私は笑顔で言いました。だって、本当に宝物だから。いつもアルファ様がそばにいるような気持ちにさせてくれる大事な大事な私の宝物だから。


「まずいな…」

「え?」


 アルファ様が少し困ったような表情をされます。そして、私の唇をそっと触りました。


「あまり可愛いことを言わないでくれ。キスしたくなる」


 私の唇をかすめるように触れて、アルファ様はそう言いました。


 え?

 キス?


 ……………。


 えええ!?

 こんな道の真ん中で!?


 どうしましょう。どうしましょう!

 さすがに、誰かが見ている所でなんてできないわ! あぁ、でも、アルファ様がしたいって言ってくださっているのに、お断りするのはちょっと…それに、私はアルファ様の喜ぶことなら何でもしたいです!って言ったばかりじゃない。 だから、えーっと、その…


 考え込んでいた視界の先に大きな木が見えました。

 あそこなら見えないかも!

 嬉しくなってアルファ様に言います。


「アルファ様! キスするなら、こちらです!」

「えっ…」


 アルファ様の腕をぐいぐい引っ張って大きな木の影に連れ込みました。

 ここならアルファ様もすっぽり隠れているわ。覗きこもうとしなければ見えないはず!


「アルファ様! ここなら、見られずにキスができますよ」


 笑顔で言うと、アルファ様は困ったような顔をしています。


「ミランダ…」

「はい」

「君は、キスをしたいのか?」


 ん? キスしたいのはアルファ様の方じゃ…。

 そこで、はたと気づきました。これじゃまるで、どうぞキスしてくださいと、ねだっているようなものです。


 きゃぁぁ!

 私ったら、なんてはしたないことを!


 自分のしたことが恥ずかしいすぎて、うつ向いてしまいます。どうしましょう…


「ミランダ」


 声をかけられビクリと体が震えました。でも、恥ずかしくて顔が上げられません。


「顔を上げなさい」

「っ…」


 優しく言われておずおずと顔を上げます。アルファ様は笑っておられました。でも、なんでしょう。いつもと雰囲気が違います。なんていうか…少しだけ意地悪なような…。


「確かに、ここなら誰からも見れないな」

「そ、そうですね」

「じゃあ、顔をもっと上げて。キスができない」

「!…えっと…あの…」

「君が誘ってきたんだ」


 その言葉に恥ずかしさがピークに達します。自分で撒いた種とはいえ、こんな風に追い詰められるなんて…


「私が誘いましたが…その…きゃっ!」


 煮え切らない私にアルファ様はじれたのか、私を木に押し付けます。私が逃げられないように自分の両手を木に押し付けて。


「ミランダ、キスしよう」


 小声でそう囁いて、アルファ様の顔が近づいてきます。それに肩が震え、ドキドキと胸が苦しくなります。外だからか、いつもとアルファ様の雰囲気が違うからか分かりませんが、心臓が爆発しそうで、私は顔を手で隠しました。


「…アルファ様が」

「ん? 私が?」

「意地悪です…」


 そう言うと、ふっと笑われる声がしました。

 キスなら何度もしたのに、今は恥ずかしい。追い詰められているようで、苦しくてどうにかなりそう。

 アルファ様が私の手に触れます。優しくそっと、私の顔を暴いていきました。


「意地悪な私は嫌かい?」

「っ…! そんな言い方、ずるいです…」

「じゃあ、ずるい私は?」


 アルファ様の顔が近づきます。手はやんわりと握られ、もう顔は隠せません。


「その言い方も…」

「ダメかい?… 嫌いになってしまうかな」


 その言葉に私はアルファ様を睨みました。


「アルファ様を…嫌いになんてなりません!」


 そう言うと、アルファ様は笑いました。いつもの穏やかな顔で。


「そうか。ありがとう、ミランダ…」


 そう言って私にキスをしました。軽く触れるようなキスから深いキスまで。私はただ、翻弄されるばかりでした。



 ーーーーー


 長いキスが終わり、アルファ様が私を抱きしめます。


「すまない…怖がらせたな」


 私はまだキスの余韻でボーッとしていて、呟くように言いました。


「怖くなんてなかったです…ただ、ドキドキしすぎて、苦しかったです」


 先程のアルファ様を思い出してまた苦しくなってきます。こんなにドキドキしっぱなしで、こんなにアルファ様が好きになって、私は一体、どうなっちゃうんだろう…


「私もだ」

「えっ…」

「ミランダといると、ドキドキしすぎて、苦しくなる。愛しくて、離れがたくなる」


 アルファ様も? 私と同じ…?

 嬉しくて、またドキドキしてくる。


「ずっと、君と一緒にいられたらいいんだがな…」


 アルファ様の呟きに顔を上げます。


「私も! 私も、アルファ様とずっと一緒にいられたら…!」


 そうできたら、どんなにいいでしょう。

 でも、分かってるんです。アルファ様はお忙しい人。ずっと一緒なんて無理に決まってます。

 せめて昨日みたいに、アルファ様の帰りを待てたらいいのに…アルファ様の帰る場所に私が居られたら…


 そこまで考えて、気づきました。

 そうだわ。一つだけ、それが叶う方法がある。


 昨日の夜、アルファ様に「おかえりなさい」と言った時のことを私は思い出していました。

 あの時、アルファ様と家族のようになれた気がしたわ。そうよ。本当にアルファ様と家族になればいいんだわ!


 一緒に住めれば、お帰りだって待てるし、何より会いに行かなくても会えるじゃない! そうなったら、どんなに素敵かしら。


「アルファ様」

「どうした?」


 私は呼吸を整えて、真剣な顔で言いました。



「私と家族になってください」



 その言葉を聞いてアルファ様が言葉を無くします。それもお構いなしに私は立て続けに言いました。


「アルファ様がお忙しいのは分かってます。ならせめて、お帰りを待ちたいんです。今のように会いに行くのではなく、アルファ様の帰る場所に私が居たいんです! それならきっと…!」

「ミランダ、落ち着いてくれ」


 アルファ様が私の言葉を遮るように言います。私の肩に手をのせて、少し揺さぶられました。


「言っている意味が分かっているのか」

「分かっております! 家族になれば、少しは会える時間が…!」

「いや、そういうことじゃない。私と家族になるということが、どういうことかって聞いているんだ」


 アルファ様の問いかけに頭が冷えます。そして言われた通りに考えてみました。

 アルファ様と家族になる。

 それって、つまり…


「私と家族になるということは、結婚するということだぞ」


 結婚…!

 あぁ、そっか…そうよね。

 アルファ様と兄妹や親子になるわけじゃないものね。そうよね…


 ということは…

 私今、アルファ様にプロポーズしてしまったの!?


 かぁっと頬が熱くなります。勢いでとんでもないことを言ってしまった自分が恥ずかしいです。


 でも、でも、ここまできたら後には引き下がれません。


 だって、アルファ様と結婚したいか?と聞かれたら私の答えは「はい」しかないから。


「分かっております…」


 出来る限りの気持ちを込めて。

 アルファ様に思いが届くように言いました。


「私はアルファ様と結婚したいです」


「私と、結婚してくださいませんか?」




いじられキャラNo.1だと思っていたアルファが、攻める日がくるとは…想像してませんでした。

次回、クリスティヒットを受けたアルファ視点です。

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